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アフタヌーンティーセットを用意してみた。

 


 テーマはブラックアフタヌーンティー。

 皿やカップ、スタンドにカトラリーなど使用する食器はオールブラック。

 料理やスイーツも基本ブラックである点を最優先する方針だ。

 さすがに華やかさに欠けるかな? と思ってシャルロットに相談するも。

 

「全てお任せしますわ」


 ……との返答があった。

 料理上手な悪役令嬢も多いが、シャルロットの設定はしない方の悪役令嬢らしい。


 出会いの自己紹介時にお菓子作りは比較的得意であることをアピールしていたので、何時かシャルロットに食べさせようと準備していた一式を順番に取りだしてゆく。


 まずは食器類。

 紋寧自身も食べるつもりだったので、カップは二つ。

 取り皿も二つ。

 黒いグラスは難しいかな……と思っていたのだが、さすがはゲーム内の拘り雑貨屋さん。

 黒い切り子グラスが様々な用途別に売られていた。

 今回はコーラを入れようと思っているので、背の高いグラスを並べておく。

 ティースタンドは三段を一つ、中央に置く。

 真っ黒スタンドに真紅の薔薇を絡めておくのも忘れない。

 これもゲーム内特有の薔薇で、意思のある薔薇だ。

 スタンドを飾るのでよろしくと囁けば、手と足が生え、いそいそとスタンドに絡んで艶やかな花弁を広げてくれた。


 ティースタンドの一番下の皿には食事系。

 一品目はイカスミのベーグルサンド。

 普段食べられているものよりは一回り小さいサイズ。

 中身は表面をかりっと焼いた明太子ポテト。

 至高の組み合わせだ。

 見た目を意識して黒いべーグルの上に、乾燥明太子とフレークポテトを少量散らしてある。


 二品目はカカオパウダーを練り込んだバンズを使ったミニバーガー。

 黒いスイーツを作るのにカカオパウダーはしみじみ重宝するのだ。

 カカオパウダーを使っているからといって、チョコレートの味がするわけではない。

 ほんのり香ばしいビターな風味を感じるので、むしろパンに練り込むのは正解だろう。

 バーガーの中身は、トマト、レタス、チェダーチーズに牛肉100%のパテ。

 このパテは常にストックしてある。

 シャルロットがよく紋寧特製ハンバーガーを所望するからだ。

 ちなみに、普通のハンバーグ用パテもストックしている。

 厚さが違うだけだが、シャルロットは別物だと信じているようだ。


 三品目は黒オリーブ、ミニ赤トマト、アボカドのマリネ。

 黒オリーブは粗く刻んだ。

 リアルでもよく晩酌のあてにしている。

 お酢と砂糖を入れて放置するだけなので大変楽なのだ。

 アボカドが色変わりしない程度に時間を置いたものが一番美味しいと思っているので、当然今回もベストの食べ頃で提供している。


 それとは別に黒ごまのポタージュスープも、保温カップに入れてスタンドの隣に並べた。

 真っ黒いポタージュの上にはクルトン代わりに、おすましポーズの猫を型抜いてかりかりに焼いたものを載せている。

 

 二段目は焼き菓子の皿。

 コウモリとクモの形をしたチョコレートクッキーは白いアイシングで縁取り、目の部分には赤いアイシングをぽちぽちっとつけている。

どちらもデフォルメしているので見た目は愛らしい。

 余談だが可愛らしさを追求したのでクモの目は二つしかつけていない。


 フィナンシェは角形と貝殻型。

 どちらもココア味。

 角形の中にはとろけるストロベリーチョコクリームがたっぷりと詰まっている。

 貝殻型は銀色のアラザンで飾っておいた。

 きらきらして見えるのもいいし、食感もいい。

 がりっとするので驚く人もいるけれど、シャルロットはどんな反応をしてくれるだろう?


 黒ごまのマカロンの中身はきなこ餅。

 マカロンの上にはきなこが振りかけられている。

 黒いアフタヌーンティーを考えるとき、黒ごまは便利なんですよ。

 和風テイストになってしまうけれど、海外でも健康食として高い評価を受けているらしいので、アフタヌーンティーに紛れていても問題ない……はず、です。


 スコーンは焼き立てを二種類。

 収納にはかなりの種類が入っているけれど、ブラックアフタヌーンティーに相応しいと厳選したスコーンはブラックココアスコーンとダブルチョコスコーン。

 ブラックココアスコーンにはクラッシュアーモンドとクルミがたっぷり入っている。

 手作りならではの分量です。

 お店だとここまでたっぷりは入れない。

 値段的に厳しいだろう。

 ダブルチョコスコーンは、ブラックチョコレートの生地に粗く刻んだホワイトチョコレートが入っている。

 こちらもたっぷり。

  

 スコーンにはクロテッドクリームと蜂蜜も添えておく。

 蜂蜜は百花蜂蜜。

 ゲーム内の養蜂家によるお勧めからチョイスしました。

 蜂蜜のうまみに加え、舌触りがまろやかで後味もすっきりしているのが好ましいのです。 

 どちらもつけてもらえるようにと、スコーンはミニサイズより一回り大きい。

 

 そして一番上の皿。

 スイーツの皿!

 載せたスイーツは五種類。


 一品目は真っ黒いチーズケーキ。 

 カカオパウダーの入ったサブレ生地を焼き上げてよく冷やしてから、中にチーズケーキを入れて、更にこちらもよく冷やしたカカオパウダーのサブレ生地で蓋をしたもの。

 ホールで作ってあるが、今回のケーキは4号サイズを4カットしたものの一つだ。

 あまり大きいと食べきれないからね。

 外側は真っ黒く中身が白いケーキの上に、赤い苺をまるごと一つ載せている。

 うんうん、見栄え、大事!


 二品目は黒いモンブラン。

 こちらの黒さは食用の竹炭を使っています。

 黒スイーツ業界に革命を齎した一品が食用の炭!

 竹炭のデトックス効果は海外でも人気らしい……。

 タルト生地にも、カボチャペーストにも竹炭をたっぷりと入れた結果。

 真っ黒いモンブランができあがったのですよ。

 シャルロットに食べてもらうのだから当然、しっかりと味見もしていますから、安心してくださいませ?

 あまりにも真っ黒なので、天辺には金箔を載せておきました。

 ゴージャス!


 三品目はテリーヌショコラ。

 濃厚でしっとりした食感のチョコレートケーキ。

 こちらをパイ生地で閉じ込めた物も好物なのだが、ブラックアフタヌーンティーに相応しいのでそのままを採用している。

 横にちょこっとだけ生クリームも添えた。

 ドライフルーツやナッツを入れたものも食感が楽しいので、別の機会に食べてもらう心積もりだ。


 四品目はチョコレートとサツマイモと抹茶の三段ムース。

 無色透明のグラスに入っているので中が見える。

 一番上はチョコレートなのでありだろう。

 チョコレートの上には少量の抹茶をふりかけておいた。

 作るときは地味に面倒なのだが、シャルロットのためと思えば楽しい時間だった。


 五品目はコーヒーとミルクのゼリー。

 これもグラスに入っていて中が見えるようになっている。

 ただ三段ムースとはグラスの形が違う。

 こちらはカクテルグラスに入っているのだ。

 上にはちょこんとチェリーを載せておいた。


 シャルロットの大好物であるオペラはまたの機会にしました。

 小さくてもボリュームのあるお菓子ですからね。


「如何でしょうか? シャルロットお嬢様」


「控えめに言って最高でしてよ!」


 恭しくお辞儀をすれば、悪役令嬢には不似合いかもしれない満面の笑みで答えてくれた。

 食べる前からこれだ。

 用意した側としてはこれ以上嬉しい反応はないだろう。


「飲み物は、ホットコーヒー、アイスコーヒー、ホットココア、アイスココア、コーラを用意できますがどれにいたしましょう」  

 

「アフタヌーンティーにコーラは珍しいわ」


「色で採用いたしました。レモンスライスを浮かべます」


「ココアとコーヒーは使われているから、最初の飲み物はコーラを所望しましてよ」


「は! 失礼しました。黒いお酒の準備もありました!」


「ちょっと豪華なアフタヌーンティーにはよくありますわね!」


「ゲーム内で入手してきました、黒いお酒シリーズ」


 紋寧は胸の谷間から、すっとメニュー表を取り出す。

 今の今までこの仕込みをすっかり忘れていたのは、ここだけの話にしていただきたい。


「……こんなにあったのね、知らなかったわ」


「シャルに貢ぎたいという人から教えていただきました」


 熱心な信者は紋寧にも近付いてこないが、言付けはときどきされた。

 基本どんな言付けも断っているのだが、滞在している宿によっては断り切れない場合もあるようだ。

 そんな言付けの中に、シャルロット様にお勧めしたいお酒の一覧を渡してほしい、というものがあった。

 興味をそそられて宿屋の主人にその旨を伝えれば、安全確認済みの封書を渡される。

 洒落た封緘を解けば、これまた洒落た便せんに綺麗な手書き文字で、ゲーム内お勧めのお酒が書かれていたのだ。

 何枚にも渡って書かれていた中には黒いお酒も多く記されていたので、一通り揃えておいた。

 ここで一度出しておけば他の場面でも出しやすい。


「ではノワールキャットを」


 真っ黒いワインボトルに、真っ黒い猫のラベル。

 金色の目がきらっと光っているのでよく見ると、あ! 猫が書かれているのね? とわかる真っ黒具合だ。


「ワインね。黒い葡萄も食べてみたいんだけど、入手が難しいらしくて……」


「ええ、以前クエストで見かけましたわ。今度一緒に挑戦してみましょうか」


「完熟した物がとても甘いらしいから……もぎたてを食べたいですね」


「ふふふ。美味しかったら、今度はそれを使ったスイーツを食べてみたいものですわ」


「了解です」


 頷きながら頭の中で葡萄スイーツのレシピをいくつか思い浮かべる。


「あら、紋寧も同じものでよろしいのかしら? シャンパンもありますわ」


「せっかくなのでお揃いでいただきます。シャンパンはまたの機会に」


「そのときは妾も共に……」


 ジャンクフードから超高級料理まで、それなりに楽しく食べてくれる存在は貴重だ。

 ワイングラスを掲げるシャルロットにあわせて、紋寧もグラスを持ち上げる。


「乾杯!」


「乾杯!」


 軽くグラスをあわせて一口飲む。

 真っ黒いワインの味は、さらっとして飲みやすい葡萄味だった。

 お酒というよりはジュースに近い味で驚く。

 

「……想像していたものとは違いましたけれど、とても美味しゅうございますわ」


 さすがはシャルロットの信者が選んだ一本だ。

 誰が渡してくれた情報かわからないが、ギルドで喜んでいた旨を伝えれば本人まで届くだろう。

 やっておくべきリストに脳内で書き込みをしつつ、シャルロットがわかりやすくうきうきとしながら取り皿に取り分ける様子を、微笑を浮かべて見守った。


  

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