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臨時パーティーを組んでみた。

 


 始まりの洞窟攻略が不完全燃焼だったシャルロットは、別のダンジョン攻略をうきうきと提案してきた。

 さすがに運営も妙な真似はしないだろう。

 シャルロットが希望したダンジョンは、人気があって比較的攻略が容易いダンジョン。

 しかし五人以上のパーティーでの攻略が推奨されていたのだ。


「……シャル。このダンジョン、あと三人は必要みたいですけど?」


「……ギルドに物申せば二人で大丈夫だと思いますわよ?」


 やってできないことはなさそうだ。

 ただ確実に何らかのペナルティがつく。

 どうやら運営に監視されているらしい今日この頃。

 付け込まれる隙を作りたくはなかった。


「……この先、他のパーティーと合同でクエストを受ける日はやってくると思うんですよ。それならば早い内にすませておいた方がいいのでは?」


「紋寧の提案も最もですわね。気が進みませんが三人パーティーを捜すといたしましょう」


 シャルロットの提案を大半は快諾するので、こうやって意見をすれば、シャルロットは大体紋寧の意見を聞いてくれる。

 周囲から見るとシャルロットの下僕に見えるらしいのだが、実際そんなことは一ミリもないのだ。

 相棒だからね。

 何処までも対等な関係なのです。

 役割分担が双方納得の上で、しっかりしているだけなのですよ。


「ギルドへ行く前に、これだけ決めておきましょう」


「……男性パーティーにするか、女性パーティーにするか、混合パーティーにするか、ですわね?」


 シャルロットの言葉に紋寧はこくりと頷いた。

 

 男性パーティー……しつこく言い寄られる可能性が高い。

 女性パーティー……やっかまれて罠に嵌められる可能性が高い。

 混合パーティー……一番無難だが、男女比にもよる。


「男女混合パーティーが無難なのは理解しておりますけれど、ハーレムメンバーの一員に思われるのも釈然としませんし、私の男を取らないでっ! と牽制されるのも面倒なんですわよね……」


「人間が恋愛対象や性的対象にならない種族なら大丈夫でしょうか?」


「……それだと食料とみられる可能性が高くありませんこと?」


 番持ちの獣人ならビジネスライクな対応をしてくれるかと考えたけれど、シャルロットの懸念も無視できない。

 先日もそんな事件が取り上げられたのだ。

 パーティを組んだ獣人が、暴走して人間を傷つけただけでなく、血に惑わされ食い殺してしまったという事件。

 ゲーム内ではNPC用の注意喚起が大々的に流され、プレイヤー内では今後そういった可能性があるので双方注意するようにと警告がだされた。

 驚きだ。

 でも獣人の特性を尊重したいのなら、英断なのかもしれない。


「……ギルドでの推薦パーティーに頼ってみましょうか?」


「ええ、結局それが一番無難な気がしますわ。無料ではなく、有料を使えば失敗する可能性も低くなるでしょう」


 冒険者ギルドは全冒険者のステータスを含めた情報をほとんど閲覧できる。

 ゆえに、ギルド推薦パーティーには比較的外れはない。

 

「うーん。誰にお願いしましょうか……」


「ええ、そこも迷いますわねぇ……」


 NPCのギルド職員を選べば失敗はない。

 ただそれではシャルロットが望む結果は出せないだろう。

 しかしプレイヤーのギルド職員にすると当たり外れがひどいのだ。


「ヒヴァリーさん、かなぁ?」


「最良ではありませんが、他に選択肢がありませんわね」


 人を見る目があると評判の女性プレイヤーギルド員はしかし。

 イケメンに弱かった。

 絶望的に弱かった。



 ヒヴァリーに頼むんじゃなかったと深く後悔したのは、ダンジョンに入ってから。

 これは踏破しないで、キリのいいところで帰還した方が良さそうかも? と心の中でこっそりと判断してしまうほど、彼女が選んだパーティーは酷かった。

 三人組はイケメンで職業は騎士、召喚士、魔法使い。

 戦力的にはバランスが取れたパーティー……のはずなのだが、全員スキルを鍛えていなかった。

 時々いるのだ。

 レベルだけ上げておけば強くなっていると盲信している輩が。

 そういったゲームもあるだろうが、このゲームは違う。

 レベルに応じてスキルも上げなければいけない。

 それはレベルに相応しくないスキルが赤字で表示されるほど露骨だというのに。

 彼らはスキルがそもそも赤字で表記されるものだと信じているかもしれない……と疑うほどに使えなかった。


「シャルちゃん! 美味しそうなお菓子を食べてるね。頑張った僕たちにもくれないかなぁ?」


 紋寧がシャルと呼んでいるからと言って、いきなりの愛称+ちゃん呼び!

 何度聞いてもあり得ない。

 ちなみに無言のまま周囲の温度を下げたシャルロットに変わって、紋寧とて一応注意をしたのだ。


『初対面の相手に対して、いきなり愛称で呼ぶのは失礼だと思いますので、やめていただきたいのですが』


『っち! 頭の悪いパツキンは黙ってろっつーの! その巨乳で他の男たちに我が儘言ってきたんだろうけど、俺らはシャルちゃん一筋なんだよ。嫉妬発言はやめてくれ』


 と騎士に返された。

 騎士のイメージを壊してくれる、それこそ頭の悪い発言だ。


『……妾の相棒を貶める発言は許さぬぞ。即時パーティー解散の申し出をいたすが、よいな?』


 間抜けな暴言に瞬間ぼんやりしてしまった紋寧を背中に庇ったシャルロットが、三人を睥睨しながら言い放つ。

 怒りそうな内容にもかかわらず、男たちは全員見惚れていた。

 とにかくシャルロットが好きなようだった。


 口の上手い魔術師に言いくるめられた形でダンジョンに入ったが、本当に酷い。

 紋寧をこき使おうとするんはまだしも、邪魔をするのは勘弁してほしかった。

 何しろ戦闘の途中で割り込んでくるのだ。

 敵が倒れる寸前を見計らってオーバーキルの攻撃をしかけ、自分の手柄にしようとする態度にシャルロットは当然物申した。


『人の成果を奪おうとするなど愚の骨頂じゃな。妾は好かぬ。二度とするでない!』


『シャルちゃんが望むなら仕方ないけど……下僕を上手く使ってあげるのも上に立つ者の義務だよ?』


『その耳は飾りのようじゃな。紋寧は妾の相棒。対等な関係。下僕というのならば、貴様らをそう扱うとしようか』


『はいはい。ごめんねー。シャルちゃんは俺らの勇姿を見たいんだよね? 本当素直じゃないんだから! ま、そんなところも愛らしいけどな』


 三人揃って勘違い野郎だが、突き抜けた印象を受ける召喚士がそう宣ったときは、さすがのシャルロットも絶句していたよ。


 紋寧ほどではないにしろ、我慢強いシャルロットの限界は、ダンジョン攻略を始めてまだ二階というところで、ぶち切れてしまった。

 シャルロットがリアルでも食べたい! と常日頃から言っている、紋寧お手製菓子をねだられたからだ。

 苛々しているから、ついついお菓子を食べる頻度があがっていたからね。

 奴らの目にも留まってしまった。


「そうだよ、シャルちゃん。美味しい物は皆で楽しまないと」


「うんうん。そんなに食べたら太っちゃうかもしれないじゃん」


「……貴様らに恵む物は何一つないわ!」


 ゲーム内では好きな物を好きなだけ食べられるように、体型維持の設定が可能なんだよね。

 紋寧もシャルロットも食べた分は動いているので、設定していないけれど。

 そもそも体形をしっかり維持できている女性に投げる暴言としては、最悪の部類に入るだろう。


「妾に対するセクシャルハラスメント、紋寧に対するパワーハラスメントを理由にパーティーを解散させていただきますわ!」


 シャルロットの発言に、三人はぽかーんと間抜けな顔をさらした。

 何を言われているのかわからない顔だ。

 自分たちの発言や行動がセクハラやパワハラに該当するなんて思ってもいないのだろう。


 シャルロットが目配せをするので頷いた紋寧は、さくっときびすを返した。

 背後で叫くどころか攻撃まで放ってきた男性に、しっかりと制裁をするのも忘れなかった。


「……臨時パーティーはこりごりですわ」


「……そうですね。まぁ、経験はできたのでしばらくは大丈夫でしょう」


「ギルドに物申したら再アタックしたいわ。今度は二人きりで」


「そうですね。一休憩したら潜りましょうか」


 苦笑して顔を見合わせながら一度冒険者ギルドへ足を運ぶ。

 他者の手柄を奪うのは悪質な行為で、冒険者ギルドの禁止事項の一つ。

 報告が必要だった。

 ヒヴァリーには当然物申しておいた。

 一言の弁解もせずひたすら謝罪をしてきた彼女は潔いと思う。

 紹介料として支払ったお金も全額返金された。

 実に真っ当で納得のいく対応だった。

 けれど彼女に推薦パーティーをお願いすることは金輪際ないだろう。

 それだけ、顔だけ冒険者は最悪だったのだ。  


 蛇足かもしれないけれど、一応。

 顔だけ冒険者の末路などをこそっと。

 ギルドに報告をしていたその場に、シャルロット&紋寧非公式業火担クラブのメンバーがいたらしい。

 あっという間に広がった醜聞はクラブメンバーどころかNPCにまで広がったそうだ。

 雪だるま式に大きくなってしまった噂に追い詰められた彼らは、結局ゲームを引退したとのこと。

 被害者がシャルロットと紋寧だけでなかったと発覚し、その内容がかなりえげつなかったせいもあって、ゲーム内追放状態から引退になった日には、こっそり祝杯があげられたらしいよ?    

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