愛憎の兄妹 ~近親の危険な過ち~ 【短編完結】
とある広大な草原の中、そこには四人の兄妹と母、そして祖母の6人が住んでいた。背が高くて体格もよく、日に焼けた小麦色の肌が美しい長兄のブラウン。兄とは対照的に細身で色白で理性的な次兄のホワイト。何事にも無関心で、ほかの兄弟にはあまり関わらず独り好きな妹のキジィ。そして、人懐っこく甘えん坊で食べるのが好きな末妹のミィ。
4人は兄妹だ。母の名前はミスティ。4人を産んだとは思えないほどあどけない顔の母親で、知らない人からは同じく兄弟だと思われているようだ。特に末娘のミィとは性格も見た目もよく似ているため、姉妹に思われることがほとんどだった。
父親はいない。4人の父親は、気が付くとミスティたち家族を置いてどこかへ行ってしまった。今はどこにいるのかすらわからない。4人は父親の顔を知らない。それくらい幼い時にいなくなってしまったのだ。母のミスティはそれを気にかける様子もなく、子供たちも、最初からいなかったものとしてわざわざ聞き出すようなことはしなかった。
祖母はたまに顔を出したかと思うと、食事をしたり、一緒に昼寝をしてくれたり、言葉少なながらに面倒を見てくれていた。そして、孫たちに満足すると、静かに帰っていくのである。みんな彼女のことを『おばあちゃん』と呼んでいたがちゃんとした名前を知っている兄妹はいなかった。そういえば、母親からも聞いたことがない気がする。
子供のころは、いろいろなことに興味を持ち、おっかなびっくりいろいろなことにチャレンジし、4人で仲良く過ごしていた。一緒に蝶を追いかけ、花畑にダイブし、近所の大木に上ってどこまで登れるか競ったりもした。そして、夜になれば母の元に戻り、一緒になって寝るのが日課だった。それが当たり前だった。4人はあきれるほど仲が良く、あきれるほど元気がよかったのだ。
草原ではすべてのものがそろっていた。川に行けば水があり、作物はよく育つ。雨露をしのげるところがある。そして、ミスティは生活する術をしっかりと教えてくれていた。幼い4人にとって、この草原は世界のすべてだった。
「待ってよ。大兄ちゃん!」
「ミィ。早く登って来いよ!」
『大兄ちゃん』とはブラウンのことだ。ちなみにホワイトは『小兄ちゃん』と呼んでいる。ミィもキジィも、二人の兄をそう呼んで区別していた。なんせ、『お兄ちゃん』と呼んでしまえば、たちまち二人が同時に振り替えるのだ。
ブラウンは木登りが得意で、いつも高いところまで登っては、木の実や果物を取ってきてくれる。ミィも後ろに付いて挑戦するのだが、どうしても怖くて低い位置までしか登れない。
「ははは、相変わらずミィは怖がりだなぁ。俺が取ってくるから、お前はそこで練習でもしてな。」
「私も登りたかったのにぃ。」
そういってミィは膨れたが、ブラウンは構わずに上って行ってしまった。ミィは仕方なく、かろうじて登れるところまで登っては降りてを繰り返して練習した。
「ミィ。手足を置くところをしっかり決めて、一気に登るんだ。コツがつかめればすぐできるようになるさ。」
ホワイトが下からアドバイスをしてくれた。
「ありがとう。小兄ちゃん。」
ミィはブラウンが戻ってくるまで、何度も練習するのだった。
そうして、何度かの季節を超え、四人は立派に成人していた。ミスティは相変わらず若々しく、大人っぽくなったミィと並ぶと、ますます姉妹のように見えた。このころには、ブラウンやホワイトの身体つきはすっかり大きくなり、ミィやキジィは女性らしく丸みを帯びてきた。
その日、ミィは散歩から帰ると、珍しく誰も残っていないことに気が付いた。いつもこの時間はミスティかキジィがいるはずなのだが、あたりはすごく静かだった。誰もいないので退屈していると、夕日に照らされてなんだか眠くなってしまった。横になり、静かに目をつむると、かすかに、荒い息遣いが聞こえてきた。
誰かがいるのかと思い、ミィはゆっくり身体を起こすと、その息遣いの正体を探りに静かに足を進めた。すると、あの木の下で、兄妹が仲良く遊んだあの木の下で、ブラウンがキジィに覆いかぶさっていた。二人の密着した姿と、その荒い息、そして艶めかしく漏れる吐息に、ミィはドキドキしてしまった。
「なに、何をしているの?」
混乱するミィだったが、よく目を凝らすと、ブラウンとキジィのその奥では、薄暗い中、母であるミスティに覆いかぶさるホワイトの姿が見えた。
「小兄ちゃん。お母さんと、なに、しているの??」
一心不乱に身体を動かす家族の異様な姿に、ミィは怖くなってその場を駆けだした。
「なに? あれはなんなの!?」
家族の不思議な行動に、ミィの頭は混乱していた。
その日の夜。ミィは、いつもよりも離れた場所で休むことにした。しかし、先ほどの家族の光景に、胸がドキドキしていた。キジィもミスティも、いつもはしない恍惚とした表情をしていた。優しかったブラウンとホワイトは、なんだか怖い表情をしていた。
「えっ!」
気配を感じて起き上がろうとしたところに、ブラウンが覆いかぶさってきた。
「大兄ちゃん。どうしたの?」
「ミィ。お前はかわいいな。」
「お兄ちゃん!」
男であるブラウンのほうが力が強い、ミィは押さえつけられて抵抗することができなかった。
「すぐ終わるから。すぐ終わるからさ。」
そう言いながら身体をこすりつけてくるブラウンに、ミィは全身の毛が逆立つような気がした。
「おい。やめろよ!」
そう声が聞こえたかと思うと、ホワイトがブラウンの顔を殴りつけた。驚いたブラウンは飛び上がり、二人から距離をとった。
「ミィとするのは俺だ。兄貴はキジィをとったんだからここは譲れよな。」
そう言われて、しばらくホワイトをにらみつけていたブラウンだったが、
「まぁいい。」
そう言うと、座り込んでミィたちをにやにやと眺めていた。一方のホワイトは、ブラウンが邪魔してこないと判断したのか、ミィに覆いかぶさり、
「暴れるなよ。」
そういって押さえつけてきた。
「いや! 小兄ちゃん、ダメ、ダメだってばぁ!」
「すぐ終わるから。すぐ終わるからさ。もう我慢できないんだ。」
そう言って身体をこすりつけてくるホワイト、ミィは抗うことができず、とうとうホワイトを受け入れてしまった。
「ああ、小兄ちゃん。。。」
「ミィ、ミィ。。。」
二人の荒い息遣いが暗がりに溶け込んでいった。
と、その時。
目のくらむような光が周囲を包んだ。そこにいた誰もが、目をつむって何事かと身構えた。
「まぁた、お前たち! 他にすることないんか!!」
そう言いながら光の主・この敷地を管轄している警備員のおじいさんが足をパンッと踏み込んで威嚇した。びっくりした猫たちは慌てて距離を取って身構えた。
「去年増えたと思ったら、また交尾なんぞしおって。こりゃ、次の春も野良が増えるな。」
呆れたように言うと、
「来年度は、お前さんたちの去勢の予算でも取ってもらうかねぇ。これ以上増えたらたまらないよ。」
そう言って、もう一度足を踏み出して威嚇すると。警備員のおじいさんは歩いて行ってしまった。
ここは、東京郊外にある工業用の埋め立て地。法令で緑化をしなければいけないために作られた広大な植え込みの一部だったのだ。
茶猫のブラウン。白猫のホワイト。キジトラのキジィ。三毛猫のミィ。そして、母猫は茶トラのミスティ。このあたりに住む野良猫の家族のお話だったのだ。子猫の時期が終わり、初めての発情期に、兄妹抑えきれなくなったのだった。
こうやって、野良猫はどんどん増えていくため、自治体などでは、保護して飼い主を探したり、去勢して元の生活に戻してやったり、様々な手段で共存を図っている。
そういった猫が、ほら、あなたの近くにも。。。
終わり
ここまでお読みいただきありがとうございます。
職場敷地内をうろついている野良猫が、昨年の春に4匹の子猫を産みました。
すくすく成長して、
最近では人前でもはばからずに交尾を始める始末。。。
ちょうど屋外喫煙所の前が植え込みになっていて、
そこでよろしくやってるんですよねぇ。
本当にまた増えそうです。
クライアントさんの敷地内なんで何にもできないんですが。。。
紫煙をくゆらせながら、
擬人化したら面白そうかなと、ノープランで書きました。
最後まで読ませちゃってすみません。
ではでは、また次回作でお会いしましょう。
水野忠でした。