転生
誰だって間違える事はある。それは偉人であろうと英雄であろうと、はたまた人知を超えたモノであろうと。
by私(会社のサーバを破壊せし者)
そう私は、現実逃避をしていた。
ただ格言っぽい事を心の中で呟いても現実は変わらない。
電源が入らなくなったサーバが目の前にある事、なんだか通知音が騒がしいスマホが私の隣にあるパイプ椅子の上で震えているだけ…。
あー結構怒られるかも…そもそも33歳OL私一人にやらせる作業でしょうか!?なんてそんな事を考えていたはずだった。
ん…私いつ寝たんだろ?なんだか時間が経った感覚がある。
あれっ?声もでないし、真っ暗なんですけど??金縛り?そういえばサーバは?
取り敢えずここは何処なのよ。
意識を集中させると、一定の速度で私は移動されている感覚があった。
どこかに運ばれている感じがするな…もしや誘拐??
こんな33歳の枯れたOLを!?
ん!?明るくなって…きた…?。
明るくなったと思ったけど相変わらず視界もないし声もでない。
私は今の状況に本気で不安になり出したその時。
「事の重大さがわかっていない!」
誰かの怒鳴り付けるような声が聞こえた。
ヒッ!やっぱサーバですか…??
恐る恐る声を出したつもりだったが、やはり私は発声できていないようだ。
「器がリセットされていないじゃないか!次の魂が入れられないぞ!?」
「上に確認しましたが、なんとかしろ。だそうです。」
「は??なんとかしろだって??あいつら無責任にもほどかあるだろ!?」
どうやらサーバの話じゃないぞ…だったら私の話じゃないよね…良かった良かった。
そんな事を考えていたが、怒られている人は無責任呼ばわりされているみたい。なんだか耳がいたい…。
まぁそんな事より私の状態を教えて欲しい…。
スイマセーン…スイマセーン
声は出ていないようだが、取り敢えず相手を刺激しないように恐る恐る声をかけてみる。
相手を刺激しないように、大事な事だ。
これは社会人で生き抜くための必須スキルだ。伊達に10年以上もキャリアウーマンをやっていないのよ?
そんな事を考えていると。
「おい!?意識すら残っているぞ!!」
ヒッ!すいません!
てか意識すらって何。スゴイ怖いんですが…。
「あーここまで、魂が残っているのは珍しいですね。私が担当してからは始めてです。」
「おい。これどうしたらいいんだよ。珍しいとかじゃなくて明らかにミスだろ。」
ミスってなんですか、サーバの話ですか?
ええ…わかってますとも違いますよね…。
「……うーん図太そうだし、そのまま転生させますか。」
「は?それありなの?」
「少し前に、500年位前かな?ここまで魂が残った状態ではありませんでしたが、何もせず予定通りの魂を無理矢理いれて…」
「おいおいそれありかよ!?明らかに冒涜だろ!?」
「どうなったかは知りませんがそれで転生させました。私達もなんとかしろ。としか言われていませんよね?」
「まぁ…そうなんだけどよ…。」
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って…
あのー。先程から議論されておりますのは私についてでしょうか……?
「…」
「…」
急に無言にならないで!
怖いんですけど!
「凄いですね。」
「…ああ」
「ここまで魂が図太く残っていると人格は無視できませんね。少し説明しますか。あなたについて調べるので少しお待ちを、」
え?あ、はい。
やった会話が通じたぞ!なんだか安心したわ。
「なんで安心できんだよ。おまえすげーな。」
ヒッ!私の考えている事は筒抜けなの!?
「そりゃそうだろ?しかし器にここまで魂が残っているとはな…肉体から離れた時点で魂が無くなる器もあるのにな。」
待って。魂とか器ってなんの話!?
ここは何処なのよ!
「まぁ。待て、リブラがもう戻ってきている。」
「お待たせしました。」
あっはい。
くそーこんな時にも条件反射ではい。と言ってしまう。
これは私の類まれなるキャリアウーマンとして磨かれたスキル故だろう…。
そんなくだらない事を考えていると。
「…やはり。余裕ですね。」
「な。呑気すぎてどうでもよくなってきたわ。」
ヒッ!心を読まないで!
どうでもよくないから!私視界もないし声も出ないし、てか五感もなくない!?
「説明します。あなたは地球で1月24日。33歳で心筋梗塞で肉体を失いました。」
え?これ夢?
「夢じゃありません。本来は肉体を失った後は、然るべき者が魂のリセットを行い、次にここで魂を入れ直した後に新しい世界に誕生させます。
ですが、あなたの魂はほぼ生前のまま此処に来てしまったようです。」
死んだ?転生するってこと?
「ええ。端的にいえばそうなります。」
本当に!?
「この後、あなたには本来いれるべきだった魂を入れます。そしてあなたの言葉で言えば、転生します。」
え?それって私どうなるの?転生ってやつ?
後、なんか定番のチートとかもらえるの?
「あなたがどうなるかは…私にはわかりません。後、定番のチート?というものが何かも私は知りません。」
「なるほど。取り敢えず世界に送り出すって事だろ??了解。後、お前ごめんな。どうなるかわからなくて、まぁ転生するって事だ。頑張れ。」
なんで投げやりになっているの!?
最初の情熱どこいったよ!?事の重大さ云々言ってたじゃない!
「調べたんだけどよ。新しく生まれる世界はお前がいた地球とは違うようだ。お前が前世の記憶を持ったまま地球へ誕生すると色々と面倒だったんだけど大丈夫そうだ。後は、魂を追加で入れたらさ…」
待って!全然大丈夫じゃないから!それに追加で入れたら何さ!
教えてよ!
「さぁ。アゲルさっさと魂を入れましょう。私たちの仕事の範囲で責任を以て綺麗な形で魂を入れて差し上げます。それによって彼女の魂がどうなるかはわかりませんが、成功すれば魂二つ分の器を持って新しい世界に誕生できるでしょう。」
「まぁそうだな。いっちょやってみるか。」
待って!無視しないで!
もっと説明とか聞きたい事が!待って!!
私の叫びは虚しく、意識が遠のき、やがて筆舌し難い苦しみが襲ってきた。
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ。おえぇぇえぇっぇえぇえええッッ。
苦しすぎ、吐き気が。死んだ方が楽じゃないの…これ…あ死んでるのか…もしや出産の痛みもこれくらいなの?
………
「本当にすごいですね。」
「ああ…。地獄のような苦しみだろうに自分で自分にツッコミ入れてるじゃん。普通に考えたら意識を手放して魂が薄まるか抹消されると思ったんだがな。」
「もしかしたら、前世の魂を保持したまま転生するかもしれませんね。」
「それ大丈夫か?こっちから世界へ干渉した。って文句言われるんじゃね?」
「うーん。彼女が世界を変えるほどの存在にはなれないとは思いますので、大丈夫だと思うんですけどね。英雄の器には見えませんでしたし。大丈夫でしょう!さぁアゲル!私は早く仕事を終わらせたいのです!急ぎますよ!」
「わかったよ…もう勘弁だぜ。こんなケース…。」