魔法?
学校が午前までの日、私は一人キッチンでパン作りに勤しんでいた。
なにしろ一人で作るのは初めてなので、苦戦していた。
なぜかうまく膨らまなかったり、とても固かったり。
パンなのに、少し上から落とすと、ドンッとなるのはかなりショックだった。
こんな失敗する?
いくらなんでもこれはひどすぎると落ち込んだ。
私って、料理が苦手だよね、
なんて思いながら失敗しても、材料がある限り、コネコネしながら頑張っていた。
すると、
「彩夏音、何を作っているんだい?」
と声が聞こえ、振り返って見てみると、お父さんだった。
お父さんがこんなに早く帰って来るなんて、珍しいなぁ。
「お父さん、お帰りなさい。
今日は早いね。
私は見ての通り、パンを作ってるの。」
「これ、パンだったの。」
ひどい…。
でも確かに見た目からしてもパンに見えないのかも。
かなりショック。
美味しそうなパンをプレゼントできるのは、いつの日になるのか…。
私は苦笑いしながら、
「パン作り、難しくって。」
と答えた。
「よし、お父さんも手伝おう。」
「えっ!?
お父さん、パン作れるの?」
「もちろん。」
見ていると信じられないことに、お父さんはものすごく手際よく、あっという間に成形したパンをオーブンへ。
さっきまでの私の苦労はなんだったの?
まるで魔法を使ったみたい。
お父さんすご~い。
もしかして魔法を使ったの?
えっ!?
魔法?
魔法なんて、この世界にあるの?
魔法………?
なぜか目の前がぐるぐる、ぐるぐると回って、フラフラして思わず座り込んでしまった。
またあの頭痛が…。
何か変な感覚も…。
私はとても大切なことを忘れてしまっているような…。