装着02
僕と夏美はバイタルユニット装着のため、来年入学予定の学校に向かっていた。
辺りには同年代の子たちが同じ方向へ歩いている。
この時間にいるということは目的は同じなのだろう。
知っている顔もあるのだが、この区域の子供たちが通う高校は一箇所しかないため、今日は知らない人たちで溢れかえっている。
がしゃん
何処かで何かがぶつかる音がした。
前の方で自転車にぶつかった人がいるようだ。
がしゃん、がしゃん、がん、がん・・・
ドミノ倒しになっている。
ぶつかった人も慌てているようだがもう遅い。
並んでいた自転車は次々と倒れ、結局端っこまで倒れててしまった。
まあ、仕方がない。
これだけ人がいればこういうこともあるだろう。
それにしても、周りの人は一瞥入れただけでその場を立ち去ってしまっている。
関わりたくないのだろう。
最近の若いもんはという口癖を年配の人からよく聞くが、なるほどこういうところかと思った。
ふと隣を見ると夏美がちらちらとこちらを見ている。
僕は夏美に微笑み返して、泣きそうになっている男の子に声をかけた。
「手伝いますよ」
こちらを向いた男の子はもう涙目になっていた。
「いいんですか?ありがとうございます!」
涙目から一転、男の子は救われた顔になった。
いいことをした気分になってこちらも照れ臭くなる。
「構いませんよ。大変そうですし。」
「そうそう!困った時は助け合わないと!」
横から夏美が男の子を元気付けた。
それから三人がかりで倒れた自転車を一つずつ元に戻していく作業を繰り返すことになった。
「本当に助かりました。一人じゃどうしようもなくなるところでした。ありがとうございます。」
男の子は頭を下げてお礼を述べた。
「お気になさらず。では僕たちはこれで。」
そういうと、僕たちはその子の前から立ち去った。
「あ・・・」
男の子は僕たちを呼び止めようとしたが、すでに離れてしまっていたため、結局諦めてしまった。
「冬馬って親切だけど愛想が足りないよね」
夏美が唐突に失礼なことを言ってきた。
「そうかな?」
反論したい気持ちもあったが、そっちの方が面倒だと思い僕は適当に流す。
「さっきの子一緒に行きたそうな顔してたのに気づいてたでしょ?」
「全然気づかなかった。夏美はよく人のこと見てるね。」
「褒められてる気がしないんだけど。」
まあ確かに気づいてはいた。
でも折角のんびり歩いているのに他人に神経を使う気にはなれない。
「まあ、今に始まったことじゃないし別にいいけどね」
夏美はすました顔で僕の横を歩いた。
仕方がないのでここは機嫌を取ることにする。
「夏美と一緒にいたかったからだよ。」
ピクッと夏美が反応した。
「本当に?」
ちょっと顔を赤らめて夏美が聞き返してきた。
「そうだよ。」
僕は努めて真顔でそれに答える。
夏美の顔がりんごのようになった。
「そう?じゃあまあ許してあげる。」
何が許されたのかよく分からないが、とりあえずこれで問題ない。
それに夏美の貴重な赤面顔も見れたので僕としても満足だ。
その後は特に何事もなく、僕たちは目的地に到着した。