縛り影 1
突然だけど、皆は"アラザルモノ"ついて知っているかな?
漢字では"非現者"と書く。
英語では"Nofeels”とか"feelness"と呼ばれている。
"感覚に非ず"、"感覚らしさ"ってそれぞれ訳されるらしいよ。矛盾っぽいよね。
その非現者っていうのは、現代の科学技術では計り知れないような事を起こしたり、既知の生物には見られないような身体構造をしている者達の総称なんだ。
所謂、神様とか、悪魔とか……そう言う超常的な類いの者達のこと。
さて、人類は非現者達から知識を分け与えられて魔術と言うものを学んだんだ。
それによって人類の技術は大きく進歩したし、科学者達は魔術がどういう原理で動くのか研究し始めたし、学校には余分な授業が増えた。
あいつら余計な事しやがって………
話の繋げ方がちょっと無理やりすぎたかな?
もうそろそろ先生に指されそうだしこんな考え事やめて現実に戻ろう。
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私は旧生紡、普通の女子高生!!
今は魔術の授業中!!
将来の夢は魔法少女アイドル!!!
だからその為にいっぱい勉強するの!!!
でも女子高生だから流行りには乗らないとね☆
今時のjkと言えば………
そう!!!放課後に友達とショッピングモールに遊びに
行くわけねえだろ。
先に述べた通り私の名は旧生紡、外見だけはちょっと美人なjkだ。
あんなテンプレ子供向けアニメの主人公みたいな喋り方ではないし、放課後に友達と遊ぶような性格でもない。
私が放課後にする事といったら………
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学校から数分歩いた場所にある大通り、から一本入った製薬会社と住宅地に挟まれた人気の無い少し狭い道。
ここでは1ヶ月程前からとある現象が起きていた。
俗に言う"神隠し"である。
時間帯は特に指定はなく、影ができる時間であれば神隠しは起きるらしい。
この道だけでなく、ここら一帯で神隠しが起きているらしく、合計で数十人もの被害者が出ている。
それらの事件のいずれも被害者は生還しておらず、それどころか、被害者の生死さえ不明だそうな(警察調べ)
無の……
「コホン………"縛り影"か、ちょっと長くなりそうだな。」
そうそう、言い忘れていた。
私が放課後にする事と言えば、それは"狩"だ。
何を狩るのかって?すぐに分かるよ。
おや、そんなことを話していたら……どうやら美味しい私の匂いを嗅ぎ付けたようだ。
道に落とされた住宅の影から黒い霧のような物が立ち上ってくる。
その物体は私の目の前で集まり、ヒトの腕のような物を形成して、私の腹部を掴んだ……掴まれた感覚がした。
こう、ヒトが妖精を掴んで酷いことするみたいな感じで……
ともかく、不思議な感覚だ。
手足は自由に動かせるのだが、ジタバタ踠いてもその場から動くことができない。
その不思議な感覚を楽しんでいたら、意識が朦朧としてきた。
視界の端には1m程の小人のような者が映り、耳元では呪文のような物を囁かれている感覚がし、頭の中では肉が蠢くような光景が写し出され、身体は水から上がったときのように重く、関節が錆びたように動かない。
(ああ……私死ぬんだ……お母さんに感謝の気持ちを伝えておくんだった………)
溺れるような感覚を覚えた所で、私の意識は一旦消えた。
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まあ、その程度で死にませんが。
次に目覚めると、そこは異常に不気味な世界だった。
地面はある、空気もある、温度もある、だが何かが常に足りないような感じだ。
目の前には明らかにヤバい雰囲気を醸す廃墟のような建物が宙に浮いているが、それは後々、今は周囲の状況を確認しよう。
まずは、上空。男女問わず……若干女性物が多いが、破かれた服が空中を漂っている。
どうやらコイツは女性を好んで食べるようだ。食の趣味が合いそうだ。
他にも一軒家の欠片や、車が空中を漂っているが、落ちてくる気配はない。
次に地面。アスファルトだったり砂利道だったり、畦道までもが組み合って、非常に情報量の多い地面を形成している。しかも隆起や陥没が激しく、歩くには大分不安定な地面だ。
とりあえず、私の目につく所にターゲットはいないようなので適当に歩き始めると、直ぐに異様な光景が目にはいった。
いやまあ、私が引きずり込まれたこの世界が既に異常なのだが、目の前には尚更異常な光景が広がっている。
電柱のような高い柱が乱立しており、それらに渡された紐には、人体の一部と見られる物が一夜干しでも作るかのように引っ掻けてあった。
時々液体が滴り落ちている物も見られる。
「こりゃひどい。」
鼻を突く異臭が立ち込める、地獄絵図を表現してしまったような場所をテクテクと通りすぎ暫く歩いた所で、焚き火のような物を囲う、黒い生物のような何かを発見した。
近くにあった廃病院の欠片の影に隠れてそいつらを観察すると、何やら焼いて食べているようだ。
ハギスでも作っているのかな?と思いながら目を凝らすと、"料理"ではなかったが、かなり素材の形を生かした調理をしているのが見えた。
素材の形が伝わらないと思うので細かく言うなら、買い物やドライブでよく使う部位だ。
紳士諸君の好みが表れる典型的な部位と言えばわかるかな?
近頃の若者はこの部位で誘惑するし、一部のおじさま方はこの部位をスリスリしたい筈だ。
ここまで言えば分かるだろう。
「いやはや、恐ろしいものですね、非現者というのは。」
大方現状は分かったので、さっさとメインの獲物を狩りに行くかなと思い、立ち上がって来た道を戻ろうとするが、急に後方が騒がしくなった。
振り返ると、さっきまで肉を食べていた黒い生物達が遠くの方へ走り去って行くのが見えた。
新しい人間でも来たか?と思い慌てて追いかけようとするが、少し走った所でムニュとした感覚を足の裏に覚え立ち止まった。
足元を見ると、私の通っている高校と同じ制服を纏った人間の腕が落ちている。
それも、かなり新鮮な唾液のような分泌液を纏った状態で。
…何となく予想はついているだろう。
「あらら……」
次の瞬間、私が後ろを見るより早く、胴体の数ヵ所に鋭い痛みを感じながら、私の意識は再び消えた。
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エレベーターのうるさい駆動音が鼓膜を震わす。
「お前、まだ17なんだって?」
「はい。」
「高校はどうするんだよ。大学とか行かないのか?」
「大学行って就職するよりもここで生涯働いた方が儲かるじゃないですか。それに、老後は新しい世代に適当にアドバイスしておけばお金貰えるし。」
エレベーターが、軽い電子音で目的の階に到着した知らせを告げる。
ガヤガヤとした雑音が廊下の奥の方から聞こえてくる。
「否定はできないけどよ……お前…何かスゴいよ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「………。さっきも言ったが、部署の奴等に挨拶したら直ぐに俺と任務に行くぞ。」
「はい、赤場先輩の戦闘スタイル、よーく見ておきますね。」
「……そうかい。ほら、着いたぞ。」
そう言って赤場さんが重苦しい鉄製のドアを開ける。
廊下を歩いていた時点で聞こえていた雑音がより一層大きくなった。
「おいお前ら、昨日伝えた期待の新人さんだ。」
部屋の中でガヤガヤしていた人達の視線が私に集まった。
「ほら、自己紹介。」
「本日より怪異庁対超常部門天使課に配属となりました。千利藍です。どうかよろしくお願いします。」
期待の新人の自己紹介が終わったのにも関わらず、何の反応もなく静寂に包まれた天使課。
「えっと……私、何かしましたかね?」
すると一人の職員らしき人が、私の一歩後ろにいる赤場さんの近くに駆け寄り何やら話始めた。
その後、呆れたような顔をして赤場さんが何やら話しているようだが、私には聞こえない程小声で話している。
その間も、私はこの気まずい空間の中心に放置されたままなので、まあ辛い。
進展があるならさっさと進めて欲しいものだ。
「お前らなあ……まあいいや、コイツが昨日伝えた藍だ。言っておくが、コイツの千利という字は_____」
急に赤場さんが話始める。
何故私の名前の解説になったのかは知らないが、地獄のような空間から解放されただけましなものだろう。
「さて、コイツの紹介はこれで終わりだ。さっさと仕事に戻れ。」
その一言で、地蔵のように動かなかった人達が一斉に動きだし、扉を開けた時のガヤガヤが戻ってきた。
さっきの静寂の理由が非常に気になるが、それは後で赤場さんに聞くとしよう。
「さっ、仕事に行くぞ。」
「はい。」
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「今向かってる場所は、■■■高校の近くにある道路だ。」
「そこに縛り影がいるんですね。」
「ああ、名の知れた種族名とは言えあくまで非現者だからな、油断して死ぬことのないように。新人が死ぬのは天使課としても大損害だからな。」
「気を付けます。」
その後、目的地に着くまでの間、車内を無音の重苦しい空気が満たした。
気分を変えるために赤場さんの紹介でもしておこう。
赤場さんは渋い声が特徴の180程の筋肉質…とは言えない細身の男性だ。
主に使用する武器は銃で、たった1人で200件近くの怪異を完全解決している。
一時的な解決も含めれば250はいく程の超エリートだ。
スゴさが伝わらないと思うので少し補足をすると、一つの怪異を完全解決するには、戦車やらミサイルやらの兵器を市民の犠牲を惜しまずに投入しなければならない。
勿論、誇張マシマシだ。
なぜ誇張したのかは察してくれ…というのも無理な話なので、ちょっと説明すると、まず対怪異という点で表現が難しい。
戦車やミサイルをぶちこめば解決することの方が多いが、一発解決という訳には行かないのだ。
こちらの戦闘で民間人を巻き込むと、民衆からの反感を買うし、内閣からプレッシャーをかけ__
「つきました。」
黒いスーツを着た男性がそう言って車を止めた。
説明の途中になってしまったが、ここら辺で止めておこう。
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「……これは、直近で誰か引きずり込まれたな。」
そう言う赤場さんの視線の先には、アスファルトが抉れたような跡があった。
その近くには、■■■高校の鞄が落ちている。
「早く入った方が良さそうですね、まだバラされていないことを願いましょう。」
「そうだな、行こう。」
そう言うと、赤場さんはアタッシュケースから血の入った瓶を取り出し、その血を地面に撒いた。
周囲に生臭い鉄の臭いが立ち込める。
その臭いに釣られたように、地面に落とされた影の一部が揺れ、黒い霧のような物体が現れる。
その物体は手のように集まり、私たちを包み込んだ。
「行くぞ、少し酔うけど我慢しろよ。」
「分かってます。」
身体が重くなり、意識が朦朧としてくる。
(初任務だ、頑張らなきゃ。)
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誤字脱字があったら教えてください。
感想お待ちしてます。
失踪は恐らくしません。