称号を確認しました
一休みして目が覚めたのは、陽も沈み掛ける夕暮れの頃だった。カイトが目を覚ましたのを感じ取った四匹も、各々身体を伸ばしたり毛繕いをしたりしながらカイトから離れる。
カイトもまた、強張った身体を解しながら立ち上がり、宿の様子を伺った。
「夕飯は…もう少し、かかるかな?」
料理を用意しているのだろう厨房の空いた窓から「あとどれくらいで出来上がるんだい?」と尋ねる声が聞こえてくる。食事の用意は暫く先らしいと判断して、カイトは四匹のもとへ戻った。
「さてと。……少し余裕あるみたいだし。ステータスの確認をしようか」
鑑定、と言った途端に出てきた青いウインドゥに、カイトは視線を滑らせる。
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ステータス
名 前/カイト・ツカノ
種 族/人間種
職 業/調教師
年 齢/20
レベル/5
スキル/鑑定 Lv.1
料理 Lv.4
裁縫 Lv.2
掃除 Lv.4
算術 Lv.5
調教 Lv.6
称 号/異世界転移者
幻獣に愛されし者
獣神アドラウスの祝福者
魔法使いの素養を持つ者
従 魔/魔狼ルイ『氷雪狼』
宝玉獣レン
火鳥アル『不死鳥』
影猫ネロ『猫又』
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表示は最初に見たときと差程変わっていない。精々職業が正式にテイマーとして登録されているくらいだ。そして従魔としてルイたちの名前もステータスに載るようになっている。おそらくギルドへ正式にルイたちの主人として申請登録したからなのだろう。もしかしたらエイルシアに着いた時点で後者は反映されていたかもしれないが。
しかし代わり映えのしないステータスをずっと眺めて時間を潰すわけにもいかない。何か変わったものはないかと注視していると、称号の欄が一瞬広がったように見えた。
「え…!?」
思わず漏れた声に反応して、ルイが『カイー、どうかしたのー?』と聞いてきたため何でもないと誤魔化した。特に危険はないと判断してルイがこちらから視線を外したので、再度画面に向き直る。
一瞬広がった称号の欄には、特に変化らしいものは見られない。しかしじっと目を凝らすと、再度欄が広がりぼんやりと何かが浮かんでくる。
まさかと思いつつ、カイトは言葉を紡いだ。
「鑑定」
途端、ぼんやりとしていた欄が明確な文字となって飛び込んでくる。
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称号
異世界転移者
異なる世界よりエイルシアへやって来た者に贈られる称号。
適応能力にプラス補正がかかる。
幻獣に愛されし者
複数の幻獣に好感を寄せられている者に贈られる称号。
獣系統のモンスターや動物たちなどに好感を抱かれやすくなる。
また、自分に心を許している獣の放つ魔力から思念を感じ取ることも可能。
獣神アドラウスの祝福者
獣神アドラウスが祝福を贈った者に贈られる称号。
異世界言語理解、および言語の筆記を可能とする。
魔法使いの素養を持つ者
魔法に対する才能持ちに贈られる称号。
魔法にかんする技術を習得しやすくなる。
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「……見えた」
画面を広げた状態でさらに深く鑑定することで現出した称号に関する説明。それを読みながら、内容を咀嚼していく。
「魔法技能の習得が楽になる、異世界言語の読み書きが可能になる………これだけでも破格だな」
異世界で過ごしていく上で、知らない言語や魔法という未知の技術を覚えていくのは困難である。それをこの称号を貰ったことでひとつは知らぬ間にクリアしており、もうひとつも努力次第でどうにでもなるのだ。神の祝福が凄まじすぎる。
「獣系統の類いは仲良くなれそうだし……」
何より、自分が疑問だった四匹の喋っている内容が理解できる理由が判明した。彼らが魔力を放ったときに、その魔力をぶつけられることで思考を読み取っていたのだ。彼らが吠えたときも、同じように微量の魔力を放っていたから言葉を理解できたのだろう。
しかしひとつだけ、理解できない説明にカイトは首を傾げた。
「適応能力……曖昧だな?」
異世界転移者の説明が他とは異なりなにやら抽象的すぎてイメージが湧かない。モンスター蔓延る環境に対する適応力なのか、それとも純粋に異なる世界ゆえに発生する自然環境に対するものなのか、あるいは、また違ったものなのか。
「………分からないな」
考えても仕方がない。思考を巡らすのを止め、カイトは立ち上がった。
「まずは腹ごしらえ、かな」
宿の食堂スペースへやって来て、空いていたテーブルについて食事を注文する。どうやらここは毎日料理番が食事の内容を独断で決めているようで、メニュー表などというものは存在しないらしい。
注文してすぐ、女将が威勢のよい声で今日のメニューを持ってきた。
「ほら、今日はキノコと人参、野草のスープに、オーク肉の塩焼きだよ。パンはふたつまでおかわり可能だからね」
「ありがとうございます」
並べられた料理に、カイトは無造作に手を伸ばしーーー口にしてすぐ、何とも言えない表情で手を止めた。
「………不味くは、ないんだけど」
物足りなさすぎる。
おそらく塩だけで味付けをしているのだろう。素材の味を活かしつつ上手く調えられてはいるが、日本食を食べてきたカイトには凄まじく満足感に欠ける味わいだ。
あらゆる調味料を組み合わせて生み出されるあの複雑な味わいは、ここではもう口に出来ないのかと思うと少し気分が下降しそうだ。
だが、初日から食事が口に合わないと残すのも何かと体裁が悪い。食べられなくはないし、カイトは止まっていた手を再び動かし始めた。
すると、二口目、三口目と手を進ませていく度に、味付けに対して不満に思っていたのが差程気にならなくなってくる。どうしてだろうと思いつつ、ふと、先程まで見ていた称号の一文が頭の中に閃いた。
ーーー適応能力、これかー…。
異世界料理に対する適応力。不味かろうが、ある程度の抵抗はなく食べられるようになる。
確かにこのような食生活であれば、カイトのモチベーションが下降するのは必至なのであってくれて助かったと言えなくもないが。
ーーーこの能力、これだけだったらハズレだろ。
乾いた笑いが出てしまうのは、仕方がないとカイトは思った。
皆様いつもながらご来訪いただきありがとうございます!
のんびりのんびり書いてはいますが、まだまだキャラクターたちの魅力を存分に引き出せていないのでは、と思いながらの投稿です。
でも書くのはとっても楽しい。読んでくださるかたがいるというだけで、自分の頭の中にある物語が、読者に受け入れられていると思えるので、毎回アクセス数諸々を見てはほっとしています。
さて、今回は説明回です。ちなみに私がこういった称号にステータス補正的なものをつけちゃうのは、テイ◯ズ▽ブシリーズを攻略する家族のゲーム攻略を後ろから眺めたり、自分でやってたりした影響です。あれ称号によってステータス変化あったしね! まぁこの物語は称号すべての効果を同時に受けられる仕様ですが。
まぁメインのやつより王道を行くこちらの作品ばかり展開を考えやすいために早々と投稿してますが、向こうも頑張って書いてるんですよ? ただ私が文章力足りないのかただお馬鹿なだけなのか、納得のいく描写が出来ない上、世界観の構成上ご都合主義なんて切り捨ててるから何を主人公に選択させるかとか、それに至るまでの展開や辻褄合わせとかで頭ひねってるだけでもたもたになってしまうというだけで。……更新ぺースを上げられるようガンバリマス。
それでは、今回も読んで頂きありがとうございましたー!