みんなで寄り添って休みました
ギルドを後にし、案内された宿屋は隅々まで気遣って清掃され、華やかさこそないが、暖かみのある落ち着いた 雰囲気の宿であった。
「いらっしゃい。何人だい?」
恰幅のよい四十路前後と思われる女将が、人のよい笑みで出迎えてくれる。
「門番長のローバストの紹介で来ました。人数は一人と従魔四匹です」
「ありゃ、ならその白い狼の子は、裏の厩舎かね。そこまで身体が大きいと、他の利用者が困るからね」
『僕、ここでもひとりなの……?』
耳も尻尾も垂れ下がり、ずぅーん、と沈んでしまったルイを見て、カイトは思わず口を開く。
「あ、あの。この子には物を壊さないよう言い含めます。どうにかなりませんか?」
「とはいっても、こっちも客商売だし。特別扱いは出来ないね」
難しいと言わんばかりの表情に、カイトは押し黙る。しかし、ルイのことを考えると引き下がれない。
「な、なら俺も含めて厩舎で寝泊まりするならどうでしょう?」
「………本気かい?」
目を瞬かせた女将に、力強く頷いて見せる。宿の中に入れないのなら、寝場所を厩舎にして貰う方がお互い良いのではないかと思ったからだ。
「まぁ、あんたがそれならあたいも構わないよ。けど、それなら宿の部屋代を貰う訳にはいかないし、厩舎の場所代と食事代だけで手を打とう」
「分かりました。それで大丈夫です」
頷いたカイトは、とりあえず三日分の代金を支払うとそのまま厩舎へと案内された。
使用許可されたのは厩舎の一番奥だった。一人と四匹が寄り添って眠る分には充分な広さが確保されているのは、おそらくルイより大きめの魔獣も想定しているのかもしれない。
ハインは厩舎に泊まると宣言したカイトに苦笑しながらも、今日は宿で休むだけのつもりのカイトに「また明日伺います」と礼儀正しく挨拶をして帰っていった。女将も仕事が立て込んでいるため、早々に立ち去ってしまう。
『カイ、ありがとなのー』
「いいよ、俺も離れがたかったんだし」
神アドラウスによって異世界へ転移したカイトにとって、この世界は未知で溢れている。右も左も分からないので不安だらけな今、頼れるのはルイたちだけだ。たとえルイがひとりで厩舎で過ごすことを納得したとしても、カイトは部屋からこちらへ来て時間を潰すことになったと思う。
「でも、今日だけでいろいろ起こったな」
死んだと思ったら、神に助けられ。
かつて死に別れた動物たちと再会し。
その動物たちが幻獣に成長したことを知り。
歴史も何もかも違う世界で生きていくことになり。
転移してすぐにモンスターに襲われるも瞬く間に一蹴した幻獣たちの規格外の強さに呆然とし。
しかしはじめての町で盗賊に間違われて。
現在、厩舎に泊まるという初体験をしつつ、幻獣たちと親睦を深めている。
ーーー簡潔にまとめるだけでも今日一日だけで日記を三ページは余裕で埋められそうだ、と思わず遠い目になってしまうカイトである。
それでも、塗り変わった日常はカイトにとって幸福に満ち満ちている。
『カイー、僕に寄りかかって楽にするのー』
ルイがそう言いながら尻尾でころんとあぐらをかいていたカイトの身体を倒しその身で受け止めると、尻尾をカイトの身体を覆うように巻き付けベッド代わりになってカイトの身を気遣う。
『レンも一緒に入るキュー』
そんなルイの尻尾とカイトと身体の間に、ぎゅむっと身体をねじ込んだレンは、カイトのお腹とルイの尻尾の間でぐにぐにと身体を動かし丁度よい位置を見つけると満足したようにふんっと鼻を鳴らして身体を弛緩させた。
『ずるいにゃー、ネロも入りたかったにゃー』
『仕方ないピィ。なら、アルは、ここにするピィ』
出遅れたネロが項垂れるなか、アルは早々に場所取り合戦に負けたと切り替え、ルイの背中に飛び乗った。カイトの頭がルイにもたれ掛かっているので、そのすぐ側に身体を落ち着かせ、温もりが感じられる位置に満足して目を閉じる。
『うにゃー……』
ネロが、カイトにくっつける場所はないかとカイトの側を右往左往し項垂れた。その様子に笑いを溢しながらカイトは組んでいた足を伸ばす。
「ネロ、おいで」
『あるじー、大好きにゃー!』
伸ばしたことで尻尾の中から現れたカイトの膝の上に飛び乗ったネロは、すりすりと顔を足に擦り付けて満足すると、その場で丸くなった。
「……可愛いなぁ」
ぽつりと呟きつつ、それぞれの温もりを感じながらカイトは目を閉じる。
疲れからかすぐにやって来た睡魔に抗うことなく、カイトは微睡みの海に沈んだーーー…。
今日自分がミスしたわけでもないのに、すごい怒られました。
ひたすらに癒されたくて書きました。後悔はしてない。……たぶん。
いや休むだけで一話使ってどうするよ、とは思ったけど。思ったんだけど! 思わずやった! すみません!
明日に支障が出ても知るか! と言い切れたらいいのになぁ。……言えないなぁ。
こんなのでも楽しんで頂けたら幸いです。
毎度のことながら、読者の皆様、来訪ありがとうございます。
また次回、楽しんで頂けるよう頑張りますね。