可愛い子達を理由に警戒されました
ルイの背中の上で揺られて、体感で一時間程だろうか。ようやく見えてきた町は、遠目でもかなり大きかった。
「でっかいな」
『いろんな音が聞こえてくるのー』
『なんだか楽しそうだキュー』
まだ到着もしていないのに、既に楽しそうな気配に昂る気持ちを押さえられないルイとレンを撫でていると、空から偵察を行っていたアルが何かに気づく。
『誰か来るピィ』
『ガチャガチャ音がするのにゃー』
言われて目を凝らして見てみると、何やら武装した集団がこちらへ近づいてくる。
「動くな!」
鋭い眼光を向ける先頭の男が、空気を震わせるほどの大音声で吠えた。
声も出せずに硬直したカイトから、視線を逸らすことなく男は言い放つ。
「こんなところに何の用だ!」
獣の咆哮を錯覚させる声で尋ねられる。その声量に見合う逞しい身体つきの男に見据えられ、カイトは萎縮してしまって声が出ない。だが、何か答えなければと思考だけは回っていて、何とか口こそ動かせたが音にはならない。
焦りだけが思考を焦がすなか、ふっとそれらの重圧から解放され、カイトはへたりと座り込んだ。
『カイにぃ、大丈夫キュー?』
ひょっこりとカイトの顔を覗き込んできたレンが、彼の頬にその右足を押し付けた。触れる場所から流れ込んできた温かな光に包まれ、少しずつ呼吸が楽になる。
そして周囲を確認しようと顔を上げーーー硬直した。
『カイ、いじめたの』
十数本もの氷の槍を集団を囲むように等間隔で地面に突き立て、氷の檻を即席で生み出したのだろう白き獣が周囲に冷気と五十は超える氷の礫を漂わせながら静かに集団を睥睨している。
『カイト兄を怖がらせたピィ』
集団の頭上で特大の炎の球を形成させつつ、その熱気で氷が溶けぬよう風魔法で空気の操作すらこなして底知れぬ覇気を放つ赤き獣が翼を広げる。
『許さないにゃ』
影を操り数本の鞭のようにしならせ、音が遅れて聞こえてくるほどの速さで振り回しながら黒き獣が唸る。
「ぐっ……これほどまでに格が違うとは………!」
歯を食い縛りながらそう呻いた男が、こちらをねめつけた。
「こんな魔獣たちを従えて、何をする気だ………!」
「え……?」
ルイたちに凄まれてなお、闘気と敵意を漲らせる男に、声には疑問符が漏れた。
「我が町には大した財産も、ない……! 日々平和に暮らしている我らから、何を略奪するために来た!」
ーーー略奪? 何を言ってる?
混乱するカイトに、さらに男は言い募った。
「我が町を貴様たち盗賊団の餌食にしてなるものか! 刺し違えてもーーー」
男がそこまで言ったところで、唐突に自分の状況を把握したカイトは思わず絶叫した。
「人違いですううぅっっ!!」
このままじゃまずい。それを理解したカイトは叫んだ。
「ルイ、アル、ネロ! 今すぐに攻撃止めぇっ!」
『いやなのー!』
『嫌だピィッ!』
『いやにゃー!』
間髪いれずに応じたルイたちに同調して、レンも『止めないで好きなだけやらせたら言いキュー』と言ってくる。だがそれを承服するわけにはいかなかった。
「怒ってるのは分かった! でも、今回はもうやめてくれ!」
全力で止めようとするカイトの姿に、真剣味が伝わったのだろう。
『………仕方がないのー』
『カイト兄の言うことなら従うピィ』
『やれやれにゃー』
それぞれが起動していた魔法を解除し、矛を収めることに応じてくれた。あたりは土が抉れたりはしていたが、三匹の戦意が消えたことで行動出来るようになった男たちは、こちらを警戒しながら口を開いた。
「……どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も、いがみ合う必要のない相手を刃物を向けられたからってやり返すのは違うでしょう」
怪訝な顔をする男たちに、カイトは言う。
「まずは、話し合いましょう」
「ーーーするってぇと、なんだ。お前さん、盗賊じゃねぇってのか」
「はい。俺はただの旅人で、ここには立ち寄るつもりで来ただけです」
互いにある程度の距離を置き、戦闘態勢を維持した緊迫感溢れるなかで、カイトは弁明を開始した。
「俺はここからかなり遠い土地で暮らしていたんですが、この子達は俺が面倒を見ていた子達なんです」
「こんな魔獣たちの面倒をか?」
「はい。ルイーーーこの白い子は俺の生まれる前から家にいたのでどのようなきっかけかは分かりませんが、大体似たような理由で拾って面倒を見ていました」
そう言ってカイトは四匹に向き直る。
「お手」ーーー両掌の上にそれぞれが羽や前足を乗せる。
「お座り」ーーーお行儀よく四匹は並んで座る。
「ルイ、一回転」ーーールイがその場で宙返りを軽々こなす。
「レン、伏せ」ーーーレンが器用に足を折り畳みお腹を地面につける。
「アル、歌」ーーーアルが童謡のワンフレーズを鳴き声で表現する。ちなみに町に来るまでに一緒に歌っていたチューリップである。
「ネロ、バーン」ーーーネロが死んだふりをする。
これらをそれぞれ内容を変えながら三回指示して、最後に皆におすわりを促す。ここまでやってにっこりと笑顔で振り返ると、男たちは既に戦闘態勢を解き、馬鹿馬鹿しいとでも言いたげな顔でこちらを見ていた。
「多種多様な魔獣を拾って育ててーーー死にてぇのかお前」
あきれたような声で男は言い、立てた片膝に肘を乗せ、器用に頬杖をつく。カイトは首を傾げた。
「魔狼の亜種に、火鳥に、影猫。調教師でも従えられるかわからねぇ希少な魔獣ばっかじゃねぇか。子どもの頃から育てたにしても、身を守る術がないときにこんな魔獣を育てるとは………」
「………親も、一緒だったので……」
「あぁ、親が相当凄腕だったくちか、お前」
なにやらおかしな勘違いをしながら、男は話を続ける。
「だとしても、その宝玉獣は駄目だ。無防備すぎる」
「え?」
「え? じゃねぇよ、なに考えてんだお前。額に赤い宝石を宿したやつなんて幻と言われてるカーバンクルしか思い当たらねぇよ。俺ぁてっきりどっかから奪った希少種を隷属させて悪用する盗賊の一味だと思うだろうが」
「………す、すみません………」
「……いや、俺も短慮な考えで動いた。どっちかってぇと、カーバンクルを隷属させて従わせるより、売っ払う方が金になることも考慮すべきだったな」
盛大に溜め息をつきながら、男は言う。
「まぁでも、こっちも仕事だ。大目に見てくれや」
「あ、はい。それは勿論。町を守る仕事の大変さは理解しているつもりです」
自分のように獣を従える盗賊が集団でのさばっている状況での対応に、自分が警戒されるのは仕方ない。
「詫びと言っちゃあ何だが、暫くお前には安全だと知らしめるためにも、誰かつけてやらぁ」
そう言って男はにやりと笑った。
「ようこそ、メウターレへ。歓迎するぞ、坊主」
ほぼ勢いだけで書いてるので、後から読んで不自然にならないよう文章差し込みながらの改訂ですが何とか一話。
山も谷も楽々超えられる設定ゆえ、深く考えずに書きたいこと書けるの楽です。
もうひとつの方だと、こういう展開に持っていくためにこういう話を~とか、この設定を活かすために~しようとか、考えながらだから難産だしね。
脳内リフレッシュにはこのくらいのライトな具合だと捗りますね。
それでは皆々様、読んで頂きありがとうございました(*´∇`*)