見た目も中身も可愛いのに大物でした
本日二話目。
まだ未読の方は、お戻りくださいませ。
「ボスは花精種なんです」
「ブルーベル?」
連れてこられたスラムの一角にある建造物の中、そこそこ整えられた一室。カイトは不貞腐れる少年にしか見えない彼の傍ら、スキンヘッドの厳つい顔の男の声に耳を傾ける。
「魔力を安定して扱えない限り成人しても小柄な種族でして。しかも花精種として必須である花や木を育てる才能が壊滅的ーーー」
げしぃっ、と蹴りが飛んできてスキンヘッドの腰に直撃する。身体をくの字に折り、悶絶した男は、暫くしてから落ち着いたのか何事もなかったように言葉を続けた。
「………ティオさんたちが住んでる家も、ボスが力の加減を間違えて植物で穴を開けてしまったもののひとつなんです」
「あぁ、なるほど……」
あの床が露出したハーブの群生地は彼が作ったものだったのか。彼女たちいわく住む前からそうだったとは聞いていたが、大きさに反して若木な気がしたのは魔法によるものだったのだと把握した。
「彼女たちが住み始めてから、自分の失敗でボロ家にとどめを刺したような家を住居とした彼女たちを心配してボスはこっそり様子を見に行ったんです」
「………可愛かったんだ」
むっすぅ、とあからさまに不機嫌ですと言わんばかりの表情に、見目が大変愛らしいため何の違和感もなく目に優しい。
「俺がその辺のガキだと思ったのか、自分だって親を失くして大変だってときににっこり笑いかけて、『良ければどうぞ』って食料を与えようとしてきて」
貧民街は弱肉強食の側面が強い。それゆえ、弱者を虐げる輩は腐るほど見てきた。しかし反面、『優しくされる』という未体験に、彼は大変戸惑った。
「これでもそれなりに生活できてる、って言ったら、目を丸くしてから『じゃあ私より先輩なのね』って」
なら、いろいろ教えて下さいな、と柔らかに笑った顔に、撃ち抜かれた。
今まで種族の特性とも言うべき見目によって実年齢より下に見られてきた彼にとって、先輩という響きと知恵を求める言葉は新鮮だった。
彼女の何気ない言葉は、廃れた裏路地で生きてきた彼に非常に大きな影響を与えーーー彼女の身の安全を秘密裏に守る理由にもなった。
本人の言葉の端々からティオに対する思慕が透けて見え、つい「可愛いやつだな」と言ってしまいそうになる口を引き結ぶ。
しかし冷静に彼の主張を聞いて、思わず言葉が口をついて出た。
「でもそれ、向こうからしてみればストーカー案件なのでは?」
「ス、トー……?」
聞き慣れない言葉に、首を傾げた二人にカイトはかいつまんで説明した。知らぬ間に見守られている状況はあちら側からすれば怖いのではなかろうか。知り合い程度にしかティオは感じていない可能性もあるし。
そのことを口にしてみると、彼は赤くなったり青くなったりして大変忙しく表情を変えていた。それにともない、耳の辺りから生える花などが芽吹いて弾けたり枯れたりしていて面白い。
「ボスはブルーベルとしては未熟でも膨大な魔力持ちでして。感情に釣られて身体から花が咲いたりするんです」
なるほど、これも種族特性なのかと興味深く観察していたら、彼は頭の中の整理がついたのか、こちらに食って掛かってきた。
「っ、毎日ティオの働いている店に顔だして食事してたのは?!」
「常連さんくらいには思ってくれてるでしょうね」
「ティオの帰りに合わせて迎えに行ってたのは?!」
「近所の子と一緒に帰る気分だったのでは? 店の人は微笑ましい姉弟と思ってそうですね」
「部下どもに代わる代わる店に常駐してもらってこっそり警護してたのは?!」
「アウトです」
ずーん、と重石が頭に乗ったかのようにその場で崩れ落ちたボスに、カイトは言う。
「そもそも、たとえ知り合いでも、それなりの節度を持って接しないと嫌われることになりますよ」
「……う、裏じゃ大切なものほど囲い込むのが常識なんだ」
「囲い込みも度が過ぎれば問題です。自分に置き換えて考えて見てくださいよ。君に惚れ込んだと宣う輩が影からこっそり見つめてくる日常」
「………それは………うん、すまない……」
自分のやっていることを振り返ってみて、「ない」と思えただけ常識は備わっていたらしい。
「だって知らぬ間にティオが男と仲良くなるのは嫌だったんだ!」
「開き直るのは止しましょうか。どちらにせよ、相手の好意が伴わない気持ちの押し付けはよくないですから」
「うううぅぅっ」
呻いて蹲る相手に容赦ない言葉ではあるが、知ってしまった以上止めないわけにも行くまい。何しろ、こんな些細なことで想い人の気持ちが山の向こう側くらいまで離れてしまう可能性はなきにしもあらずなのだから。実際に、女性に対しての接し方の勉強のためと思って男性アイドルが様々なシチュエーションに基づいて行動する番組では、自分が想定していた行動が辛口審査で扱き下ろされていて大変心にきたが勉強にもなった。アイドルのファンでもないのに録画をして映像が擦りきれるまでこそこそと勉強したなぁとふっとあの頃の苦労に涙が出そうになった。
「とりあえず、ティオの身の回りに突然現れた俺に警戒したのは分かりました。彼女とはちょっとした取引をした間柄なので、君が思うような関係はありません」
これ以上話を掘り下げるのはやぶ蛇になりそうだと思い、簡潔にティオとの関係を伝える。
「なら、なんでティオは姿を消したんだ」
「俺が彼女に与えた知識が、ここの領主の娘に伝わりまして。技術保護のため身柄を安全なところに移したと言われました」
「………あぁ、あの叔父対策か」
それだけで伝わったらしい。目を細めて低音でぼやいたボスに、カイトは頷く。
「確かに商業ギルドの大半を牛耳ったやつにそんな技術は渡せねぇよな。妙なもんも裏に流してるし」
「妙なもの?」
「魔物の剥製さ」
ボスの言葉にカイトは目を瞬かせる。
「それの何が妙なんです?」
「値段だよ。小型の魔物でも相場の三倍以上するんだ」
確かに貴族たちは見栄を張ることが多い。ゆえに、自分で狩ったと偽り魔物を剥製にしたものを秘密裏に手に入れることはままある。
だが、それでもこの値段は相場に釣り合うものではない。
「怪しくてな。今、秘密裏に探ってる最中なんだが、確たるものが出てこねぇ」
頬杖をつくボスに、カイトは聞く。
「現物は手に入らないんですか?」
「それの取り扱いは相当念入りみたいでな。隠密に長けたやつでも盗み出すのは困難な状況だ。ひとつでも手に入れられたら何か糸口が見えて来るんだろうがーーー」
『あるじー』
ボスのぼやきに反応したのはネロだ。なんだろうと顔を向けると、ネロが尋ねてくる。
『その、"ハクセイ?"を手に入れれば問題が解決するにゃー?』
「……かもしれないけど、それがどうかしたのか?」
『なら、ネロに良い方法があるにゃー!』
目を瞬かせるカイトの前で、今から手柄を立ててカイトに誉められる未来図を思い描いて、ネロがふりふり尻尾を揺らした。
というわけで投稿二話目。ボスの名前が出てこないのは作者が直感でも調べてもピンと来る名前がないからです。申し訳ない。
さて、次回はネロくん活躍回になるかと思われます。その頃にはボスの名前もきっと決まっていると………信じたい。
皆々様にとってはもどかしいほど遅々として状況が進んでないのですが、のんびりのんびり書いてはいるのでお許しを。
それではまた次回、楽しんで頂けるよう頑張ります。
お読み頂いてありがとうございましたo(*⌒―⌒*)o




