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先輩の新しい一面を知りました

別に神話なんて然程詳しく知っているわけではないが、それでも知識としてあったのは小さな頃に連れられていったプラネタリウムで興味を持って調べたことがあるからだ。



まぁ、小さな頃の調べたきりの知識なので、その神話にまつわる物語なんてほとんど頭から吹っ飛んではいるが。



だが、そんな話はさておいて。



「君が幻獣ねぇ………」



ルイの背に乗る羊を見つめながら、カイトは街中を歩く。ロブたちに伝えることもなくなったので、カイトたちは門から大通りの方へとのんびり戻っている最中だった。



『新しい妹分なのー。ルイも嬉しいのー』



『レンもキュー!』



尻尾をふりふり、嬉しそうなルイとはじめての妹分にテンションハイなレンが大変愛くるしい。そんな二匹を軽く撫でつつ、カイトは街中を歩いていく。



「さて、どうするかなー。流石にこの子がいるからまた路地裏にいくのは憚られるし」



一応もらった猶予は今日までなのだが、想定外とはいえこの子にとって怖い場所に分類されるであろうところにまた足を踏み入れるのは気が引けるし、しかしながら考えるための情報を集める場所にいけないのも困る。



どうしたものかと考えているカイトの後ろから、突然声がかかる。



「おぉ、そこにいるのはカイトじゃねぇか」



振り向くと、そこにいるのは上背の高い見慣れた男だ。



「ノイジさん。こんにちは」



「なんだぁ? また新しい魔物をテイムしたのかよ」



ルイの背中にのっている羊を見ながら笑うノイジに、ちょっと事情があってと濁しながら、カイトは笑う。



「そういうノイジさんは、依頼帰りですか?」



「おぉ、お前のとこの宿に肉を下ろすためにな。そのために狩った肉のほとんどは、相棒の腹んなかに収まるだろうが」



鼻唄歌いながら食堂に居座ってやがるとあきれた声でぼやきながら、ノイジは置いてきた相方がいるだろう方角に視線を向ける。



「まぁ、そんなこたぁどうだっていい。丁度いいから付き合えや」



「ーーーは?」









「珍しい武器使い始めたのを見たから、一度手合わせしてみたかったんだが………まだまだ、扱いきれてないようだな」



「…………え、えぇ……戦闘技術は、まだまだなんで………」



訓練に疲労して地面に崩れ落ちたまま、カイトは応じる。



「まぁ、今まで教えた武器よりかは様になった構えはできてるがなぁ」



そう言いながら斧を背に仕舞ったノイジは、そのまま言葉を続ける。



「で? どうした、お前? なんか悩んでんだろ?」



「え………」



「軽く試合っただけだってのに、全然身が入ってなかっただろ。こないだのギルド講習の方がずっと真剣にやってた」



「……………」



「これでも先達なんだ。相談くらい乗ってやるよ」



そうにやりと口許を歪めたノイジに、頼もしさを感じてカイトは姿勢を正した。



「最近のこの街の状況ってどんなか知っていますか?」



「あぁ? ………そうだなぁ」



顎に手を添えて考え込み始めたノイジは、しばらくして口を開く。



「食料が値上がりして量を確保しにくくなったなぁ。といっても、これでもCランクだからどうってことないが。後は路地裏の治安が悪くなったか。孤児院のほうにもできるだけそっち方面に近づくなって言い聞かせたくらいだからなぁ」



「孤児院、ですか?」



「あぁ、俺は孤児院育ちでな。武器や防具の手入れくらいしか使い道がないから、いくらかの手持ちの金以外は育った孤児院に食費としてやっててなぁ。そういやぁ、ここ数日は顔だしてねぇなぁ」



久々に行くかぁ、とぼやくノイジに、目を瞬かせるカイトである。



「面倒見、いいんですね」



「まぁ、育ててくれたシスターがすげぇいい人でなあ。もう足を悪くしてから街への買い出しは難しいから子どもたちの子守りくらいしかしてねぇらしいが、育ててくれた恩義はあるからなぁ。俺の妹分も、シスターの代わりに子どもの世話をするため孤児院に残ってるし」



「なるほど。恩返しというわけですね」



「ろくな勉強もできない俺にとって、たったひとりの親だからな」



にっと笑うノイジが軽く身体をほぐすように伸びをしてからこちらに尋ねてくる。



「よければ一緒に来るか? マーヴィのやつがいない分、男手は欲しいんだが」



「そういうことでしたら」



呼吸も整ってきたため立ち上がりながら服についてしまった汚れを軽く払い落としつつ、カイトは笑った。









「あー、ノイジ兄ちゃんだぁ!」



街の中心から東側に歩いて城壁にほどちかい場所。ノイジの案内によって連れられてきたカイトは、無邪気に遊び回る子どもたちがノイジに気づいてわらわらと近づいてきたので、思わずほっこりして笑みがこぼれてしまう。



「ノイジ兄ちゃん、戦闘訓練してー!」



「遊んでー!」



「肩車してー!!」



「そのひとだぁれー?」



ノイジにしか興味がないと言わんばかりにノイジを囲む子どもと、知らない人物を警戒して一定の距離から近づいてこない子ども。そんな子どもたちの様子を軽く流し見てノイジは口を開く。



「今日はマーヴィのかわりに手伝いをしてくれるって言うんで連れてきた。俺の後輩だよ」



「魔物いっぱい! テイマーさん?」



「そうだね。この子たちは俺の家族だよ」



頷くカイトに、子どもたちが目を輝かせる。人懐っこいルイに始まり、レン、アル、ネロと人に慣れた子たちだ。羊に限って言えば、既に体が逃げの体制に入っているようだが。



「一緒に遊ぶかい?」



「あそぶー!」



無邪気に応じた子どもに、カイトはルイたちに声をかける。



「子どもたちと一緒に遊んでもらってもいいかな?」



『合点承知なのー!』



『別に構わないキュー』



『少しだけなら問題ないピィ』



『勿論なのにゃー』



各自自分に対して興味津々な視線を向けてくる子どもにすり寄ったり腕の中へ飛び込んだりし始めたなか、羊だけは警戒しているのか子どもたちから離れるようにぱたぱたと羽を羽ばたかせてカイトの腕のなかに飛び込んできた。まだ人が怖いのだろうと理解して、軽く撫でてあやしながらさりげなく腕のなかに囲う。



「ノイジ、また来てくれたのね」



そんなノイジのそばへ、杖を突いてゆっくりとした足取りで、軽く右足を引きずりながら近寄ってきたのはシスター服をまとった老女だ。しかしその表情からわかるように、人の好さが前面に出た優しげな雰囲気を纏った人物だ。件のシスターだと理解するカイトの傍ら、子どもを一人肩車であやしつつ、ノイジが笑う。



「あぁ先生。丁度良かった。今日もいくらか食材を買ってきたんだ」



「? それにしてはずいぶんと荷物が軽そうだけれど」



「あぁ、今日はこいつが手伝うって言ってくれたからな」



軽く肩を叩かれ、会釈をしたカイトに、シスターが笑う。



「こんにちは。カイトと言います」



「こんにちは。ここの孤児院を経営しているカミラと言うわ。今日は手伝いに来てくれてありがとう」



「こいつ、時間停止機能つきの鞄持ちなんだ」



「なるほど。そういうことなのね。ありがとうカイトさん。こんなところまで」



「気にしないでください。戦闘訓練とかいろいろお世話になってますから」



そう言って笑ったカイトに、カミラは穏やかに笑って孤児院の方へ身体を向けた。



「申し訳ないけれど、厨房の方までいいかしら。荷物はそこに下ろしてもらえると助かるわ」



「ええ、大丈夫です」



軽く視線を滑らせると、ネロが心得たと言わんばかりに尻尾を振って応じてくれる。子どもたちの手から軽やかに身を離して、追いかけっこに興じつつ、孤児院の方へ駆けていく。



カミラの案内で施設内に入り込み、厨房の方へやって来ると、既に待ち構えていたかのようにネロが厨房の窓のひとつに飛び乗って待機していた。



「この台の上に出してもらえる?」



「了解です」



羊がカイトの邪魔にならないよう足元へ降りる。鞄に手を突っ込んだカイトの足元から、窓越しにネロが影を伝わせて魔法を行使した。次々と出される食料に嬉しそうに笑みをこぼしつつ、カミラは棚の中へしまっていくので、出しきったあとカイトもその作業を手伝い始めた。



「これで全部ですかね」



「ええ。手伝ってくれてありがとう。ちょっと出掛けている子が帰ってくれば料理をしようと思うから、お礼にごちそうさせてちょうだい」



「いえそんな。お構い無く」



和やかに談笑しつつ、子どもたちが遊んで回る庭の方へ再び足を向けたカイトたちを見て、ネロも窓から飛び降り子どもたちとの交流に向かうのを横目で確認する。



「足を悪くしてからなかなか遠出は難しくて。今は子どもたちが院から出ないよう見守りながら過ごすくらいしかできないのだけれど、こうして巣だった子達がなにかと気にかけてくれるから、それなりに生活はできているのよ」



「良い孤児院ですね」



「そう言ってくれると嬉しいわ」



ゆったりとした足取りのカミラに足取りを合わせながら会話をしていると、表の方から子どもたちの楽しそうな声が聞こえてくる。その中にノイジの笑い声やルイたちの子どもたちを気にかける思念が混ざりつつ聞こえてくるので、それなりに楽しくやっているのだろうと思いつつ笑う。



そんなこんなで子どもたちのいる庭まで戻ってきたカイトたちは、ふと孤児院の入り口を覗いている小さな影に気づいた。



「シスター。あそこにいる子は………?」



「見かけない顔だわ」



とりあえず子どもであることは間違いないので、カミラとともに近づく。大人二人に近寄られ、びくりと軽く身動ぎしたその子は、しかしおとなしくその場にいた。



「あなた、ここになにか用かしら?」



「お腹でも空いているのか?」



そう尋ねたカイトたちに、子どもは軽く俯いてからきっと顔をあげた。



え、と声をあげる間もなく、カイトの肩に軽くかけられていた鞄の紐を後ろ手に隠していたナイフで断ち切り抱えて走り出す。



呆然とするカイトの傍ら、すぐに状況を把握して顔色を変えたのはカミラだった。



「ま、マジックバッグが盗まれてしまったわ!」



「あ」



そうだ、カイトにとってはなんの変哲もない鞄でしかないが、周囲にとっては違う認識を持たせているその代物を盗まれるのは非常に不味い。



「き、君! ちょっと待って!」



事態を把握したカイトは、慌てて駆け出した。

………8月にたくさん書きたいとかいって起きながらこの体たらく。……まことに申し訳ありません。



いや、職場がコロナで赤字経営だったらしく倒産するか会社を売るかで大変だったそうで、9月から新会社のもと業務もやり方から一新するためいろいろ手を入れられ10月から完全に一新されました。ちなみに言えばまだ新しいやり方に全く慣れない上に人件費削減のため二桁の人が9月いっぱいで止めていって少数精鋭になりました。………もうゆっくり仕事やれない……。



しかも8月になってから来月から新会社のもと頑張って下さいと会社経営事情から何から通告されるので、本当に趣味どころではなかった。興味のある題材の作品は常に出てくるから、とりあえずマイリストは更新しつづけてはいたが。……一回マイリス整理すべきか。結局読めてないのもいっぱいあるからなぁ。



そんなこんなで久しぶりの更新です。すごい楽しかった。そしてこんな感じで緩く書いてるのにも関わらず、マイリスト登録消さずに残してくれていた皆々様には感謝を。私の知らない間にブクマも増えているので、新規の皆様もこの作品を見つけてくださりありがとうございます。



まだまだリアルが忙しすぎて次の更新がいつになるか明確には言えないけれど、細々と続けてはいきますので気長にお待ち頂けると嬉しく思います。



それでは皆様、来ていただいてありがとうございます。お楽しみ頂けると幸いです。

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