まさかの五匹目に遭遇しました
「……で? なんでこの子を追いかけ回してたんだ」
ネロたちによる刑の執行後。
大変見苦しい格好のまま涙目になっている男たちに、カイトは尋ねる。
「……う、うるせぇ。関係、ないだーーーひぃっ」
腫れ上がった身体の一部の痛みが思考の巡りを阻む中、それでも黙秘を貫こうとした男たちのひとりがそう口にした矢先、ネロが無言で影の鞭を振り上げた。途端、それを視認して全員が身を震わせた。
しなる鞭のように強打されつづけたことで衣服も所々破けて血も滲んでいるので、無理もないのだが。ネロが振り上げた黒々とした鞭は口を軽くするのに十分なものだったらしい。
「上からのお達しだよ! 逃げ出した魔物を捕まえてこいって!」
「……逃げ出した?」
穏やかではない響きに、カイトの眉間に皺が寄る。
「檻から逃げ出したそいつを捕まえろと言われただけだ!」
檻から逃げ出した。
響きからして不穏な色を宿す言葉に、カイトは嫌な予感が沸き出すのを止められない。
とりあえず兵士にでも突きだそうと腰を上げるが、さて、この場合に確実にこの男たちを締め上げてくれる相手など、心当たりはひとつしかない。
「……門まで、こいつら引きずってかなきゃなのかぁ」
しかし、この街の現状からして、よろしくない側であろう者達をそこらの警備に突き出してなぁなぁにするのもよくないだろう。下手をすれば揉み消される可能性すらある。
だが、こいつらを引きずっていても確実に警備に連絡されないよう何らかの目印はつけておくべきだろう。じゃないとこちらが警備の御厄介になりかねない。
さてどうするか、と考えた矢先、足下にいたネロが肩に駆け上がってきた。
『あるじー、いいものがあるにゃー』
そういってネロが取り出したのはなんの変哲もない木の板と紐だった。思わず首をかしげたカイトの眼前で、その板にアルが近寄っていく。
『こうすればいいピィ』
ネロが炎を操って木の板に文字を焼き付けていく。そこには、こう記されていた。
『人の財産根こそぎ奪おうと襲ってきたため、現在拘束、連行中』
木の板に穴を空けて紐を通し、ぐるぐる巻きにされた男たちは、ルイが生み出した氷の車輪がついた板に乗せられ、ネロに身動きできないよう影で拘束された。
続けてルイが再度魔法を行使し、板から等間隔に氷柱を生み出し、即席の檻を完成させる。立て続けに人力車にあるような持ち手を作り出し、前方の棒を加えてルイがぐいっと檻を引き始めた。
「……うちの子達、優秀……」
当然ながら、表通りに出ても苦情はなく、寧ろ人の財産を奪おうとしたーーーと思われているーーー男たちを厳しい目で睨む視線を感じつつ、なんの苦労もなく運べたのだった。
「なるほどな。確かに妙な話だな」
個人的な溝があるとはいえ、社会人としては見過ごせない事態を伝えぬわけにもいかないと内心己を叱咤しつつロブに取り次いだ。椅子に座るよう促され、大体の事情を話せば、当然ながらロブはカイトと距離を隔てる目の前の机に乗っている小さな生命体に興味深げに視線を落とす。
途端、その目線に怯え縮こまるのを見て、カイトの目が据わる。
「怯えさせないでくださいよ」
「それが臆病なだけだ! 睨んでねぇよ!」
濡れ衣と言わんばかりに吠えるロブにますます縮こまったもこもこを、大丈夫だと励ますように軽く撫でる。
「にしても、こんな種がいるんだな。この辺じゃ初めて見る魔物だ」
「そうなんですか」
「まぁ、ちっさいとはいえそんなもんついてんだ。親と飛行中に落下でもしたんだろ」
ロブの目が捉えた羊の背には、小さいがぱたぱたと動く翼がある。姿かたちからしてとても愛らしいので隅々まで堪能したいが、人間に捕らえられ怖い思いをしていた子だ。人の傍でじっとしているだけでも僥倖といえる。
「まぁ、暫く世話してやれや。無理ならこっちでするが」
「言われずともやりますけど。というか、渡しませんけど」
こんな可愛いを体現した存在を誰が譲るか。ルイたちも新たな兄弟分になりそうな存在に興味津々なようだし、レンに至っては目を輝かせている。
何故ならば、この羊の魔物はーーー
「女の子、だもんなぁ」
ルイたちのなかで唯一の紅一点たるレンにとって、妹とカテゴライズできる仲間の登場には感無量だったようだ。既に姉貴分な風を吹かせて何やらせっせと机の上にいる羊の身体を触り、ほんの小さな擦り傷なども癒してやっている。
『女の子が傷だらけなんて駄目キュー。他に痛いところはないキュー?』
「メェ、メメェ」
『良かったキュー。また痛くなったらいつでも言うキュー』
嬉しそうに軽く跳ねて喜びを現すレンの姿は愛らしすぎて、カイトは何故記録できるものがないのかと血涙を流して叫びたい気分になった。カメラでもビデオでもいいから類似品があれば絶対買おう。
目の前で繰り広げられる愛らしさ全開の一幕を見逃してたまるかとばかりに注視していると、レンと羊が距離を縮めて何やら話してからこちらを向いた。
何事かと軽く首をかしげると、次の瞬間羊が鳴いて、ぺふっとお腹にダイブしてきた。
庇護欲を煽るその仕草に、カイトは口元を片手で覆って呻いた。
ーーー可愛いが過ぎる……!
『助けてくれてありがとう、って言ってるキュー。お礼に好きなだけ撫でてもいい、だそうキュー』
レンが通訳してくれる。カイトの称号に付属するスキルが発動していないため、まだ人間に対する警戒は解けないが、助けられたことは理解しているからだろう。
何かお礼がしたいと言う羊に、レンがアドバイスしたらしい。思わずグッジョブ、と親指をレンに立てた。
羊のふわもこな毛を堪能しつつ、カイトは何か親のもとへ帰せる情報はないかと思い「鑑定」と小さく口にした。
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ステータス
名 前/ーーー
種 族/金色羊
レベル/5
スキル/風魔法 Lv.2
火魔法 Lv.1
飛 翔 Lv.2
称 号/小さな勇者
庇護受けし者
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ーーーなんか、前世ですごく聞き覚えのある種族名だなぁ。
そう、星とか誕生月とかによくみるあの名前である。
前世で見聞きした情報が思い起こされ、カイトは遠い目になった。
ーーーまさかの五匹目。
ルイたちで打ち止めになるかと思いきや、またしても遭遇した幻獣にさてどうしたものかと内心頭を抱えた。
………夏なんて滅べばいい……(´_`。)゛
暑さにやられる毎日、皆様どうお過ごしでしょう?
こちとら日々の暑さに完全にやられております。
なのに仕事場の制服は年中同じで夏用がない。
………炎天下の中通気性ゼロの制服を着なきゃならんのは何て言う拷問だ……夏用作ってくれ……(切実
利用者様第一なので冷房もあまり下げられない状況で換気などで窓を開ける度に感じるむわっとした空気。
はっきり言って地獄です。サラリーマンの方とか炎天下の中営業で出回る際に大変な思いされてるだろうからまだ空調効いた場所にいられる分恵まれた職場だとは思うのですが暑さに弱いのでほんとしんどいです。着込めばなんとかなる冬と違って脱ぐにも限界があるのでほんとにこの時期何もしたくなくなりますねぇ。その状況で現場を締め付ける仕事の変更や追加はしないでくださいと言える強さが欲しい。
さてそんなこんなでやっと出来上がりました。羊ちゃんのスペックはとても低い上にアルと属性被るんだけど、ファンタジー系のもふもふ探しで出してみたかった種なのであたたかい目で見ていただけると嬉しいです。
皆様も熱中症などにお気をつけて。
今月なんとか一話書けて安心した。
来月こそは出来るだけ書き込めるよう頑張ります。
それでは皆様、読んで頂いてありがとうございます。