夕食はなんとか間に合いました
乱獲と呼ぶに相応しい討伐をこなし、肉をハインに届けてからは早かった。
ハインが呼んだ肉屋の店主が肉を解体し、それを受け取った亭主が調理をこなしていく。野菜や小麦も既にハインが備蓄を各店舗を中継して宿に届けており、亭主は夕食に間に合わせるため鬼気迫る勢いで腕を動かしている。ハインはほかにもすることがあると言って、早々に帰っていった。
料理をカイトも手伝おうかとも思ったが、おそらく宿は監視されていることが予測できるので、下手な真似をして目をつけられるのは避けたいカイトは手を出せない。
その代わりに、女将が直接料理の差配に関係のない皮むきなどの作業を引き受け、夫婦二人がかりで作業にあたっている。掃除などの通常の営業は、低ランクの冒険者に、働いた分宿代をタダにすることで手を打ったようだ。まだまだ新人と思われる年若い少年少女たちが、手分けして部屋や食堂の清掃などに走り回っている。
「日暮れまであとどれくらいだ?!」
「まだ頂点からそれほど落ちちゃいないよ! この子たちがかなり早く狩ってきてくれたからね!」
「なら煮込む時間は充分だな!」
夫婦ならではの息の合った掛け合いをしながら、手際よく仕込みをこなしていく二人に、食堂の厨房にほど近い場所のテーブルでカイトはマーヴィたちとともに状況を見守る。
「おいしいものは時間がかかるんだね。手間暇かけて作られたものを食すのが楽しみだ」
「俺もそれなりに料理はするが、専門じゃないしな。狩った魔物を適当にさばいて焼く程度だし」
「それでも絶妙な塩加減で実に美味しいから文句はないよ。僕がやると焦がしてしまうか生焼けだからね……」
「お前にその手の技術は備わっていると思ってない」
遠い目をするマーヴィにノイジが呆れたように言う。
そんなやりとりをしながら日暮れまで待つ。
そしてついに料理は完成し、昼間の出来事などなかったかのように滞りなく夕食は提供された。
「素晴らしいね! 僕らが狩ってきた魔物がここまでの料理となって出てくるなんて!」
流れでマーヴィたちとともに食事をとることになったカイトは、事前にルイたちに料理を配ってから食堂へ降りてきて食べている。普段部屋で食事をしているカイトにとっては驚きだが、食堂のなかは大変な込み合いになっており、外が見える窓からもちらほらと人影が映り、並んでいることがわかる人気ぶりだ。
まだハーブについては量が確保できていないのでコンソメスープしか教えていないのに、この盛況ぶりに慄くカイトである。
そんなカイトの気持ちなどいざ知らず、マーヴィは次から次へと料理を注文して消費していく健啖家ぶりで、皿を積み上げていく。ノイジがその隣で酒を飲みながら食事を口に運んでおり、外見だけならば大食いに見られそうな大きな体に似つかわしくない丁寧な所作で食事を食べていく。
第一印象と結びつかない二人の食事風景に、思わず苦い笑みを浮かべるカイトである。
「これからどうされるんですか?」
「しばらくはあの領主の息子さんに肉を買い取ってもらう依頼を引き受けるよ。僕としてはこの味が食べられなくなるのは嫌だからね」
「こいつの食道楽が満たされなくなったら戦っても貰えなくなる。しばらくは肉を狩る為にこいつと戦闘できるから、俺としてもそれで問題ないな」
肉の補充は新鮮なものを下ろさなければならないので毎日行く必要があるが、そのあたりは午前中働いて午後はゆっくりするなどして上手くやるから問題ないらしい。
「―――どういうことだ! これは!」
しかし、そんな会話に水を差すように、苛立ちまぎれの怒号が後ろから飛んできた。振り返れば、最近よくみる嫌な顔がある。視線を外へ滑らせると、馬車が留めてある。外にも人が並んでいるだろうに、あそこまで堂々と留められる胆力に呆れるしかない。外の人々も、嫌そうに馬車を見たり窓から室内に入っていった件の人物をねめつけたりしている。どうやら喧噪に紛れてきたから、未熟なカイトでは気づかなかったようだ。向かいに座る二人は気づいていたのか、驚いた様子も見せずに普通に食事をしている。
「どうもこうも、見ての通りだ」
厨房からのしのしと出てきた亭主が、険しい面持ちで使者にそう言ってのけた。だいぶ腹に据えかねているのか、今にも殴りかかりそうな雰囲気を纏う亭主に、さもありなんと思いつつ人前ゆえにことが荒立たないようにと固唾を飲んで見守るしかない。
「まさか、そんなはずが……!」
「残念ながらこちらにも支援をしてくれる相手はいるんだ。簡単につぶせると思うなよ」
「くっ……! また来るからな!」
負け犬の遠吠え、と呼称するに相応しい捨て台詞を吐いて、とっとと退散していく使者に、詰めていた息をふっと吐きだして安堵する。どうやら今日のところはこちらの勝ちで終わったようだとカイトは笑う。
「どうやらまだ諦めていないようだね。これは今後肉の調達も妨害が入りそうだ」
「肉の配達の最中襲ってこられるのは大歓迎だけどな」
「それはお前だけだよノイジ。必要以上に僕は戦いたくないのだけど」
「ならその時は俺に戦わせろ。多対一なんて燃えるじゃねえか」
にやりと笑うノイジにマーヴィは呆れたように息を吐きつつ、カイトを見る。
「今日のところはこれで失礼するよ。また後日、何かあったら言ってくれ」
にこりと笑い、彼は立ち上がる。
「僕の食事を満足させてくれる可能性のある君の助けなら、割引価格でいつでも力になるよ」
ちゃっかりしている、と思って笑いつつ、カイトも頷く。
「ええ。何かあったときはよろしくお願いします」
まだまだ課題はあるが、少なくとも頼れる上位ランカーの知り合いが出来たことだけはよかったのではないかとカイトは判断した。
最近仕事が大変になってきて満足に休める時間も減ってきました。
過労とかなったら労災でるかなぁ。ふふ、最近氷枕と冷えピタ手放せなくなってきた。頭痛ひどい。
帰ったら仮眠どころかがっつり寝てからでないと動けなくなってきた。休みを休みとして使ってるけど、趣味時間に充てたい時間もあるからなかなか更新できません。ほんと申し訳ない。
こういうとき癒されたいのにルイたち出せないというね! なんというか踏んだり蹴ったり(?)です。
今回も読んで頂いてありがとうございました。
次回は………いつになるかなぁ。とりあえず、無理のない範囲で頑張りますのでよろしくお願いいたします。