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段々腹が立って来たので八つ当たりしました

「一庶民にーーー」



一夜明けて。



「過度な期待をするんじゃねええぇぇぇ!」



話を聞いたときは、自分の存在が危険視されていると警告されへこんだ。しかし、ルイたちに癒され一眠りして、目が覚めると。



ーーーそもそも政治などとはてんで縁のない自分に察しろと言う向こうの言い分に、前知識のない相手に無理があるだろうという考えが頭にもたげ始めてきた。結果、なんだか腹が立ってきたのだ。



「ああぁぁ、会社員だった頃の社畜思考に偉い人だと思っただけで切り替わるのが情けねええぇぇ!」



そう言いながらも草原に作られた氷柱へ向け、近接用のチャクラムを振り回すカイトである。



『カイ、荒れてるのー』



『元気を取り戻したなら何よりキュー』



『物に当たってすっきりするピィ?』



『どうかにゃー? とりあえず、あるじが落ち着くまで見守るにゃー』



そんな傍観態勢を決め込む四匹とともに、街から出てある程度離れた場所でルイに魔法で的をつくってもらい、鬱憤をサンドバッグ代わりに氷柱へ向けるカイトに、昨日の消沈した様子はない。



「文化も何もかも違うところに急にやってきて! 日本の味を追及しようとしたこっちも悪かったけど!」



街から離れたことで気が大きくなったのか、あるいは鬱屈した思いを吐き出すのに丁度よかったのか。何にせよ、己の中にある気持ちに向き合うにはこの動かぬ的に思いの丈をぶつけるのはカイトにとっていい気晴らしになっている。



『段々攻撃が綺麗に繋がってきたピィ』



『あれだけ暴れてても武器の扱いを最適化してるあたり、さすがあるじにゃー』



副次的効果か、戦輪を振り回す腕の動きも段々洗練されてきているあたり、彼の頭は完全に冷静さを失っていないようにも見える。だが、流石に周囲に気を配るほどには至らない様子なため、カイトが周囲に注意散漫な分、幻獣たちは各々周囲への警戒はしつつのんびりと身体を休めている。



「こっちだって称号の力があるとはいえ! 合わない食事を毎日食べるようなことしたくないし! 何より食事を食べられると知った今! あれをルイたちに振舞い続けるなんて冗談じゃない!」



『ルイたちのことまで考えてくれてるのが嬉しいのー』



『カイにぃ、レンもカイにぃのごはん食べられないのは嫌キュー』



『同じくなのー』



『当然ピィ』



『同意見にゃー』



吐露した言葉にルイとレン、ネロがふりふりと尻尾を揺らして喜び、アルも翼をはためかせ、とても嬉しそうだ。



「知識に関する意識が低かったのは認めるよ! だけど、こちとら過労レベルの仕事から解放されて! しかも可愛がってたみんなに会えて浮かれてたんだ! ちょっと周りを冷静に見れなくても仕方ないだろおぉぉがああぁぁ!」



メウターレに来てから、まだ日も浅い。そんな状況で街中を見て回り、メウターレに関する情報を集め上手く立ち回ることなどカイトには出来やしない。そんな芸当が出来たら、もっと仕事を効率よくやれていた。



そうやってガンガンと氷柱に思いの丈をぶつけ続け、暫くしてからカイトは肩で息をしながら座り込む。



「………つかれた」



『すっきりしたキュー?』



レンが寄ってきて、カイトの疲労を即座に回復しながら問うてきた。



「うん。そこそこ、かな」



昨日の落ち込みようとは打って変わり、笑顔でルイたちに向き直ったカイトは四匹を代わる代わる可愛がり始める。



「あー、癒されるー」



ルイの身体に身を埋め、レンを抱き抱え撫で回す。



『カイー、暫く休むのー』



『肉体的な疲労は簡単に癒せても、精神疲労は簡単に癒せないキュー』



そこで出来ないと言わないあたり、流石カーバンクルである。



『あるじー、ひざ掛けはいるかにゃー?』



『アルがちょっと大きくなって温めてもいいピィ?』



ネロやアルも、汗で濡れた身体が冷えないよう気遣いつつ、カイトに甘えてくる。ルイに汗を吸い込んだ服の水気を抜き取るよう言えば解決するのだが、何かと理由をつけて誉めてもらいたいがためにあえて自分が出来る方法でカイトを気遣ってくるあたりがあざとい。



そんな二匹も撫でたり抱いたり、頬をすり寄せたりしながらそのふわふわな羽毛や毛並みを堪能するカイトである。



まだ協力の受諾もしていないので何も現状は変わっていないが、それでも胸の奥にあった濁った感情をある程度ぶちまけることが出来て、カイトは清々しい笑みを見せた。



「さて、気分も晴れたところでアルミラージの討伐に行こうか」



既に1日目の大半を費やしている。



そろそろ討伐しないと、設けてもらった考える猶予もなくなってしまうと、カイトは重い腰を上げた。










『標的は5時方向、距離500ピィ』



開けた場所ゆえ、アルミラージの索敵はさくさく進んだ。といっても、武術訓練のため手を出さないようにと言ったカイトに、ならばサポートは万全にさせてほしいとルイたちが言ってきたからだ。



カイトが成長を望むなら、従魔たるルイたちがそれを妨げるのは望まない。しかし、彼の身の安全は整えて送り出したいのである。折角会えたのに、早々に死に別れなんて、絶対に嫌だった。



そんな気持ちも分かるし、カイトも痛い思いはごめんだ。そのため、彼らのサポートの提案は素直に受け入れた。



「まずは投擲で狙って、無理ならそのまま近接だな」



『了解キュー。カイにぃ、ちょっと待ってキュー』



そう言ってレンが魔力を練り、カイトに魔法を放つ。



筋力上昇(マッスルアップ)!』



魔法の発動を確認してすぐ、レンはふんっともう一度魔力を練り上げる。



『そして守護の光(シュッツオール)だキュー!』



カイトの筋力を魔法で強化し、防御魔法を掛けて万が一攻撃を受けても防げるようにしたレンが、『これで大丈夫キュー』と満足げに鳴いた。



「ありがとう」とレンに言って、ネロからチャクラムをひとつ受け取り、カイトは届くだろう距離まで近づく。



アルミラージから目測およそ50。これ以上は流石に気付かれると判断し、そこからの投擲を試みる。



すぐに戦闘が行えるよう、地面にチャクラムを突き立て、その間から見えるアルミラージにすべての意識を向ける。



強化された筋肉によって放たれたチャクラムは、アルミラージに気付かれぬよう片膝をついて投擲された分低空を維持したまま迫る。何度か地面に激突し、威力を減衰しながらそれは標的に肉薄しーーー無念にも届かず地に落ちる。



遠目からそれを視認し、投擲失敗を確認するや否や、こちらに気づいたアルミラージが警戒態勢でこちらに向き直る。



「やっぱ無理か!」



ならば近距離で仕留めるまで、と突き刺したチャクラムを掴み取り駆け出した。



開幕、額の角を突き刺そうと直進してくるアルミラージを視認、向こうが跳び上がったところで身体を捻り回避し、着地と同時に追撃を狙う。



しかしその場からすぐさま離脱、横に跳んで即再度のアタックを試みてきた向こうの攻撃に反応できずレンの魔法が発動する。



不可視の結界に阻まれ攻撃が届かないと見ると、一度距離を取り、重ねて同様の攻撃を繰り返してきた。



「なるほど、流石ランクE! 同じ攻撃なら軌道は読めた!」



今度は一歩横にずれることで狙いから外れ、跳んできた標的の無防備な横腹にチャクラムをその場に置くことで自動的に攻撃を当てた。



『キュイイイイイィィィ』



回避できない空中で出来た衝撃に空気を震わせる鳴き声を漏らしつつ地に転がった標的に、カイトはとどめの一撃を振り下ろす。



完全に絶命したのを確認して、カイトは長い息を吐いた。初めての命を奪った感覚に、手が震える。



「………」



ぎゅっと拳を作り、目を閉じる。まだ慣れない感覚だが、これはこれから続けていく行為だ。



込み上げた何かを呼吸を整えることで押し込め、カイトは四匹に振り返る。



「さぁ、次行こうか」



了解の意を返した四匹と共に移動する。



そうして十匹目を討伐する頃には目も慣れて、攻撃を避け攻撃を当てられる程度にはなった。投擲は、まだまだ当たらなかったが。



陽光も段々と山の稜線に隠れかかっている。これ以上の探索は不可能と判断し、カイトはメウターレへ戻ることを選択した。

まぁ、内容が濃厚な分、長居しているようにも見えるけど、実質カイトってまだ異世界転移してから5、6日くらいしか経ってないからね。それでこんだけ騒ぎ起こせるのもすごいが。



あれもこれも気に掛けるなんて器用な真似、私だって無理だ。じゃなかったら、仕事で怒られることなんてないわー。



それでは皆様、今後もお楽しみいただけますよう頑張りますのでよろしくお願いします。



今回もご閲覧ありがとうございました(*´∇`*)

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