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街の現状を知らされました

連続投稿三話目です。


未読のかたはご確認ください。


今回ほのぼのじゃないし、ややこしくはないけど、張ってた伏線回収に勤しんでます。

ハインに連れられ、やってきたのは見慣れた外門だった。首を傾げるカイトの目に、腕を組んで壁に寄り掛かっているロブの姿が映る。



「ーーー来たか」



ロブがそう言ってくい、と親指をたてて門番をやっている兵士たちの使っている宿舎を指差した。おそらくそちらへ来い、という意味なのだろう。



素直についていくカイトだが、いつもとは一転して険しい面持ちを崩さないハインを盗み見る。どこか緊張しているようにも感じられる表情に、さて一体何なのだろうと首を捻るしかない。



遅い時刻ゆえ、大半は食堂で食事を摂っているのか、人気はない。その中を、ロブとハインの案内で進んでいく。ルイたちも、連れ添うことに異を唱えられることもないので、静かについてくる。



「こちらです」



やがて兵舎の一角、比較的整えられた誰かの部屋だろう場所に導かれ、カイトは目を瞬いた。



「あれ、あなたは……」



「あら、覚えていてくださったんですね」



にこやかに笑うその表情は、髪色などは異なっているが見覚えがある。



「ギルドの、受付さんですよね」



初めてギルドで対応してくれた人だ。あれから何度行っても会わないが、シフトの影響だと思っていた。



「ええ。その節は失礼しました。そして今回も、呼び出しに応じていただき感謝します」



柔らかに笑む女性に、カイトは戸惑う。傍らにいるハインを見上げ、遠慮がちに問いかけた。



「どういうことですか………?」



「カイトさん、あなたを見込んでお話したいことがあります」



ハインが部屋の中にあった装飾品に触れる。途端、見えない何かが部屋全体を包んだ。それを確認して、ハインはカイトに向き直り、答えるために口を開く。



「まず改めて名乗りましょう。私の名は、ツァールトハイト・アルム・オルドヴェル。ここ、メウターレを治める領主、ヒェーヴン・フォン・オルドヴェルの息子に当たります。………といっても、養子にあたるので、血の繋がりはありませんが」



カイトの目が、大きく見開かれた。








「まず、ハインのようにわたくしも名乗りましょう。セリエラ・フォン・オルドヴェルと申します。ハインとは義兄妹に当たります」



ロブを除く三人が部屋に置かれていた長ソファーに座ったーーーカイトは従魔たちとともにひとつのソファーを占領してしまっているがいいのだろうかと心配になりつつーーー後、女性ーーーセリエラが名乗る。それに戸惑いを隠しきれないまま頭を下げたカイトに、セリエラが穏やかな口調で事情を話し始めた。



「我がオルドヴェル家は侯爵の地位を国から頂いております」



「はあ」



もう遠い世界の話のように思えるし、ついでに言えば貴族なんていう偉い身分のひとと知らないうちに相対している事実から目を背けたくて仕方ないカイトだが、とりあえず相槌を打ちつつ話を聞く。



「父は貴族としては平凡ですが、民たちの陳情に耳を傾ける良い君主です。幼い頃よりそんな父の背中を見てきたわたくしは、いつか父を支えられるようになりたいと、努力しておりました」



そんな彼女が、どうにもできない事態に陥ったのは、一年と数ヶ月ほど前。



「わたくしの誕生日祝いのために、王都から帰って来る最中の父を乗せた馬車が崖から落ち、父が意識不明の重体に陥ったのです」



突然の出来事に、セリエラは戸惑った。一命は取り留めても目を覚まさない父を見て、どうにかしなければと政務を取り仕切ろうとした。



「………ですが、分家に婿入りした叔父が戻って来て、父が行っていた政務を取り仕切らせろと言ってきたのです」



女が(まつりごと)に手を出すなと責められた。それでも、セリエラは譲らなかった。



「父が重体とはいえ生きている。直系筋とはいえ、分家に下った叔父ごときが領地経営に口を出すなと、私は彼を領地に関することから閉め出しました」



そして、禍根は残った。



「一見しただけではなかなか分かりづらいのですが、叔父の手の者と思われる人々が、よろしくないものをこの街で売り捌くことが増えました」



他にも、父の代ではそこそこ整えられていたはずの貧民街区画が拡大したり、貴族による民への暴行などが、彼女の耳に届く前に握り潰されたり。彼女がどれほど苦心しようと、何度も妨害を受けた。



「先日ハイン伝で伺った薬屋のお孫さんの件も、事故の件は知っていましたが怪我の度合いは初めて知りました」



「……え」



「しかしそれもわたくしが街へ降り、民の生の声を聞いていたからです。書類については、一切わたくしのもとへは届いておりません。結果、身内の誰がやったことなのかも掴めていないのです」



「それって……」



「何者かによって、不都合な事実が揉み消されています」



沈鬱な面持ちで語るセリエラの肩を、ハインが慰めるように抱いた。深く呼吸をしてからセリエラは顔をあげ、静かに説明を続ける。



「オルドヴェル家の直系は、父を除けばわたくし以外残っているものはおりません。母は早くに亡くなりましたし、母を愛していた父は後妻をとることをよしとしなかったので、後継になり得る弟妹がいないのです」



そんな父を助けたくて、支えたくて。ただ、ひたすらに頑張ってきた。



「しかし、女が政務を取り仕切るという事実は男として矜持が許さない、という考えのものも、一定数存在します」



彼女の膝で組まれた手が、悔しさが滲み出たか服の一部を強く握りしめ皺を生み出す。



「父が床に臥している今、分家の年頃の人間を紹介され、結婚と同時に政務を奪取されかねない状況が続いています」



つまり、叔父はやり方を変えてきたのだ。彼女を取り込み、血筋を守った上で確実に権力を手に入れる方法として分家を取り込んで。



「残念なことに、わたくしには婚約者がいません。デビューのとき、貴族のパーティーではとても嫌な思いをしましたから、婚約者を見つける気力が沸かなくて」



そんな自分の我が儘が罷り通ってしまったがゆえに、このような事態に陥っても何の方策も立てられずにいると彼女は言う。



「もう22の行き遅れなので、わたくしを望むような方はすべて爵位欲しさだろうと色眼鏡で見てしまうし、分家にも女というだけで侮られ、困っているときに、ひとつの報せが届きました」



「報せ、ですか」



「はい。あなたのことです」



こくりと頷いたセリエラが、暗い表情を少しだけ和らげて、仄かに笑む。



「万病も怪我も癒せるといわれる幻の存在。カーバンクルをテイムしている人間種(ヒューマ)。協力の確約さえ取れれば、父を助けてくれるかもしれない」



思わずレンを見た。まさか、ここで自分が関わってこようとは。



「しかし同時に懸念もありました。巷で騒がれている盗賊団とは本当に関わりがないのか。叔父と癒着するような人間性を持った人物でないのか。………あるいは、叔父が送り込んできた間者ではないのか」



ロブに視線を走らせる。黙って壁際に立っていた彼は、肩を竦めて言葉を放つ。



「残念なことにこんな職についてると、疑り深くなっちまうんだよ。悪意のある品物を街に入れる人間が、誰もが善いひとだっていうようなやつだったなんて経験、片手で足りない程度には見てきた」



つまり、あんな歓迎の言葉を言っていてなお、彼は疑いを拭いきれていなかった。



「だから、ハインさんが案内係としてつけられたんですか」



「はい。彼が街の案内をしている間に報せを受けて、ギルドの協力者の手を借りて受付嬢に扮装させていただきました。これでも、我がオルドヴェル家の地位を狙うものは多く存在するので、家から街の内外へ出る抜け道は知っていますので」



そして、カイトとカイトに大切にされている従魔を目視で確認した。



「ハインはわたくしのことを思って、人を疑うような役割を引き受けてくれました。あなたの性格や行動原理、すべてを近くで見極め、報告してくれました」



「元々養子なので、オルドヴェル家のためにも出来ることをと思って兵士のやるような末端の仕事も進んでやっていたのです。セリエラに請われなくとも、メウターレの治安を守るために動かせて頂きました」



「俺も誰をつけるか悩んだとき、ツァールトハイト様自身から自分をつけてくれと頼まれたからお願いした。オルドヴェル家に連なる者が判断を下すなら任せた方がいいと思ったからな」



結果、協力者として申し分ない人間だと判断されたのだとカイトは理解する。



「まぁ、薬屋や両親を失って孤児になった姉妹を気前よく助けるやつなんざ、疑えるほど人間不信になっちゃいねぇよ」



ロブの言葉に、カイトは力なく笑った。自分のやってきたことが巡りめぐって己の評価に影響を与えていたとは露ほども考えていなかった。



「そして、あなたの持つ知識。これは叔父たちに荒らされた領地の地盤を立て直す金銀にも勝るものだと、わたくしは思っています」



既に手を回し、貧民街(スラム)で生活している少女たちに危害が及ばぬよう、影ながら護衛も配置した。彼女たちが学んだ知識は、それをするに余りある価値あるものだ。



「その上で、あなたにお願いしたいのです」



セリエラが居住まいを正して、カイトを見据える。



「オルドヴェル家に……いえ、わたくし、セリエラ・フォン・オルドヴェルに、協力しては頂けませんか」



事態が解決すれば謝礼は致します、と頭を下げた権力者に、カイトは言葉を失った。

はい、感想で疑問が投じられたので、自分の構成下手を嘆きつつもなんとか核心まで話を進めようと頑張って書きため投稿に漕ぎ着けました。



王道展開から逸れてはいないだろうが、これで回答にはなったかと思います。……だよね? 不安すぎる…!



セリエラさんは女性としか表記してなかったし、私自身他の受付との違いをうまく表現しきれていない感じがするので、そのあたり補足として番外つくるかも。確約は致しかねますが(おい



だって構成下手だもの……っ!



とにもかくにも、核心にまで何とかたどり着いたので個人的にはほっとしてます。辻褄が合わないとかここ意味分からん、とかあったら教えて下さい。私は物語を作るのは好きだがそれを納得させるための文章力がまだまだ足りないんです…っ!



それでは、今回も読んで頂きありがとうございました。

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