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ひとまず出来るものを教えました

『ベッドなの、個室なの、広いのー!』



びたんびたんと尻尾を床に打ち付けながら、全身で喜びを露にするルイに苦笑しつつ、カイトは声を掛ける。



「こら、音を立てない。他の部屋のひとに迷惑かけたら厩舎に逆戻りだぞ」



『はっ、ごめんなさいなのー』



我に返って尻尾を振るのを止めたルイの横を通り抜け、カイトはベッドへ腰かける。



「久しぶりのベッドだ。部屋もルイの事を考えて二人部屋でベッドもくっつけた上でシーツを被せて貰ったし」



ただし、本来借りる予定だった部屋ではないので、料金はかなりまけてもらったが支払うことになった。まぁ、部屋のなかとはいえ、他人がいつ入ってくるか分からない場所でルイに小さくなって貰うわけにもいかない。結果ある程度の広さがないと不都合だったため、必要経費だったとは思うが。



久しぶりのベッドは予想していたより硬く、寝転がっても身体を包み込むような柔さはない。



それでも厩舎生活に比べれば、身体を横に出来る分休まる気がした。



『カイー、枕代わりに使って良いのー』



カイトが中央の二台が接触している箇所を腰のあたりに来るよう位置を整えたところで頭側に伏せ、尻尾をカイトの使っていた枕をはたき落とした上で頭の下へ滑り込ませたルイは、そのまま身を臥せて寝る体制を整えた。



『レンはこっちキュー』



すかさずレンがカイトの左側に飛び込んで来て、カイトに寄り添うようにして身を丸める。



『ならネロはこっちにゃー!』



やや遅れてネロが右側の方へ乗り込み、カイトの腕に尻尾を絡ませその場で横たわる。



『アルはここにするピィ』



小鳥ゆえ、寝返りなどで潰れることを危惧したアルは、しかしやはりカイトの存在が感じられるようルイの背に飛び乗り、彼の顔が見える位置を陣取る。



その一連の流れを見て、うちの子達が可愛いと悶絶するカイトである。しかし、ある程度落ち着いたところでそれぞれを撫でたり触ったりして親睦を深めているうち、意識は深い水底へ落ちていく。



静かに寝息を立て始めた主人の傍らで、四匹は周囲の警戒も行いつつ、同じくひとときの休息を取るため目を閉じた。








「………まさか、あの透き通るスープの素がこんな廃棄するようなものから出来上がるとはな」



日が変わって太陽が昇ってすぐ、起き出してきたカイトを捕まえ、昨日から仕込んでおいた諸々の素材を煮詰めておいたスープを確認しろとせっつく宿屋の亭主を宥めた後に踏み込んだ宿の厨房で、仕上げを行った。その折に、感嘆のこもった声をあげつつ、宿屋の亭主はついに出来上がった旨味の凝縮したスープに舌鼓を鳴らした。



「骨は食べられないけど、旨味なんかはぎっしり詰まってるんだそうですよ。それを水に溶け込ませて、こうやって旨味の素としていろんな料理に転用するのが、俺の故郷で長年研究されてきて出された答えのひとつです」



「なるほどな。どんなものにも利用価値はあるってこったな」



亭主はそう言いながら、味を覚えるためゆっくりと小皿に盛られたスープを舐め、口のなかで転がす。この味にどんな食材が合うのかぶつぶつと口にしているので、彼のなかでは新しいレシピが生まれつつあるのかもしれない。



「さて、スープは出来上がりましたけど、どんな食材を入れましょうか?」



今回はネロたちの力を借りれないので、事前準備の必要なスープの仕込みは昨日のうちに済ませたが、ここまで来たら後は適当に好きな具材を煮込むだけなので、亭主に何が良いかと尋ねてみる。



「基本的にはうちは安いのを売りにしてるからな。あまり高いもんは使えねぇが」



「ですよねぇ。だとしたら、普通に野菜スープですけど……」



「あぁ、それでいい。まずは基本レシピを覚えたいしな」



宿屋にある食材も、カイトが街で手に入れたものと大差がないので、正直助かる。家庭料理程度の知識しかないため、新たなレシピを教えろと言われても困るだけだった。



言われた通りに素直に野菜を切り分け、煮込む亭主の傍らで寛ぐカイトの耳に、起き出してきた宿泊客たちの声が飛び込んでくる。そろそろ朝食の時間になるかと思いつつ、出来上がった料理を別の鍋に取り分けてもらってカイトはその場を辞した。



背後から客の盛り上がる声を聞きながら、借りている部屋で待っていた四匹とともに、まったりと朝食を楽しみ、鍋をルイの魔法で洗って返してから迎えに来たハインと街へ繰り出した。









「ローズマリー、タイム、ローリエ、パセリ、バジル、オレガノ……ここにあるのは、この六種類だけなのね」



「あぁ、他にもいろいろあるけど、ティオの家で採れるのはこれだけだな」



訪ねて早々、回復したティオが気合い充分に知識を欲しがるものだから、カイトはそのままハーブについて教えることとなった。



ちなみにユニも習いたそうにしていたが、二人同時指導は大変そうだったので、家のなかに自生しているハーブが他の場所にも芽吹いていたら摘んでくるようにと見本としてハーブを渡す。すると、これで仕事ができたと思って目を輝かせたユニが足取り軽く出掛けていったので、心配になってハインに護衛を頼んで見送った。



そんなこんなで迎えたハーブ講座は、ティオと二人、顔を突き合わせての指導である。



「基本的にハーブを普通に加工するには、日陰の風通しの良いところで干して、短時間で乾かす必要がある。だから、一束一束の量を少なくして、風通しをよくして、水分が抜けやすいようにしなきゃならない」



「陽の当たるところに置いたら駄目なの? 時間がかかったらどうなるのかしら?」



「ハーブっていうのは、俺の故郷では香る草と書いて香草(こうそう)と呼ばれるんだ。つまり、ハーブには特有の香りがあって、その香りを逃さないことで料理に美味しいと感じる匂いをつけられるし、薬効も体内に取り入れられる」



昔母親に聞き齧った知識をフルで使いながら、カイトは説明を続ける。



「それが光に当たることで香りが空気中に揮発………いや、空気に溶けてほとんどしなくなってしまう。長い時間をかけて干すことも、同じようなことが起こるから駄目なんだ」



「へぇ。とても繊細なのね」



「そう。だから難しい」



頷くティオに、カイトは表情を緩める。



「他にも、生の方が向いてるハーブもあるし、組み合わせたりしてお茶にもなるけど、流石にその辺は割愛な」



まずはハーブを自然乾燥させるやり方を教えていく。



中まで風が通りやすいよう、一束は指で摘まんだ程度の量だ。それを量産していく必要があるため、カイトが街で買ってきた紐でティオは器用にハーブを縛っていく。あまり手を貸しては任せることが出来ないため、カイトは最初にやり方を教えるためにやった一回以降は、傍観しつつ膝に乗ってきたレンやアル、ネロを代わる代わる撫でながらやり過ごす。ルイも傍へ寄ってきたので、同じように膝には乗せられないが、可能な限り触れあってやる。



「出来たわ」



「じゃあ、陰干しに最適な場所を作ろうか」



屋根が崩落している以上、この家に日陰はないだろうと思っていたので、布を売っている店を見つけて購入しておいた。手頃な部屋に風の通り道を確保しつつ暗幕になるようアルに屋根へ飛んでもらって穴を覆って貰う。釘で打ち付けてただでさえ老朽化した家を痛め付けるわけにも行かないので急場凌ぎだが、被せた布の四隅を折れたりして露出した木に結びつけ固定する。ついでに、いずれ破れて落ちるかもしれないので、定期的に布の状態を保全するよう言い含めることも忘れない。



そして、紐を張り巡らせそこに束ねたハーブを逆さに吊るしていく。すべてを吊るし終え、額の汗を拭ったティオに、ルイが氷で作った器に水を入れたものを差し出した。



「おつかれ」



「ありがとう。大変だけど、確実にお金になる素材だもの。俄然やる気が出るわ」



目を細めるティオに、カイトは頷いて元の部屋へ戻ろうと促す。素直についてきたティオに、カイトは次の工程について説明する。



「で、今回は魔法ですっ飛ばすけど、ティオが乾燥させたハーブは、こうやって粉状に磨り潰して(サラン)と混ぜ合わせることで、ハーブソルトっていう調味料に変わる」



「お肉に振り掛けていたのが、そのハーブソルトなのね!」



「そう。いろんなハーブがあるから、混ぜる種類によって香りや味わいも変わるから、好みがある人は自分で混ぜ合わす必要があるけど……」



そう言いながら、取り出した塩を四つの器に入れ、粉末状になっているハーブを順番に配分を変えながら混ぜ合わせていく。



「まぁ、基本的に塩がこの匙十杯分に対して、ハーブはその十分の一、つまり一杯分で丁度いい塩梅になる」



「ハーブの量は少なくていいのね」



「あぁ、それ以上入れるのはおすすめしない」



「わかったわ」



流石にその理由は忘れたが、強い語調で言うことで何かしらの理由があるのだろうと理解して、ティオは承諾の意思を返してくる。



「それじゃあ、配分を変えたハーブソルトの味を確かめてみな」



そうして四つの器に分けられたソルトをティオが匙ですくい、掌に少し落として舐めとる。



「……! こんなに味わいが変わるのね」



「そう、どんな種類をどれだけ混ぜ合わせるかによっていろいろ違ってくるからな」



カイトが作ったのは、一つ目がバジル単体と塩のみのバジル塩。



二つ目が以前ティオたちに振る舞った料理で使ったオレガノ、タイム、パセリの三種に加え、大蒜(ソム)玉葱(レーク)胡椒(ペペリ)も加えたもの。



そして二つ目と大体同じだが、パセリの代わりにローズマリーとバジルを加えて四種のハーブにして組み合わせた三つ目。



そして、トマト(ライチェ)砂糖(ハクル)なども加えたまた違った味わいの四種をつくって見せた。ちなみに砂糖は手に入れたとき黒かったので、ルイたちの力を借りて白砂糖に精製済みのものを使用している。



「まぁ、これはあくまでも一例でしかないからな。いろいろ試して好きな味を作ればいい」



「いろいろあることは分かったけれど、そのレシピは全部教えてよね。売り出す味は多いほどいいわ」



ティオはそう言いながら、カイトの説明を受けながら見本を真似て作っていく。



やがてティオが舌でハーブソルトの味の違いが分からなくなってきた頃に、出先で見つけてきたハーブを根っこごと摘み取って喜色満面で帰還したユニとハインを労うため、ハーブ講座は終了することとなった。

ということで、先生やる回をひとまとめに。他教えを請う内容はないはず、うん。



生育条件など分かんないので、ファンタジー世界だからというのを免罪符に、とりあえず何種類かハーブを選びました。ハーブなんて育てたことがないもので…。



ちなみに私はお肉の香草焼き好きですが、マジックソルトを使ってます。人によってはクレイジーソルトや自家製を使ってるのでしょうが、これは好みが分かれますね。ハーブって奥深い。



それでは皆様、ご来訪およびご閲覧ありがとうございました。



また次回、どうぞお楽しみくださいませ。

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