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なんか面倒なのに絡まれました

門を抜け、何名かの依頼者に報告してからギルドへ直行すると、既に他の冒険者は依頼を報告し終えたのか、併設されている酒場の方で盛り上がっている。



既に大分出来上がっているようで、机に突っ伏す者、高々と歌い始める者など様々で、カイトは早々に報告したら帰ろうと足早に受付へ向かう。



「依頼達成の報告に来ました」



配達先でサイン、あるいは言伝てを貰い、配達依頼者に報告することで依頼達成の判を押して貰ったカイトは、そのすべての依頼書を差し出し、確認を求めた。



「少々お待ち下さい」



笑顔でそれを受け取った受付嬢が、内容を確認している最中すこし手を止めた様子も見られたが、すべてを読んだ後にこやかにこちらを見上げた。



「確認出来ました。皆様大変な好評価です。新人とは思えない素晴らしい仕事ぶりですね」



「ありがとうございます。この子たちが頑張ってくれたおかげですよ」



抱き抱えたレンや肩に乗るネロを撫でながら、カイトはにこやかに言う。



「我々職員も、あなたがあまりお金にならない依頼を引き受けてくれたと聞いていたので有り難く思っています。この手の依頼は放置しかねますし、何より頻度が高いものですから」



受付嬢が、他の職員に依頼書に書かれた報酬の用意をするように口頭で指示を出して書類を手渡した後、こちらへ向き直り穏やかに笑う。



「みんな感謝していますよ? 仕事を選ばずにやってくれる有能な新人が来たと」



「あはは。この子たちがいなければたぶん引き受けてはいないと思うので、過分な評価な気がしますけど」



「それも実力のうちですから」



にっこりと笑う受付嬢のもとに、書類を手渡された職員が小袋を持ってくる。



「では、今回の報酬は金貨三十枚と銀貨一枚、銅貨七枚になります」



「え? 金貨三十枚ですか?」



「内訳はこちらです」



差し出された小袋を受け取り、渡された紙を読んでみれば、ひとつだけ明らかに他の依頼とは一線を画した報酬(金額)が書かれたものがある。



「薬屋の御大から依頼報酬増額の指示が出ていたので。あの気難しい方から最高評価を得られるとは、素晴らしいですね」



「あ、あはは。そうですか……」



だとしてもこんな額、持ち歩くだけで恐怖しかないのだが。



顔をひきつらせるカイトに、受付嬢が笑う。



「とにもかくにも、依頼達成ありがとうございます。またこの手の依頼は優先的に回すとは思いますが、そのときはどうぞよろしくお願いいたします」



「え、えぇ。はい。分かりました」



急に小金もちになり戦々恐々としつつ、カイトはその場を離れた。









ティオの様子を見に訪ね、大分回復していたので買ってきた食材で軽く料理を振る舞って、カイトは宿へ向かう。



「あぁ、今日も泊まるかい? なら、改めて場所代貰おうか」



言われて、そう言えば昨日までの分しか場所代を払ってなかったことを思い出し、言われた通りに気前良く十日分ほど支払って、カイトは厩舎へ移動した。



「ティオたちのところでは食べられなかったし、ここで何か作ろうか」



『ほんとなのー?』



『楽しみキュー!』



『手伝うピィ』



『みんなで食べるにゃー!』



ルイたちが料理を食べたがっているのを知り、どうせなら一緒に食べようと思い、ティオたちのところでは軽くしか食べなかった。彼らがルンルンと用意を始めたので、カイトも何が良いだろうかと思いつつ、ネロが今ある食材を氷の台の上に並べるのを見て、必要と不必要を選択していく。



「コンソメスープはあっちで余分に作っておいたのがあるからそれを使おうか」



なるべく手間が減るようにと、ティオたちの家で用意したコンソメスープで満たされた鍋のなかに、千切りにした野菜を入れてアルの魔法で煮詰めていく。



「今日の肉はどれがいい?」



『うしなのー!』



尋ねた途端即座に反応が返ってきて、他の面々がそれでいいと頷くので暴れ牛の肉を厚めに切り分け、火の通りが良くなるよう切れ込みを入れてから、各々の希望を聞いてシンプルに塩胡椒か変わり種のハーブか選んでもらって味付けしていく。



「よしできた」



皿に盛り付け、さあ食べようと手を合わせたそのとき。



「ーーーおい坊主。そりゃなんだ」



突如掛かった声に、カイトは固まった。









「ーーー頼む、弟子にしてくれ!」



「いや、ですからそんなこと言われるような腕ではないんですって」



宿屋の中。食堂の一角で椅子に座りつつ、床に膝をつき、所謂(いわゆる)土下座をする男に対してカイトは途方に暮れていた。



「いや、俺の舌が言っている。お前の料理は俺の知る料理の中でも断トツの旨さだ! 是非その料理の技術を習わせてほしい!」



「………そうは言われましても」



「なんかすまないねぇ、うちの旦那が」



宿屋の女将はそう言いつつ、困ったように頬に手を添えている。



カイトはまったく気にしていなかったが、厩舎の風の通りが良い場所で料理をしたことで、そのにおいに釣られて宿屋の食堂は一時繁盛するのではないか、というほどの列が並んだそうだ。夫婦は目を丸くしつつも、これは稼ぎ時だと思い、腕を奮い心を込めてもてなした。ーーー結果は、惨敗に終わったが。



期待して損したと帰っていく客たちの要望に応えられなかったことで、食堂を仕切る亭主は気落ち。女将も訳が分からないまま客を見送るしかない。ただ、最後の客に勇気を出して何故突然この食堂に人の入りがよくなったのか尋ねてからは早かった。



旦那が元気良く厩舎に飛び出していって、その中でルイたちの力を借りて楽しそうに料理を作るカイトを発見した。



見たこともない透き通ったスープに、香り高い肉。彼が作った料理に興味を示したら、少しならいいですよと小さな器で差し出されたらーーーもう認めるしかなかった。



「お前の料理のレシピを学べれば、他の店にはない特色が出せる。店も人気が出るんだ!」



料理人たる男にとって、自らの腕の向上のための土下座など容易い。それ以上にその技術を学べないことの方が、怖かった。



本気度が凄まじすぎて困惑するしかないカイトに、成り行きを見守っていた女将が言う。



「ねぇ、部屋ひとつ分でどうだい」



「え?」



「ずっと厩舎暮らしだったから、野宿みたいなもんだろう。料理を習ってる間、特別に一部屋あげるよ。従魔の子達も、大人しくさえさせてくれれば、入れていい」



ごくりと、息を呑む。ーーーそれは、魅力的な提案だった。



ルイが一緒に入れる店は少ない。他の子達だけなら店に入れるが、独りぼっちにさせて寂しがる彼を放っておくわけにも行かないので厩舎暮らしだが、可能ならあの白い子が入れる場所を増やしてあげたいと常々思っていた。ーーー何より、人の目がいつ向けられるか分からない場所で眠るという今の状況が、変えられる。



それが、ただ家庭料理を教えるだけで、手に入る。



「わ、分かりました。上手く教えられるか分かりませんが、精一杯教えさせて頂きます」



「本当か?!」



「交渉、成立だね」



喜ぶ夫婦に、上手く転がされたような気もするが。



カイトは手に入れた部屋の鍵を見て、久しぶりにちゃんとしたところで眠れるんだと、少しだけ唇が緩んだ。

はい皆様こんにちはー!



本日も王道展開でお送りしております。由月ですっ(*´∇`)



というわけで、ついに休む場所がグレードアップ。長かった。ここまで辿り着くのに二十話近い話数を重ねていると思ったら、すっごい遠回りしてる気分です。



料理人たる旦那と宿屋を切り盛りする肝っ玉女将のセットって王道ですよねー、とは思いつつ、なかなかその手の王道から抜け出せないこの残念な頭が憎い。しかしオリジナリティ溢れる内容にしたら、途端に中々更新できなくなるし。うーん、匙加減が難しい。



まあ、楽しく書ければいいや。あんまり気に病んでも書けないもんは書けないんだから。もう割りきるしかないよね!



それでは皆様、ご来訪およびご閲覧、ありがとうございますo(*⌒―⌒*)o



また次回もお楽しみくださいませ。

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