残りの塩漬け依頼を片付けました
「それでは、これで失礼しますね」
随分と長居してしまったが、こなさなければならない依頼がたんまりと残っている。老婆たちが落ち着くのを待って、その場を辞す挨拶をしたカイトが依頼書を手渡すと、老婆はそれにさらさらと何かを書き付けてサインを入れると、ぐいとカイトに突き出した。
「また来ると良い。そんな従魔を連れていても、万が一もあるんだ。何かしら持っておいた方がいいよ。………お前さん、人が好いからね」
来たら手間賃格安でほぼ原価で売ってあげるよ、と奥へと引っ込んでいく老婆に、カイトは軽く頭を下げてから店を出た。
「さて、残りの依頼も片付けないと」
幸い、後は周辺の村を回る配達依頼だ。陽もまだ頂点に達してはいないようだし、急げば何件かは片付けられるだろう。
「じゃあ、門の方へ行きましょうか」
「………えぇ、そうですね」
疲れた声で力なく応じたハインに、心労を与えた手前、それを大丈夫かと尋ねるのも薮蛇になるので何も言えず、カイトは黙って門の方へと歩き出した。
ーーー半分くらい、片付けられたら上出来だと思っていたのだが。
『カイー、次の村が見えてきたのー』
「お、おぉ。なら、この辺りから歩こうか」
どのように回れば効率がいいか、メモした紙と地図を突き合わせて確認し、行く村の順序を決めてからは早かった。
ルイの背に乗り、まずは東側の方角へと言った途端、了承したルイが他の面々に声を掛けたと思ったら、それぞれが己の役割を理解したとばかりに魔法を唱えた。
『影縛り』
ネロが自分を含めた面々の身体とルイの身体を結びつけ、万が一にも落ちないように拘束する。その際、カイトには背もたれ付の影の椅子をつける手の込みようである。
『撥無の風楯』
アルがカイトの目前に不可視の楯を生み出し、風の流れを拒絶する。
『平癒の輝き』
レンの発言とともに、カイトの身体を光が取り巻く。
三匹の魔法が行使されたのを見て、ルイが地形を変えないレベルで、しかし常人では絶対に耐えられぬ速度で走り出す。途端、身体に差程負荷が掛からないことでカイトは唖然とする。
カイトにぶつかるはずだった風の勢いはアルの生成した不可視の壁に受け流され、軌道を変えて吹き去っていく。ネロによって身体を安定させられてもなお、ルイのしなやかな体躯から繰り出される障害物を乗り越えるなどの行為で掛かる重力の負荷も、感じた先からレンの持続回復でなかったことになり、実に快適な移動である。
『気持ち悪いとか、何かあったら言うピィ』
「いや、全然ないけどさ。………これに慣れたら俺、駄目人間まっしぐらじゃ」
『今日はたくさん依頼受けたキュー。急がないと街に帰れないキュー』
「いや、日が暮れてきたら明日に回して戻ればいいことじゃ」
『お仕事は信用第一って言うのー。早めにするのはいいことなのー』
「いやそうだけど。ーーーっていうか、何でみんな普段無詠唱なのに、たまに詠唱からしっかりするんだ?」
『そこらの魔物とあるじは違うにゃ。あるじに魔法使うときは、詠唱して魔法を安定させた方が安全にゃ』
つまり詠唱するのは決して失敗してはいけないと判断したときということか。カイトには髪一本でも傷つけたくないという思惑があるのか。
どちらにせよ、カイトは思わずにはいられなかった。
「……つまり俺、お姫様扱い?」
ーーーそれは嫌だ。というか飼い主がペットに養われてどうする。
何としてでもこの扱いを改めて貰えるよう筋トレ増やして戦闘技術を磨こうと、密かにカイトは思った。
そんなこんなでルイの疾走によって村々を回り、陽が頂点を達した頃には既に半分の荷が出され、受取人の元に届いている。
これなら、日暮れまでに片付きそうだと思いつつ、カイトは歩く。眼前には、次の村が見えてきていた。
「こんにちはー! 依頼を受けて荷物の運搬に参りました冒険者ですー!」
見張りに立っている村人に武器を突きつけられる前に少し遠くから呼びかけるのがコツである。ルイたちの姿に怯えるので、すぐには近寄れないのだ。一応その呼びかけで、だいたい反応が帰ってくる。
「村の誰にだー!」
村人が、そう尋ねてくる。カイトはネロに羊皮紙を出してもらって確認した。
「パン屋のお姉さんから御家族さんに食べ物の配達ですー」
内容を確認して返答すると、見張りのひとりが村のなかに入っていって、小さな男の子連れの夫婦を連れてくる。村から離れた場所で獣に囲まれるカイトに、おそるおそる近寄ってくる。
鞄を通して取り出した麻袋いっぱいに詰め込まれたパンを、彼らに渡す。一昨日、昨日の廃棄パンだが、味が落ちるだけで日持ちはするそうなので、カイトがたくさん持てると知った途端たんまりと預けてきた。
それを渡してからカイトがメモした羊皮紙を広げる。
「お姉さんから伝言です。『私は元気にやってるから心配しないで。送ったパンは店で私が焼いたパンも入ってるの。ちょっと固くなってるかもだけど、味はいいと思うから是非味わって』ーーーだそうです」
「あぁ、元気でやってるの。あの子…」
手を胸の前で組み合わせて嬉しそうに母親が笑う。父親も口元を綻ばせ、男の子の頭を撫でた。
「ありがとうございます。お荷物と伝言、確かに預かりました。あの子に、食べ物いっぱいありがとうと伝えてください」
父親の言葉を皮切りに、軽く挨拶をしてカイトはその場を辞した。
ーーーある程度離れたところで、カイトはルイたちに笑い掛けた。
「もう陽も高いし、昼御飯をここで食べようか」
『了解にゃー!』
『なら台をつくるのー』
ネロが影を広げて食材や鍋を取り出していく。ルイがその傍で氷で四角い台を作り、食材を置ける場所を整えていく。
「まだ差程調味料も整っていないし、簡単に済ませるか」
そうしてカイトが手慣れた手付きで目玉焼きや塩コショウで軽く焼いた肉を皿に盛り、依頼途中で購入したパンとともに食べ始めた。手抜き料理だが、一人飯なのでそんなものだ。
しかしそんなカイトの食事を、四匹がじぃっと見つめてくる。なんとなく食べ辛くて、カイトはそっと尋ねた。
「………食べる?」
焼いた肉の皿をそっと四匹に向かって差し出してみると、四匹が目を輝かせた。カイトはネロに皿を四枚出してもらって、一度食べるのを止めて肉の追加を焼き始めた。
『わーいなのー』
『美味しいキュー』
『カイト兄、ありがとうだピィ』
『あるじの料理、貰えて嬉しいにゃー』
「喜んで貰えてよかったよ」
宿屋の食事は嫌がったし、ティオたちのところで作った料理には手をつけようとしなかったので食には興味がないのかと思っていたが。
そんな考えを見透かしたように、四匹は代わる代わる説明をしてくれる。
『あるじの料理には、美味しい魔力が混ざってるにゃー。作るときに自然と混じってるにゃー。すごくおいしそーなのにゃー』
『食べるのは好きだけど、この世界の料理はまだ美味しいと思えないから、食べたくないのー』
『前にカイにぃが作ったときは、レンたちよりあの子たちが食べるべきだと思って我慢したキュー』
『だから、決して食べるのが嫌いではないピィ』
「なるほどねぇ」
そんな会話をしつつ、カイトたちはほのぼのと昼食を済ませた後。
カイトは引き続き依頼をこなして夕暮れにはすべての依頼を片付けた。
5日が最長だった。うん、一週間頑張ってみようと思ったけど駄目だった。
まぁ、仕事もあるしね。夜勤とか休みが重なって書く余裕があったから続いたけど、日勤が続くと無理かな。
さて、昨日一切更新してないのに、ブクマが十件近く増えました。びっくりしたー、どなたかオススメしてくれたんですかね? だとしたらありがとうございます。励みになります(´・∀・`)
だって弱小作家だもの。少しでもブクマや評価が増えると嬉しいよね。
それでは皆様、ご閲覧ありがとうございます。
また次回もよろしくお願いしますo(*⌒―⌒*)o