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盲いた目を治しました

「あんた、実は神様の遣いかなんかじゃなかろうね?」



「そんなまさか」



ーーー神様には会ったことあるけど、己自身は平々凡々な人生を歩んできた人間です。



そんな内心を言えるわけもなく、にこやかに笑って流すカイトである。



レンとアルの紹介のあと、突如現れた救済の手に老婆は夢でも見てるんじゃないかと己の頬をつねり、傍らで呆然としていたハインも、カイトを店内の隅まで連れ去り、「カーバンクルだけじゃなくてフェニックスまで従えてるとか、カイトさんあなた何者ですか……!」と動揺を隠しきれていない顔で問い詰めてきた。



これでルイやネロまで本当の種族が知れたらどうなるんだろう、と遠い目になりつつも、なんとかその場をやり過ごして、一行は店の奥の老婆の住居スペースへ足を踏み入れる。



「孫はこの奥さね」



そう言って、老婆が扉の奥の孫へ呼び掛ける。数拍置いて返ってきた声を聞いて、老婆は扉を開けた。



「目の具合はどうだい?」



「大丈夫だよ、おばあちゃん」



開けた扉の先には、椅子に座り、ゆっくりと二つの棒を操り毛糸を編む娘がいた。声が聞こえた方へどこに向けられているのか判然としない目を彷徨わせながら、娘は笑う。



「何か、聞き慣れない音がする。ーーーお客さんかな?」



首を傾げた娘が、こんにちはと柔らかく笑う。



「こんにちは。今日は君の目が治るかどうか調べに来たんだ。ちょっとだけ、見せてくれる?」



「たくさん音がする。いろんなお医者様を呼んだの? おばあちゃん、お金は大丈夫?」



「お前が心配することじゃないよ」



孫の問いをきつい声音で突っぱね、老婆はふんとそっぽを向く。それに困ったように笑う娘が、静かに目を閉じた。



「お医者様。おばあちゃんはこう言ってるけど、とっても高い治療費がかかるなら、私の目を治さずお帰りください。おばあちゃんは心配するけど、これでも家の中のことはたいてい出来るんです。お仕事も、貰えるお金は安いけれど出来ますし」



そう言って手の中の編み物を広げて見せる娘が向いている先には、誰もいない。声の位置だけで相手の居場所を把握することは難しいようだ。



「作ったものを商人さんが買っていってくれるので、その時に食材も買えますし。そんなに不自由はしてないんですよ」



首をかしげて笑う娘に、無理をしているような気配はない。



おそらくは、長い時間をかけて家の間取りを覚え、出来る仕事を見つけながら、見えないというハンデを背負って生きてきたからこその笑み。祖母に比べ、彼女は己の運命に真摯に向き合ってきたようだ。



それを可能にするまで、老婆は献身的に彼女を支え、物の配置を考えて簡単につまずかないよう工夫し、その上で治療薬も作ろうと依頼書も出し続けていたのだろう。それに触れるにつれ、老婆に心配をかけまいと、己のことをこなせるよう娘も人知れず努力を重ねた。



そんな健気な幼子を見て、カイトは何もせずに帰れるほど非情な人間ではないと自負している。レンを抱え、アルを左肩に乗せ、カイトは娘に近寄った。



「俺はお医者様じゃないよ。ただ、少しだけ運の良い冒険者だ」



「冒険者さん、ですか? そんな人が、何故……」



医者ではなく冒険者と言われて、困惑し始めた娘にカイトは努めて優しく語りかけた。



「それは、俺の連れている家族が他よりちょっとだけ特別な力を持っているからだよ」



視界の隅でハインが「ちょっとどころじゃないでしょう」と半眼になってぼやいているのが見えたが、努めて気にしないようにしてカイトは言葉を続けた。



「その特別な力を、おばあさんの話を聞いてちょっとだけ使ってあげたいと思ってね。君に会いに来たんだ」



「………お金、とらないの?」



「心配するのはそこなんだ?」



カイトの口から苦笑が漏れる。



「まぁ、とにかく。一度だけ試してみるから、じっとしていてくれる? ーーーレン、アル」



呼び掛けに応じてレンが娘の膝に飛び乗り、アルがカイトに己を娘の目の傍へ導くよう促して、各々ぺたぺた、ふぁさふぁさと娘の目のあたりを触り始める。



「どうだ?」



『ーーーいけると思うキュー』



『治る可能性はあるピィ』



それぞれから快癒の見込みがあると太鼓判を押され、内心ガッツポーズするカイトだが、ぬか喜びさせてはならないと己を戒めた。



「よし、やってくれ」



カイトのゴーサインで、レンとアルが普段は無詠唱の魔法を丁寧に魔力から練り始め、高らかに鳴いた。



再生(プロクス・リジ)の炎(ェネレイション)



生み出された金色の炎が、娘の双眸に向かって放たれ、瞳を包み込む。傷ついた目が、それに繋がる神経が、みるみる新たな細胞を生み、繋がっていく。



癒しの光(セラフィア・ルース)



再生した目を、脈動させるために放たれた光が、娘の瞳に直撃し、長い間機能していなかった神経を奮い起こさせた。



「………ど、どうなったんだい…?」



すべてを見ていたにも関わらず、何の反応も示さない娘に、焦れたように老婆が声をかけた。



娘が、瞬く。



「ーーーみどりの、うさぎさん?」



目の回りを治療できるか調べられているうちに、軽く下を向いていた娘が、少しずつ色付いていく景色のなかにあったレンを、捉える。



成功だ、と誰も声にせずともその場が歓喜に満たされていることが分かった。娘がゆっくりと顔を上げ、顔をしわくちゃにして泣く老婆を、呼ぶ。



「ーーーおばあちゃん?」



「あぁ、そうだよ。ばあちゃんだ……っ」



今にもまろびそうな足取りで傍へ寄り、己に抱きついた老婆が咽び泣く声を聞きながら、娘はまだ呆然としていた。



まだ現実だと信じきれないのか、ぼんやりと宙を彷徨う娘の目は、抱き締められて感じる熱や、隙間風が吹き抜ける度に頬を冷やしていく感触が。様々な五感が感じ取ったことを全身から訴えかけられるにつれ、現実だという実感を抱けたのだろう。娘の顔がくしゃりと大きく歪んで、ぼろぼろと瞳から大粒の涙が宿る度に頬を伝い落ちていく。



止まらない涙を老婆の服に顔を擦り付け、涙を拭った娘が少し身を離して覗いた肉親の顔を見て笑う。



「っへへ、おばあちゃんの顔、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだぁ」



「っ、どの口が言ってんだい、お前の方が酷い顔じゃないか」



「あー、またそんな憎まれ口叩いてーっ。大体私はさっき顔拭いたもん!」



「わたしの服に、擦り付けたのを……っ、拭いたとは言わないよっ」



口を尖らせる娘の眼が、まっすぐに老婆に向けられている。その事実が嬉しいのに素直に喜べずにいる老婆に、娘が言った。



「おばあちゃん、にーっ、だよ!」



目を瞬かせた老婆に、重ねて言葉を放つ。



「上手に気持ちが言えないときは、笑えばいいんだよ!」



言葉を言い表せないなら、他のやり方で伝えれば良い。



幼い孫にそう諭されて、きつく目蓋を閉じた老婆は、万感の想いを込めて深く息をついてから笑みを形作った。しかし長い間険しい面持ちで過ごし続けたゆえの弊害か、強張った表情筋が思うように動かない。



「っふ、おばあちゃん、笑顔が下手くそだぁ……っ」



「…! うるさい、馬鹿孫が……っ!」



笑う娘の頭を乱暴に撫でる老婆は、この日本当に久しぶりに、楽に呼吸が出来るのに気づいたーーー…。

一年もの間、孫が家のなかを転ばずに歩けるように、物の配置を工夫したり、手引き歩行で導いたり。根気強く娘が出来ることを増やせるよう支援しながら、目を治す方法も探る。考えるだけで大変な作業を、老婆は黙々とこなし続けてきました。言葉で言うほど簡単ではないでしょう。



娘も献身的に介護をしてくれる老婆に、迷惑をかけないよう少しずつ大人びていきました。出来ることを探し、極め、それでいて老婆が自分のために無理をして命を削るようなことはしてほしくないと願い、目の完治を半ば諦めていました。



そんな中での奇跡は、抑えていた感情を爆発させ、老婆には堪えていた涙を流す機会を、娘にはたったひとりの肉親に甘えるという子どもらしい我が儘を叶える機会を与えてくれました。めでたしめでたし。



ーーー要約すれば簡単なこの内容を、如何に分かりやすくかつ壮大に表現するか悩む悩む( ̄~ ̄;)



上手く書ききれた感触がなくて不安だけど、もうどうにでもなれと思って。ーーーようやく一話、爆誕です。あれ、今回筆休めになってない……?



いや、途中までは確実に筆休めだった。レンとアルが魔法名称唱えるのなんてその最たる証拠だよ。どうしてこうなった? 自分の文章力が月並みなのがツラい。



名前もないのに主人公そっちのけで自由に動く動く。話を終結させるのに超時間かかった。頑張ったわたし、えらい……っ



最後の最後でギリッギリッ投下です!



5日目更新記録伸びたー!



それては皆様今回もご来訪頂きありがとうございます!



今後も楽しんでいただけますよう精進して参りますのでよろしくお願いいたします‼️o(*⌒―⌒*)o

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