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塩漬け依頼を託されました

「提出していただいたクラル草、オスクロモス、パナシアフルを除いた素材とオーク、アルミラージ、コボルト、ヴェルデウルフ、ヴォールマンキーの素材。解体費用を差し引いて、総計金貨五枚と銀貨七枚になります」



どん、と置かれた小袋に、カイトは目を瞬かせる。



夜が明けてのんびりと朝食を摂り、報酬確認のためにいくのだからと人の集まる時間帯を過ぎてから尋ねたギルドへ来て早々、受付に座っている職員とは別の職員が待ち構えていたのかと疑うべき素早さでわざわざ奥の部屋にカイトを通すほどの歓迎ぶりを見せたと思えば。立て板に水のように昨日提出したものを羅列され、眼前に小袋を置かれ困惑するカイトである。



「あ、ええと。も、貰いますね……?」



とりあえず貰えるものを貰ってとっとと退散した方が良さそうだと小袋へ伸ばしたカイトの手を、正面からかぶりつく勢いで職員が両手で捕まえる。



ひぃ、と怯えたカイトの様子を見て、ネロが不穏な空気を感じ取り闇魔法を起動。影を鞭に変えて振り回そうとする刹那。



「ーーーカイトさん。あなたの腕を見込んでお願いしたい依頼があります」



そう切り出した職員が、次の瞬間泣き出した。



「お、俺だぢをだじゅけてぐだざい~~!!」



「……え、えええぇぇ………?」



怯えから一転、困惑するカイトと同じように、行き場を失くしたネロの魔法が、悄気返(しょげかえ)るようにへにょんと垂れた。







「………俺たちギルドの職員には、一定期間毎に、本部へ依頼が出された数や依頼の達成数、未達成のまま誰もやらない依頼の数、結果誰もこなさないまま取り下げられた依頼数などを報告をする義務があります」



あの後、なんとか(なだ)(すか)して落ち着かせた職員ーーーリライノは、静かに事情を説明し始めた。



「そのうち未達成のものの大半はメウターレの住民のささやかな仕事依頼です。俺たちも折角頼ってくれたのだからと、適正のある冒険者に勧めたり、ギルドで依頼数が足りなくてランク落ちしそうな人や、一般の人に迷惑をかけた罰則として冒険者の方々に依頼をこなすように頼んでいますが……」



そこで言葉を区切ったかと思えば、腹の底から声を絞り出すように彼は言葉を連ねていく。



「罰則した人たちはともかくとして! 頼んだ途端に地味だし面倒、だの! 貰える金少ないから嫌だ、だの! まともに取り合ってくれる冒険者が悉くいない!」



だん、と机を叩いてリライノは嘆く。



「仕事を請けてくれるひとがいないからと、頼って損したとばかりに住民が怒って帰っていくのを頭を下げて見送ったり! 本部に上げた報告書に未達成依頼数が多いと苦言を呈され、仕事が出来ていないと書類で判断されて給料が減らされる!」



説明するうちに感情が込み上げてきたのか、早口になりつつあるリライノの目に涙が再び浮かぶ。



「頑張ってるのに、上はなかなか誉めてもくれないし! もう俺たち職員のメンタルはぼろぼろですううぅぅっ!」



泣き崩れたリライノに、カイトは思わず空を仰いだ。



ーーーあぁ、どこにいっても管理職って大変だなぁ。



『き、気の毒すぎるにゃ…』



『何も言えないキュー…』



お行儀よく話を聞いていたレンとネロも、最初の出来事など疾うに忘れて同情するしかないようである。



「あー、リライノさん? 俺でよければ、力になりますから……」



「ありがどぉ、ございまずううぅぅっ」



ーーーあぁ、これはしばらく泣き止みそうにないな。



痛々しい姿に、ほろりと目尻に涙が生まれるのを自覚しつつ、カイトは彼が泣き止むまでどうしようかと遠い目になった。









「現在、カイトさんがこなせそうな依頼がこちらです」



渡された十枚の紙を、一枚ずつ読んでいく。



物資の運搬、手紙の配達、薬草の採取。大枠に分ければこの三つだが、メウターレ周辺の何の特色もない村々にわざわざ手紙や物資の運搬のために行くことは確かにないかもしれない。確かに冒険者たちには魅力の感じない依頼だなと思いつつ、カイトはすべての依頼の詳細を読み込んだ。



「えぇ、これなら大丈夫です。すぐにでも動きますか?」



「是非ともお願いします!」



頷くリライノに、了解ですと返してからふとカイトは尋ねる。



「効率よく終わらせるためにも、周辺の地理の分かる簡単な地図があれば欲しいのですが」



「あぁ、でしたらこれを差し上げます」



渡された紙を広げると、メウターレを中心にいくつかの村々や山、森などが描かれている。



「このギルドで売っている地図のひとつです。最もお安いものなので、無償で差し上げます」



「ありがとうございます」



鞄にしまうふりをしてネロに預けつつ、カイトは笑う。



「それでは、行ってきます」



「お気を付けてー!」



最初に出会ったときよりは清々しい笑みを湛えて大きく手を振るリライノに同じように、しかし動作は極最小限で振り返しつつ、カイトは入り口で待っていたハインを伴いギルドから出た。


………正直に言おう。書いてる間笑いが止まらなかった。



新キャラ出してまた新キャラ? なんて言われそうですが、リライノさん好きだわー。書いてて気の毒なんだけど大きい身振り手振りが想像できて。もう作者なのに爆笑してました。こんな姿ひとに見られない場所で書いててよかった。



作者はわりと人の名前に悩んだとき世界の言葉を調べます。今回もそれで、リライノさんの名前は英語の「rely(頼る)」に「no(~ではない)」をくっつけて、「頼ることはない」すなわち「頼りない」という名前にしました。正直ピッタリな名前だと思う。いや、本当にそんな意味合いの言葉になるかは疑問なので造語扱いですが。だって外国語喋れないもん。



その法則でいうと、カイトは「(特定の対象にとって)魅力ある人」でカイト。他にも由来は書きませんがこの作品だとマーヴィやノイジもこの対象になります。



反して、ユニやティオは個人的に合いそうだと思った響きの名前を直感的につけてます。なんか自分の思考が透けて見えるようで恥ずかしいですね。



それでは、今日はこの辺で。



皆様、毎度のことながら読んで頂きありがとうございます。

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