突然の出会いは幸せを呼び込みました
本日投稿二度目です。
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「………そう。ユニ、頑張ってお金稼いでたの」
疲れたのか、ティオの膝を枕にして寝入るなか、ティオもベッドの上で枕を背にカイトたちにことの経緯を聞いて静かに目を閉じた。
「………あたしが、風邪をこじらせたばっかりに」
「ユニなりに、君を助けたかったんだろう。君が辛いときに、支えられるように」
「………そっか」
ティオがユニの頭を撫でながら、独り言のように溢す。それをハインが宥めるように言葉をかけ、ティオも反論はせず納得したように一言だけ言葉を落とした。
「………ユニには、我慢させてばかりだわ。でも、こんなにいろいろ考えられるようになってたのね」
眠るユニの頭を撫でながら、妹の成長を喜ぶように薄く笑ったティオは、カイトたちに視線を滑らせた。
「長居させて悪かったわね。ユニはあたしが見てるし、ふたりとも帰っていいわよ」
「風邪引いて動けない子とまだまだ大人の手が必要な子を見捨てて帰るほど俺は薄情じゃありません」
カイトが膨れっ面で怒る。まだまだ顔の赤いティオが無理を押してユニの世話をして身体の調子を悪化させる気なのか。人に頼ることをしないティオに、もう少し信用しろと言いたいが、流石に初対面でそこまで言うのも酷だ。
まずは栄養をとってもらおうと、ユニが買い込んだ食べ物を見たり、自分の手持ちに何があるか思い起こしつつ、キッチンはあるかと家の中を探索していたカイトはーーー
「………なに、これ」
見つけたとある部屋を見て、驚き、呆けて。
「マジかこれ!」
喜びのままに叫んだ。
「な、何、どうしたの?」
驚いたハインが駆け込んできたが、カイトはそんな彼に喜びのままに捲し立てる。
「ハーブ! ハーブがあるんだよ!」
母親が料理好きなこともあり、家庭菜園でハーブを育てていたので見間違えようがない。時折手作りのハーブソルトをつくる手伝いもしていたし、菜園の世話も母親の手が空かないときにやっていたので、香りも形も覚えている。
しかしそんなカイトの興奮も、ハインにはよく分からなかったらしい。
「ハーブって。……それ、雑草でしょ?」
首を傾げたハインに、カイトは唖然とした。
「………こんな雑草、カイトの故郷では料理に混ぜてたの……?」
あの後、起きていたティオにも確認したがハーブはこの世界でまだ認知されていないらしい。ちなみにカイトが見つけた部屋は、床が剥げて露出した土壌に何故か野花や野草が芽吹いている状態に、ティオたちが住み着いた頃からなっているそうだ。
塩しか味付けがないので調味料そのものがないのかと思っていたが、認知されていないのなら探せば見つかるかもしれないと希望を抱く。
だが、今はまず。
「上等だ。そこまでいうならハーブの真価を見せてやろうじゃねぇか」
ルイとレンに二人の面倒を見るように頼み、アルとネロを連れてハインと共に食品を購入しに表通りへと戻ってきた。野菜や肉などを売る店を見つけては、鑑定で状態の良いものを見つけて買い込んでいく。
「いろいろ買い込みましたね」
「はい。あの子達にはいろいろ栄養が不足してますから。後は、塩なんかあるといいんですけど」
「店の人に聞いてみましょうか」
丁度肉をいくらか買った店の主に、塩を売ってるところを聞くと、すぐさま応じてくれた。
言われた通りに右二軒先を曲がって五軒目にその店を見つけ、カイトは目を輝かせる。
「塩だけじゃなくて胡椒もある……!」
塩の値段に比べて五倍ほど値が高いし、量も少ないが、あることが分かっただけでもう嬉しすぎる。
迷いなく購入に踏み切り、懐は寂しくなったが、心は充足感に満ち満ちていて、カイトは鼻歌を歌いそうな勢いだ。
『カイト兄がご機嫌で嬉しいピィ』
普段はルイとともに留守番することが多いアルだが、風邪を引いているティオに万一のことがないよう回復魔法の得意なレンがルイとともに残ることになったので、代わりに付いてきて貰った。カイトの頭の上で翼をぱたぱたさせつつ、カイトにくっついていられることに御満悦なアルである。
『後は何買うにゃ? 容量ならまだだいじょーぶにゃ!』
ネロはカイトの鞄のなかに影を伸ばして、鞄に入れたものを次々に異空間に飲み込んで、尻尾をふりふりさせている。
「後は何でしょう? 鍋とかあの家にありますかね?」
「ないと思いますので、買っていった方が良いかと」
そんなやりとりをしながら、諸々買い込んでユニとティオの家まで戻る。
「少し待っててな。今から御飯用意するから」
「……そ、そこまでしてくれるの?」
「少なくとも、ハーブの良さを分かってないお前らにそれを理解させるためには一番手っ取り早い方法だからな」
吃驚しているティオたちから目をそらしつつ、ルイたちを連れてキッチンに足を運ぶ。
もうキッチンとしての機能が成り立たないほどに所々壊れているのだが、ある程度の形は保たれているので、切ったりする作業をする上では問題はなさそうだ。温めるなどの火を扱う作業も、小さくなって料理に毛や羽根が入らないよう小さくなっているアルたちの手を借りれば出来るだろう。
「あ、まな板買い忘れたな……。ルイ、氷でまな板とか作れるかな?」
『まな板なら分かるの! 今から作るのー』
ルイが魔力を奮って作った氷の板を置き、ネロが異空間から出してくれた食材で必要なものを並べる。
「ルイ、水を蛇口から出すみたいにちょっとずつ出してくれる?」
『分かったのー』
ルイが出した水で食材を一通り洗う。
「次、乾燥させてくれる?」
『かんそー、なの?』
「要はこのハーブから水分を抜くんだよ」
『なるほどなのー』
水気が無くなり、萎びたハーブに普段はレンジでチンしてたので大丈夫かな、と思いつつも、取り敢えずハーブならまだあるから失敗しても大丈夫かと思い直す。
ハーブで状態の良さそうなものを選んで刻み、カイトは息をつく。
「出来れば磨り潰したいんだけど、良さげな器具なかったしなぁ」
『磨り潰せばいいピィ?』
「え? 出来るの?」
『任せるピィ!』
風魔法を駆使してハーブを粉末状にまでしてくれたアルが、カイトが用意した器の中にパウダーに変化させたハーブを魔法で器用に入れていく。
「他にも同じようにしてほしいのあるんだけど」
『了解ピィ! どれをすればいいピィ?』
そんなやりとりをしつつ、ルイとアルに同じ工程をしてもらって、大蒜、玉葱も粉末に変えた後、購入した岩から作ったと鑑定に出た塩や胡椒をベースに香りを確かめながら器に少しずつ粉末にしたものを入れ混ぜ合わせていく。
「ん、久々に作ったけどいい感じ」
味を確かめながら、及第点をつけられる程度の味わいのあるクレイジーソルトが出来上がったので、脇に避けておく。
「まぁ、分かりやすいものといえば香草焼きだよなぁ」
買ってきた鶏肉に味の似ているらしい緑蛙の肉を一口大にして、器に入れ、クレイジーソルトを混ぜ合わせて馴染むまで放っておく。
その間に人参や玉葱の皮、大蒜、肉屋で廃棄予定だった骨や鶏ガラ、ミンチにした暴れ牛の肉、タイム、ローリエを適当に刻んで鍋に放り込み、塩胡椒もぱらぱら入れてから、アルに頼んで火を調整し煮込んでいく。
「……時間かかるし、先にこっちやればよかったかな」
独り言ちると、今度は自分の番だとばかりにネロが鳴く。
『なら鍋の中身がいい感じになるまでネロが時間を加速させるにゃ!』
宣言した途端、鍋の中身がみるみる味が溶け出すように色が変わっていく。
「すげぇ。ネロ、一回魔法止めて」
『はいにゃ!』
水分の減った鍋の味を確かめ、魔法で加速させたと思えないほどの複雑で濃厚な味わいにカイトの唇が緩く弧を描く。
「よし、これを濾して、と」
別の鍋にザルを乗せ、鍋の中身を移し変える。ザルに受け止められた食材はもう使わないので廃棄だが、捨てる場所が分からないので一時的にネロに預けておく。
そうして出来たひとつめのスープが入った鍋とは別の鍋に、暴れ牛肉や卵白、みじん切りにした人参や玉葱などを入れて混ぜ合わせた後、先ほど濾したスープをいれて弱火で煮込んでいく。
ネロの加速魔法で時短されたスープは、食材は細かく刻んだことで形が失われて、灰汁や油の浮いたものを取り除けば澄んだ色をしたスープに様変わりしていた。
「やってみればできるもんだな」
日本では時短でスープの素を使っていたが、料理好きな母親から繰り返し絵本の読み聞かせのようにコンソメスープを一からつくることの大変さを教わっていたので、思っていたよりいい感じに出来上がった。人生何が役に立つか分からないものである。取り敢えず、お母さん、料理を教えてくれてありがとう。
玉葱を薄切りにして、残っていた卵黄にもうひとつ卵を割り入れて溶き卵にしておく。コンソメスープに玉葱を放り込んで火が通るまで煮込んでいる間に、また別の平たい鍋を用意して植物油を引いた。
クレイジーソルトが馴染んだだろう肉をそのなかに並べ、焼いていく。箸は見当たらなかったが、トングみたいなものは見つけたのでそれを使って引っくり返しながら焼き色をつけていく。
そうして肉を焼き終えると、丁度スープの玉葱も柔らかくなってきていたので、溶き卵を流し入れて軽くかき混ぜる。
「よし、できた」
玉葱と卵のコンソメスープと、蛙肉の香草焼き。久しぶりに作ったにしてはそこそこ良い出来だと自画自賛しつつ、カイトは鍋のままそれらを運んだ。
「すっごくいい香りが漂ってきて、お腹が空いてしまったよ」
「あ、あたしも。こんなに食欲をそそる匂いは初めてだわ」
「ユニ、も! 匂い、びっくりして、目…覚めたっ」
キッチンから漂ってくる匂いが気になって仕方なかったのだろう。そわそわと落ち着きの無いふたりに加え、休んでいたユニもきらきらと目を輝かせてお座りしている。
「まだまだ調味料とか足りないからこんなもんしか作れなかったけど、塩味だけの飯よりはまともなもん作れたと思うんだけど」
一応味見はしたが、異世界人が好む味わいに調整できたかまでは自信はない。鍋敷きがないため鍋を床に直に敷きつつ、用意しておいた器にそれぞれよそって配る。ついでにユニが買ったパンを一つずつ行き渡らせてから、カイトは「いただきます」と宣言して料理を口にした。
「ん。上出来」
だしの素も何もない状態ゆえ出来上がりが不安だったが、充分食べられる。カイトは久々の塩以外の旨味に舌鼓を打つ。
「……何これ、ハーブってこんなに美味しいの…!」
「カイト、雑草なんて貶したことを心から謝罪するよ。こんな味わい深い料理は始めてだ。……金貨三枚の契約で騎士食堂に勤める気はないかな?」
「お兄ちゃんっ、……すごく、すごく………おいしいっ」
各々から返ってきた反応に小さくガッツポーズをしながら、カイトは笑う。
「俺も、ユニについてきてよかったよ。お陰でハーブを手に入れられた」
満足げな顔で言いながら、突然の出会いが諦めていた食にたいする欲を再燃させることができ、幸運だったと心から思った。
というわけでお料理回です。切る場所無かったのですごい長くなった。
正直わたし自身はお料理得意な方じゃないです。ですが、身内のひとりが異世界転移、転生話の料理チートにはまって以来、醤油、ケチャップなどなど自作してはこちらに試したりするのでそこそこ知識はあります。ですがあくまで知識だけなので、工程をすっ飛ばしている可能性はあります。でも、一回書いてみたいなとは思ってた。
しかし戦闘シーンと違って現実に即した工程を並べて書いていくのは大変だった。付け焼き刃の知識で挑戦するジャンルじゃないね。お料理チートの作品書ける作者の方々に敬服するばかりです。皆様の知識に脱帽します……。私は料理メインの話は無理だと痛感しました。
こんな駄文でも、楽しんでいただけたら幸いです。
今回もご来訪頂き、ありがとうございました(*´▽`*)
また読んで頂けるよう精進して参りますので、今後も気が向いたら足を向けてくださいますようお願いいたします。