ギルドで依頼を受けました
ギルドの講習で戦闘訓練を積み、一応武器を振り回す程度なら出来るようになった。そのため、そろそろ今日こそ生活のため働こうと、ハインを伴ってギルドへやってきていた。
「何がいいですかね?」
「従魔がいるので、戦闘も可能とは思いますが、ここはひとつ初心者らしく薬草採取でもいかがです? あるいは、町の人々の細々とした雑用依頼とか」
「そうですね……」
依頼内容を吟味したうえで、カイトは無難に薬草採取を選んだ。ハインに勧められたこともあるが、まだ慣れない土地の周辺を散策しながら行うには丁度よいと思えたからだ。
薬草依頼を掲示板から剥ぎ取り、受付の列に並ぶ。
「いらっしゃいませ」
「この依頼を受けたいのですが」
差し出した紙を受け取り、受付の女性が笑う。
「癒し草の採取ですね。特徴などはお分かりですか?」
「いえ、まったく分かりません」
「少々お待ち下さい」
受付嬢がカウンターから離れ、一冊の本を手に戻ってくる。
「絵になりますがこちらがクラル草になります。このあたりだと南の草原や森によく繁殖していますので、比較的入手の容易な薬草となります」
広げられた本の内容を読んでいく。肥沃な土と太陽の光が当たる場所に育ちやすく、葉に青白い葉脈が浮かぶ薬草だと書いてある。
採取としては茎を折って摘むのでなく、生えている葉をひとつの薬草につき、二、三枚採るのが最も良いと書いてある。
何度か頭のなかで内容を反芻し、カイトは受付嬢に本を閉じて返した。にこやかに脇に本を寄せた受付嬢は、薬草採取の依頼手続きを済ませてくれる。
受付を終え、外へ出る外門へ向かいつつ、道具店の店先に並べられた手袋を購入した。薬草採取中土に触れるだろうから、汚れないよう軍手代わりである。そんな寄り道をしつつ外門へ到着すると、丁度門番をしていたロブと会えた。
「おぉ、坊主か」
「こんにちは、ロブさん」
「これから出るのか?」
「はい。薬草採取を請け負ったので」
頷いたカイトに、ロブは笑う。
「ほぉ。普通ならそんな魔獣たちを従えている分討伐なんかに精を出しそうだが、堅実だな」
「ルイたちがいるからって、それに甘えてばかりではいられないでしょう。身の丈にあった依頼からやるのは当然ですよ」
何より、彼らの功績を自分のことのように誇るのは男が廃る。
内心そう思いつつ返すと、ロブはその答えに満足したのかにやりと笑った。
「慢心しないのは感心だな。その調子でいろいろ学べよ」
「はい」
外へ出る手続きを終え、ハインともそこで別れる。まぁ、街中での問題が起きないよう案内をしてくれているのだ。外へ出るなら、彼には本来の業務に戻ってもらうべきだろう。
お気をつけて、と見送ってくれたハインに手を振り、カイトは歩きだした。
街から少し離れた森へ到着し、ギルドで聞いた薬草の特徴に似た植物を探す。ルイたちも草花を踏み潰さぬよう小型化し、一緒に捜索に励んでくれた。
「お。これ、かな?」
青白い葉脈の浮かんだ薬草。本に書かれていた特徴と合致する。鑑定でもクラル草と表示が出たので、採取しようと葉の状態を確認して摘み取った。
「ネロ、収納お願い」
『はいなのにゃ!』
傍に寄ってきていたネロの影が広がったところで二枚の葉を手から放す。ひらひらと舞い落ちて影の中へ消えた葉を見送って、再び他にもないかと視線を滑らせた。
「ーーーあれ?」
視界のなかに草花の膨大な情報が入り込んでくる。クラル草以外にも有用な草花の名が飛び込んできて、カイトは目を瞬かせた。
「これ……鑑定の効果か」
鑑定の常時発動で草花の名と効能が分かるならば、薬草採取はカイト向きの依頼だったかもしれない。薬草は常設依頼でもあるし、クラル草だけでなく他の依頼も探せばあるかもしれない。見えた分だけ採取するのもありかもしれない。
ただ、雑草などの毒にも薬にもならないものも一緒に見えてしまうので、飛び込んでくる情報量に頭が痛くなりそうだ。
一度鑑定を解除し、先ほど雑草のなかに見えた有用な草花の名称が見えたあたりに足を運ぶ。そのあたりで再度鑑定を発動して有用なものを選んで摘み取っていく。
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毒草
毒草。葉には毒があるため、素手で触るのは危険。しかし根っこには解毒作用があるため、解毒剤として加工できる。
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痺れ花
毒花。その香りを嗅ぐと麻痺作用を引き起こす。しかし加工次第でモンスターを無力化する毒にも麻痺作用の効果を解消させる薬にもなる。採取時には鼻と口を覆って香りを嗅がないようにするとよい。
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睡眠茸
食べると眠くなる茸。特に有害ではない。焼くと香りが周辺に漂うため、耐性がなければその香りで眠る者もいる。加工して睡眠薬などに改良可能。
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暗闇苔
洞窟の中や、岩の陽の当たらない裏側などに繁殖する苔。苔自体に効能はないが、他のものと組み合わせることで、より高度な薬を生み出す効能を高める効果がある。
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万能花
あらゆる異常を治す万能薬を生み出すのに欠かせない素材。野生で咲くのは珍しい。白い花が咲いてから一週間しか咲いていられないため、見つかるのは稀。
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「この辺だけでもいろんな素材があるな」
『こっちにもあるのー』
『レンも見つけたキュー』
『ネロも発見だにゃー』
採取した素材をネロの魔法で保管しつつ、カイトが見つけたことで匂いを覚えたルイたちが周辺の匂いを嗅ぎ分け目標を見つけてくれる。おかげで鑑定を乱発せずに済み、情報収集するための頭痛の回数もぐっと減った。ついでに有害なものも、手袋を購入したおかげでさくさく回収できる。口許を覆うものはなかったが、レンが結界魔法で空気中に香りが飛散しないよう囲ってくれたので安全に収集できた。ちなみにこれらの毒は幻獣たちには蚊に刺される程度の軽度にしかならないそうなので、完全にカイトの身の安全のためである。
『ネロ、傍に来ていた一角兎仕留めたピィ。保管するピィ』
『はいにゃー!』
早くに他三匹より素材捜索に貢献出来ないと理解したアルは、周辺の警戒をすることでカイトの安全を守ってくれていた。最初はレンたちに似た魔獣を見て心が痛んだが、歩いている最中に魔獣同士の熾烈な争いを見ればそんな考えも吹き飛んだ。前世で有害な動物を狩っていたように、これは防衛のための措置だと早めに割り切るのに良い契機となったと言えよう。
それから暫くして、かなりの量を確保できたので、そろそろ帰ろうとカイトは腰を上げた。
「今日はここまで。帰ろうか」
『はいなのー。皆僕の背中に乗るのー!』
応じたルイが巨大化し、その背にカイトたちを乗せて走り出す。
『いっぱい採れたキュー?』
「うん。請け負ったクラル草以外にもいろいろ採取できた。帰ったらギルドに問い合わせて他の素材も売ってしまおうか」
『アルもいろいろ狩ったピィ』
「うん。いろんな魔獣を倒したから、それもまとめて売れるといいね」
『ネロの魔法の中も、素材の山でいっぱいにゃー』
「荷物持ちありがとう、ネロ。帰ったら、好きなもの買ってあげるよ。勿論みんなにね」
幻獣たちと穏やかに語り合いながら、帰路を辿る。依頼を受諾した頃は陽が登り始めた頃だったが、この時には既に真上に座し、煌々とカイトたちを照らしていた。
薬草の名前や効能を考えるのが一番面倒だった。世界の言葉を調べてそれっぽく作った造語ではありますが。
ギルド初依頼。結局ネロの異空間保存魔法に頼っていますが、新鮮なものは新鮮な状態を保てるのなら使うべきなのです。
だいたい、ネロは自分の魔法をカイトが使ってくれることに喜んでいるしね。依頼報告時にネロの存在が欠かせなくなるのは目に見えた確定事項です。
レンはカーバンクルゆえ傍から離せないし、結果ルイとアルがいつもお留守番になります。一応幻獣ですが知られていないので………。
さあ、次回は依頼報告!
どんな素材をアルは狩ったのか! 薬草諸々の採取量は? などなど気になる点は次回に持ち越しで!
それでは、今回も読んでいただきありがとうございましたー(*´▽`*)