第2章「夜中の夜明け」4
『カリバーン』の振るう大剣を『アロンダイト』は左の剣で受け流し、右の剣で切りつける。その攻撃を『カリバーン』はもう一方の大剣でガードし、蹴りを放って『アロンダイト』から距離を取る。その二機の攻防はまさに次元が異なる激しさで、周囲の『AF』たちも戦闘中なのを忘れて注目する。『ナイトブル』と『ヘビィ・ベイビィ』も援護しようとするが、トリスの『フェイルノート』がそれを阻む。
『ランスロード様の邪魔はさせません。あなたたちの相手は私が務めます』
『おっと声からするにかなりの美人さんのようだな。もし良かったら今すぐその機体から降りて俺と付き合わないか?』
『ちょっとロック! あんた戦闘中に何ナンパしてんのよ!』
『ご心配は無用ですよ。私はこのような軽い調子の殿方には興味がありませんので』
『フェイルノート』が槍の穂先を『ナイトブル』に向ける。するとその切っ先からトランス粒子が収束し、光線として勢いよく放たれた。
『おっと!』
対する『ナイトブル』は咄嗟に身を捻ってビームを回避する。
『ちょっロック! ビームが曲がってまたそっちに向かってる!』
『何だと!?』
ラチェットから警告があり、ロックが後方を確認すると確かに回避したはずのビームが再度『ナイトブル』のコックピットに向かって飛んできていた。慌てて『ナイトブル』は左肩のシールドで弾を防御する。大気中でだいぶ減衰していたのもあってビームはわずかにシールドの表面を焦がすだけで霧散した。
『別の機体が撃った弾じゃない……アンタのその機体、なにか細工があるな?』
『よく見るとシールドからスタビライザーみたいなものが展開して弓みたいになってる? もしかしてソレが特殊な力場を展開してトランス粒子を偏向させてるとか?』
『あら、まさかこんなすぐに『フェイルノート』のトリックを見破られてしまうとは。もしやその黄色くて恰幅のいい機体に乗っている方はメカニックも嗜んでいらっしゃるのでしょうか』
『まぁそんなとこ。にしてもあなたのその機体とってもいいわね、是非ウチのものにしたいわ!』
『ヘビィ・ベイビィ』が腕部マニピュレーターからビームマシンガンを上空の『フェイルノート』に向けて放つ。対する『フェイルノート』はそれらの弾をわずかに機体を横にスライドさせることで回避した。
『!』
しかし回避によって生じた僅かな硬直の隙を突き、『ナイトブル』がスナイパーライフルからビームを発射した。
『直撃コースだな。悪いなふたりとも、その機体に傷をつけちまう』
『見くびられたものですね私も』
しかし『フェイルノート』は左腕のシールドを突き出し、スタビライザーを展開する。すると淡く緑色に輝くフィールドが広がり、そのフィールドの表面に触れた『ナイトブル』のビームはぴたりと動きを止める。
『このままお返しします』
すると動きを止められたビームは向きを変え、今度は『ナイトブル』と『ヘビィ・ベイビィ』のもとに飛んでいく。
『あぶねっ!』
『ナイトブル』は咄嗟に左手で抜いたビームサーベルで弾を切り払い、『ヘビィ・ベイビィ』は残ったビームの残滓を腕部の巨大なシールドで防御する。
『やっぱ『アヴァロン』のエースだけあって手強いわね』
『くそっ、さっさとアルトの援護に行きたいってのに』
『言った筈です。ランスロード様の邪魔はさせないと』
再び『フェイルノート』が槍を構え、『ナイトブル』と『ヘビィ・ベイビィ』に遅いかかる。
その一方、『カリバーン』と『アロンダイト』もまた激闘を繰り広げていた。
『はぁあああああああああああああああああああああああああ!!』
『アロンダイト』が背中のウィングを展開し、そこから一斉に『カリバーン』目掛けてビームを発射した。咄嗟に『カリバーン』は飛来するビームをバレルロールで回避するが、そのビームは空中でウネウネと軌道を変え、高速で移動する『カリバーン』に追従してくる。
「アルト様、あれは周囲に強力な『Tフィールド』の力場を展開することで直接ビームに干渉し、ベクトルを制御しているようです。つまり回避しても意味がありません」
「面倒な飛び道具を使うものだ!」
アルトは舌打ちし、『カリバーン』は咄嗟に大剣で迫り来る追尾ビームを叩き切る。しかし何発か命中し、『カリバーン』は吹き飛ばされてしまう。『Tフィールド』のバリアが機体を覆うように展開されているので本体のダメージはほぼゼロだが無防備になった『カリバーン』の胸元目掛けて『アロンダイト』は高速で迫り、双剣の切っ先を突き入れる。しかしアルトも反射的に空中で大剣を振るい、『アロンダイト』を遠ざける。
「ランス! おい、ランスロード! 俺の話を聞け!」
『一体誰だ君は!? 私は白騎士――』
アルトの必死の呼びかけにランスロードは困惑の表情を浮かべる。相手はまるで自分のことを知っているようだが、ランスロードには相手の心当たりはない。しかし何故かランスロードは『カリバーン』を駆るこの青年を知っているような気がした。まるで親友と再会したかのようにどこか心が安らいでしまい、無意識にアームレイカーを握る力が緩む。
「思い出せ、ランスロード・ヴァンウィッグ! 俺はアルト! アルト・アーヴァンだ!」
『アル、ト……』
名前をぽつりとつぶやき、ランスロードはぎゅっと目を瞑る。脳裏に浮かぶのはこちらに手を振る銀髪の少年、そして自分たちを迎える綺麗な女性。知らない情景が浮かび、ランスロードははっと息を飲んだ。何故かその光景を見ていると胸がとても苦しくなる。
(どうして私は戦っているんだ……)
そうして『アロンダイト』はおもむろに双剣を力なく下げる。これで『アロンダイト』は攻撃の意思がなくなったと見てアルトも同じく大剣を下す。そしてその二機が沈黙したのを目の当たりにし、自然と他の『AF』たちも自然と攻撃の手を止めた。その時だった。
『きゃっ!』
『ななななんだぁ!?』
上空から禍々しい紫色のビームが飛来し、居住地ごと地上の『AF』を無差別に攻撃していく。いたるところで爆発が生じ、悲鳴があがる。しかもその攻撃は『ギルド』側だけではなく『アヴァロン』側にも及び、次々に『クルセイダー』が紫のビームに貫かれて撃墜される。あまりにも異様な光景だった。
『カリバーン』の方にもビームが飛んできて咄嗟に大剣でそれをガードする。そしてアルトは遥か上空に浮かぶ一機の『AF』を目の当たりにした。
「悪魔のような『AF』だな……」
アルトの言う通りその『AF』は悪魔のような禍々しい見た目をしていた。
全身に黒い塗装が施され、装甲の継ぎ目からは紫色の光が走り、背中には多数のビットを備えた羽が生え、手足は異様に長く、鋭利な爪が鈍く光っている。そして頭部のX字のメインカメラは『カリバーン』を睨みつけ、頭部には二本の角が生えている。『アロンダイト』とは正反対の見た目だが、どことなく『カリバーン』と似ている気がする。
「あの機体は……!」
キャスパリーグが黒い『AF』に反応を見せる。
「何か知っているか?」
「いえ、わかりません。おそらく『アヴァロン』の中でもごく一部の人間しか存在を知らない機体です」
『ガァアアアアアアアアア!!』
すると獣のようなうめき声とともに黒い『AF』が苦しそうに身を捩り、一斉にバックパックのプラットフォームから六基のビットが射出される。それらは『カリバーン』や『ナイトブル』、『ヘビィ・ベイビィ』はじめ近くに居た『AF』に襲いかかり、アルトたちは即座にビットを砲撃で追い払う。しかし他の『AF』は攻撃を食らってしまい、機体に深々と鋭利なビットの先端部が突き刺さる。するとビットが突き刺さった『AF』は下手くそな傀儡子が操作する操り人形のごとくぎこちない動きで立ち上がった。
『クソッ! なんだこのビット!?』
『機体が言うことを聞かない!』
ビットを刺された『AF』の『トランサー』が必死に操縦桿を動かしているが効果はなく、ゆっくりと手にしている火器を近くの僚機に向ける。
『やめろ、こっちに武器を向けるな!』
しかし必死の制止も効果はなく、そのまま引き金が引かれ、被弾した『AF』は地面に倒れこんだ。他の機体も同様で、次々に仲間の射撃で被弾した『AF』が倒れていく。
『うわっ……!』
『やめてくれー!』
『おいいきなり同士撃ちはじめたぞ!』
ロックは何とかロングライフルで制御を奪われた『AF』の腕を吹き飛ばし、無力化するものの、機体が使えなくなるとビットが抜け、新たな『AF』にターゲットを変える。
『周囲の『AF』の制御を奪ってる! なんかのウイルスを流し込んでるのかも!』
新たに確保した六機の『AF』とともに黒い『AF』が『カリバーン』に迫る。『カリバーン』は両手に大剣を携え、四方から息の合ったコンビネーションで攻撃を仕掛けてくる『AF』の攻撃を受け流すが、そのウネウネとした独特の動きは読みにくく、じわじわと被弾が重なる。
「ちっ! 次から次へと……!」
『アルト!』
『こんのー!』
『ナイトブル』と『ヘビィ・ベイビィ』が支援砲撃をするものの、傀儡を無力化しても新たな傀儡が襲いかかってキリが無い。しかも本体である黒い『AF』も攻撃をしてくるので手に負えない。しかも黒い『AF』が巨大なマニピュレーターから放つ砲撃はとても強力で『カリバーン』の展開する『Tフィールド』のバリアを破りかねないほどだ。
万事休すか、とアルトは冷や汗を流す。その時だった。
『ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
突然黒い『AF』の『トランサー』が苦しそうな絶叫をあげ、機体がびくりと大きく震えた。そしてだらりと手足が下がり、次々にハックしていた『AF』の動きが止まり、機体に刺さっていたビットもバックパックのプラットフォームに戻る。一体何があったのかとアルトたちは黒い『AF』を注意深く観察し、機体に照準を合わせる。
『――!』
すると停止していた黒い『AF』の首が持ち上がり、X字の双眸に紫色の光が灯る。
「何の真似だ!」
攻撃の合図だと判断したアルトは大剣をスライド展開させ、内部の砲口を露出させるとそこから高出力の照射ビームを放つ。しかし黒い『AF』は片手のマニピュレーターの銃口からTフィールドのバリアを展開するとそのままあっさりとその砲撃を掻き消した。
『モルガン、撤退を! トリス、すまないが彼女のサポートを頼む!』
『ランスロード様! しかしあなたが……!』
『急ぐんだ! 僕は大丈夫だから!』
『……っ! 承知しました』
『ウウウ……!』
ランスロードの指示に従い、『フェイルノート』が今にも崩れ落ちそうな『ヴァルプルギス』を支えて天高く飛翔する。
「戦線を離脱するようです!」
『逃がすかよ!』
どんどん遠くなっていく二機の『AF』に向かって『ナイトブル』がスナイパーライフルで追撃するが、放たれた複数のビーム弾を『フェイルノート』は次々に最小限の動きで回避し、あっという間に見えなくなってしまった。
『うわー逃げられたー!』
「何だったんだあの機体は……」
アルトたちは呆然と黒い『AF』が消えていった空の向こうを見つめる。しかしまだ『クルセイダー』は多数残っており、今なお戦闘はあちこちで続いている。このままでは被害が拡大していく一方だ。
「とにかく『クルセイダー』どもをさっさと片付けるぞ。これ以上奴らに好き勝手させるわけにはいかない」
『ヘビィ・ベイビィ』が砲撃を行って相手を動かし、『ナイトブル』がライフルで、『カリバーン』が大剣で仕留める。少しずつだが『クルセイダー』の大群はじわじわとその数を減らしていく。すると『アヴァロン』側に動きがあった。
『ええい、『アレ』を使うぞ!』
『了解!』
おもむろに『クルセイダー』の一機が先ほどラチェットとキャスパリーグが侵入したガレージに接近し、その屋根をランスで抉って吹き飛ばす。
『お前たち攻撃をやめろ! さもなければこの核弾頭を破壊する!』
なんとその『クルセイダー』は信じられないことにランスの先端を核弾頭に突きつけた。ガレージの中に核弾頭があったことは大半の人間は知らず、『ギルド』側に大きな動揺が広がる。
「ちっ、正気を疑うぞ!」
咄嗟にアルトは大剣を投げつけ、『クルセイダー』を核弾頭から離す。しかし次々に『クルセイダー』は核弾頭にワラワラ集まり、際限がない。
『アルト! 他のみんなが!』
『俺たちに協力してくれてるみたいだぜ!』
周囲を見ると『ギルド』側の『AF』がボロボロの機体を動かし、『クルセイダー』の猛攻を防いでくれていた。数はこちらの方が上だが全体的な性能や総合的な練度はあちらの方が上、戦闘は膠着状態に入る。
『はぁぁあああああああああああ!!』
「ぉおおおおおおおおおおおおお!!」
再び横合いから突っ込んできた『アロンダイト』の剣を『カリバーン』が受け止め、大剣で打ち返す。火花が散り、お互いの白い装甲がオレンジ色に煌めき、デュアルアイの双眸がぎらつく。機体性能は『カリバーン』の方が上だが、『トランサー』としての技量はランスロードの方が上のようだ。しかし『アルト』はランスの中に迷いがあるのを看破していた。
「目を覚ませランス! お前の記憶を思い出せ!」
『私の記憶——』
必死に呼びかけると徐々に『アロンダイト』の激しい斬撃は弱まっていく。そして拮抗していた剣戟の均衡は崩れ、『カリバーン』は『アロンダイト』の双剣を二本丸ごと弾き飛ばした。刃を煌めかせながら双剣がくるくると空中を回転しながら飛び、地面に突き刺さる。勝負は着いた。
「……」
『カリバーン』は静かに大剣を跪いた『アロンダイト』の首元に突きつける。対する『アロンダイト』は身動きせず、沈黙したままだ。完全に戦意を喪失したようだ。
どうしたものか、とアルトは逡巡をするが、
「アルト様、核弾頭が!」
キャスパリーグの声で我に帰ると何やら轟音とともに背後が明るくなり、『カリバーン』の首を動かすとなんとガレージの中の核弾頭がちょうど発射されたところだった。どうやら何者かが遠隔操作で発射させたらしい。
『なっ……!? 発射したのか!? あの方向には『ログレス』があるぞ!』
ランスロードの焦る声が聞こえる。
「くそっ、正気なのか!?」
慌ててアルトは大剣に内蔵されたビームカノンの照準を核弾頭に向けるが、すでに雲の中に到達しており照準を合わせることができない。
「おいロック! そっちは狙えないか!?」
『無理だ! 雲の中だと狙えない!』
『「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」っていう極東のコトワザなるものを聞いたことがあるわよ!』
ラチェットの『ヘビィ・ベイビィ』が肩の大型ビームカノンから極太の照射ビームを連射し、雲の中に突っ込んだ核弾頭をどうにか撃墜しようとする。しかし飛んでいく光軸に手応えの実感はない。もはや万事休すかと思われた。
「なにっ!?」
すると何故か天高く昇っていった核弾頭は成層圏に到達したところで途中で推力を失い、重力に従って『デイブレイクタウン』の方に戻ってきた。どうやら最初から狙いはこの街の破壊だったようだ。
『おい、アレまっすぐこっちに落下してきてるぞ! このままじゃこの街がまるごと吹っ飛んで放射能で汚染される!』
『そ、そんなこと聞いてないぞ! アレは俺たちが撤退した後に起爆させる筈じゃ……!』
『上層部め! 俺たちは捨て駒だったのかよ!!』
ロックの焦る声の他に『アヴァロン』の『トランサー』たちの阿鼻叫喚も聞こえる。彼らもこれは想定外だったようだが、おそらく最初から自軍を巻き添えに『デイブレイクタウン』に核を落とすつもりだったのだろう。そして世論から非難されないように「『ギルド』は秘密裏に所有していた核弾頭を使って『アヴァロン』の拠点がある『ログレス』を攻撃するつもりだったが途中で核弾頭はマシントラブルで『デイブレイクタウン』に落下し、自爆した」というシナリオで。もちろんそれが成功すれば『ギルド』は全滅してるのでこれが『アヴァロン』の自作自演だとはバレない。とても狡猾で卑劣なやり方だ。
「なるほど、仲間ごとこの『デイブレイクタウン』を消し飛ばす気か!」
『『ギルド』ではなく『アヴァロン』がこれを……!?』
ランスロードも何も知らなかったようで呆然とした声がスピーカー越しに届いた。所属する組織に捨て駒にされたという事実はとてもショックだろう。
『くっ……! どちらが正しいか言い争っている場合ではない! あの核弾頭を無力化しなければ!』
しかし高潔な騎士であるランスロードは強靭な精神力で迷いをねじ伏せ、この場にいるすべての人々を守るために再び立ち上がった。地面に突き刺さっている双剣を再び手に取ると『アロンダイト』の推力を全開にし、一気に迫り来る核弾頭へ突っ込む。まるでそれは天を駆ける一筋の流星だ。
「俺も行く」
するとアルトも彼に同調し、『カリバーン』はバックパックの大型スラスターと二対の大剣に搭載されたスラスターでX字の青いバーニア光を放ちながら『アロンダイト』に並ぶ。
『なにっ『カリバーン』!? 何故私に付いてくる!?』
「今は争っている場合じゃないだろう。俺たちの目的は同じのはずだ」
『くっ……ならばここは一時休戦だ!』
こういう生真面目なところは昔と変わらないとアルトは昔を懐かしむ。
しかし今は感傷に浸っている暇はない。どんどん核弾頭との距離は縮んでいく。
「先程ざっと核弾頭をスキャンして構造を確認したところアレには上下にそれぞれ信管がセットされています。つまり無力化する場合同時にふたつの信管を破壊しなければ爆発する仕組みです」
キャスパリーグの遠隔操作により核弾頭の構造データが『カリバーン』と『アロンダイト』のディスプレイに小さく表示される。核弾頭の断面図の上下にそれぞれ赤い箇所がマークされているが、そこが信管のようだ。かなり小型だが少しでもタイミングや破壊する位置がズレたらアウトだ。しかしあれを無力化するにはこれしかない。
「行くぞランス!」
『わかっている、アルト!』
アルトの声にランスロードも応じる。しかしランスロードは『カリバーン』の『トランサー』を自然と「アルト」と呼んでしまったことに戸惑ってしまった。そしてあまりにもその名前にしっくりと来てしまった。まるで古くから付き合いのある友人の名前を呼ぶような、そんな親しみが感じられる。
「おいやるぞ!」
「あ、ああ!」
アルトの呼びかけで我に返ったランスロードはかぶりを振って迷いを断ち切る。
今は核弾頭の処理が最優先だ。
遂に『カリバーン』と『アロンダイト』の前に雲を切り裂くようにして核弾頭が現れた。
それと同時に二機の『AF』がそれぞれの得物を構える。チャンスは一度きりで、失敗したらこの街丸ごと核の炎で文字通り跡形もなく消滅することになる。絶対に失敗は許されない。
「『はぁぁああああああああああああああああああああ!!』」
ふたりの声が重なり、同時に大剣と双剣が核弾頭に向けて振るわれる。特に合図をしたわけではないが、完璧にそのタイミングは一致しており、ふたりの振るった刃は同時に核弾頭の上下それぞれに配置された信管を正確に捉えた。そしてあっさりと核弾頭は三つに両断され、そのまま二機の間を通過していく。最後に地上の『ナイトブル』のライフルと『ヘビィ・ベイビィ』のキャノン砲で弾頭は跡形もなく吹き飛び、夜空に光が灯った。
「なんとか止められたか……」
「やりましたねアルト様」
『カリバーン』は静かに大剣を元の位置に戻し、アルトはそっと小さく息を吐く。取り敢えずこれで危機は一応去った。『クルセイダー』たちは既に『デイブレイクタウン』から逃げ出しており、生き残った『AF』たちは生存者の救助を手分けして行なっている。あちこちで火の手が上がっており、被害は甚大だ。
『『カリバーン』の『トランサー』』
呼びかけがあり、アルトがそちらを確認すると『アロンダイト』が剣の切っ先を『カリバーン』に向けていた。
「……まだやるつもりか」
『カリバーン』も再び大剣の柄に手を伸ばすが、『アロンダイト』はそっと剣を下ろし、『カリバーン』に背中を向ける。
『……次また戦場で会ったら必ず私はキミを斬る』
それだけ言い残し、『アロンダイト』はバックパックのウィングバインダーを大きく展開してその場を飛び立つ。その白いシルエットはまるで幻のように一瞬で空の彼方に消え去り、『カリバーン』夜空に残った白銀の軌跡を見つめた。しかしそれもすぐに地上から立ち昇る黒い煙によって消えていく。
「ランス……」
アルトは親友の名前を呟くことしかできず、無力感にアームレイカーを握りしめた。
また彼はあの日と同じくその手を掴むことが出来なかった。昔も今も変わっていない。
肩を落とすアルトの後ろ姿をキャスパリーグもまた静かに見つめるしかなかった。
この戦いはいつまで続くのだろうか。
***
ちょうど同じ頃、『ログレス』では熱狂が渦巻いていた。
発展した街の中心部には夜間であるにもかかわらず、多くの市民が集い、巨大なディスプレイに映し出されたこの街の指導者たるウェイガン・オークニーの姿を見上げている。
それは『デイブレイクタウン』で起きた『アヴァロン』と『ギルド』の武力衝突を市民に知らしめるものだった。
『見よ! 『ギルド』は核弾頭を所持し、あろうことかそれをこの『ログレス』に向けて発射した! 幸いにも我々『アヴァロン』の精鋭の手によって核弾頭は無力化できたもののこれは断じて許すことの出来ない卑劣な行為! 我々はこれを『ギルド』の『アヴァロン』に対する宣戦布告と見なし、『ギルド』への攻撃をこれより開始する! 立て、『ログレス』の市民よ! 奴らに正義の鉄槌を!』
ウェイガンが腕を突き上げると同じく市民たちも声を張りながら腕を突き上げる。
大きなうねりがこの『フロンティア』に生じ始めていた。