第1章「勇者の目覚め」3
するとキャスパリーグは箱の中で静かに眠り続ける白い『AF』のコックピットを指差した。
「あれはとても危険なんだろう、俺に託すというのか?」
「私はあなたを信じます。あなたならこの機体を正しく使えると……それに私は『マシンドール』、命を持たぬが故に私ではこの剣を命を救うことではなく命を奪うことにしか使えません。であるならば"人"であるあなたが乗り手に相応しいと判断しました」
アルトの目を見つめるキャスパリーグの瞳に迷いは無い。彼女は『マシンドール』だが、その凛とした眼差しは「彼女」にとてもよく似ていた。
「……選択肢は無い、か。ならばお前の誘いに乗ってやろう」
キャスパリーグに背中を押されたアルトも遂に『カリバーン』に乗る決意をし、キャスパリーグの腕を引っ張って開け放たれたままのコックピットに飛び込む。するとちょうど同じタイミングで『クルセイダー』たちが「白い箱」の前にたどり着いて中の様子を確認した。
『!? 隊長、あの二人が『カリバーン』のコックピットに乗り込んでいます!』
『なにっ……!? お前達接近を許すなと言っただろう馬鹿者! アレは傷つけずに持ち帰れという命令だが……!』
『どうしますか!?』
『ええいやむを得ん! 敵の手に渡った以上破壊するしかない! まだ起動していない今がチャンス、撃て!』
隊長の男の命令に従い、『クルセイダー』たちが一斉に『カリバーン』に向けてランスを構える。しかしまだアルトとキャスパリーグは『カリバーン』のセットアップ中だったので回避も防御も不可能だ。そうして無防備な胴体に大量の光弾が殺到するが、
『なにっ弾かれただと!?』
『あれだけの射撃を浴びても無傷なんて……』
『カリバーン』の装甲には一切の傷は無い。希少なレアメタルをふんだんに使用したその装甲は物理攻撃をものともせず、特殊な表面処理を施すことでビームの威力も大幅に減少させることが出来る。まさに防御面も最強クラスだ。
「おい今なにか音がしなかったか?」
「気のせいでしょう」
まだメインカメラが起動していないので外の様子はわからないが、黙々とキャスパリーグはセットアップを続ける。
「リアクター起動、トランス粒子生成開始、システムオールグリーン、各セーフティ解除」
「なんだこのエネルギーゲインは……既存の『AF』とは桁違いの出力だ」
コンソールのディスプレイに表示されたゲージはアルトが先程操縦していた『ソルジャー』のものとは比べ物にならない総量だ。こちらを複数で取り囲んでいる『クルセイダー』すら遥かに凌ぐスペックだろう。一体どんなバケモノ機体なんだとアルトは冷や汗をかく。
「アルト様、こちらに手を……」
「!? な、何をやっているんだお前は!」
するとおもむろにキャスパリーグは胸元をはだけさせ、大胆に豊満な胸の谷間をさらけ出していた。唐突すぎるその行為にアルトも思わず狼狽してしまう。
「あなたがこの『カリバーン』の『トランサー』となる場合、胸部に内蔵された中枢制御ユニットに触れ、あなたの生体データを登録していただく必要があります」
更にキャスパリーグは胸部ユニットを展開し、中の機械部分を露出させた。人間でいうとそこは骨や内蔵になるわけだが、複数の部品が組み合わさリ、蠢く様は少しグロテスクでもあり、機械式時計の歯車のごとく工業的な美しさがある。そして人間でいう心臓部には緑色に輝く宝石のようなユニットが埋め込まれていた。中枢制御ユニットだ。
「しかしそこに触れるのは……」
「恥ずかしがっている場合ではありません。さぁ早く」
躊躇するヘタレのアルトにキャスパリーグが登録を急かす。
「くそっ……開発者は変態なのか……! ええい、やってやる!」
アルトは殆どヤケクソ気味にキャスパリーグの胸元に腕を突っ込み、中枢制御ユニットに優しく触れた。するとキャスパリーグの全身に配置されたコンディションを示すライトユニットが緑色に輝きを放つ。
「ん……っ! アルト・アーヴァンを……『カリバーン』の『トランサー』、および『キャスパリーグ』のマスターに登録いたします……はぁ……」
「変な声を出すな……」
頬を上気させ、甘い声を漏らすキャスパリーグにアルトが突っ込む。
「申し訳ございません。そこは『マシンドール』の心臓部ともいえる大切な部分なもので……さて、これでわたくしもこの機体もあなたの自由です。どうぞお好きに扱ってください」
「取り敢えず最初の命令だ、口を閉じて大人しくしていろ」
命令に従いキャスパリーグはメインシートの後ろに備え付けられたサブシートにちょこんと座った。
「『カリバーン』、行くぞ」
そして「白き鋼」はゆっくりと立ち上がった。
***
『このまま大人しく死ね!』
ゆっくりと立ち上がりつつある『カリバーン』に『クルセイダー』の一機が手にしたランスの先端部からビームを発振させながら勢いよくコックピットに向けて突き出す。しかし『カリバーン』はランスの先端部を片手で掴み、そのまま握りつぶして奪い取る。
『なんだあのパワーは!?』
『『クルセイダー』の大型ランスをへし折るとはバケモノか!?』
『カリバーン』の驚異的な膂力を目の当たりにした『クルセイダー』たちは慌てて距離を取る。
「あれ、『カリバーン』が動いてる!?」
「『トランサー』はアルトなのか!?」
やや離れた場所で三機の足止めをしていたロックとラチェットも『カリバーン』が動き出したことに気付いた。アルトはふたりの機体に通信を繋ぐ。
「ああ、足止めをしてくれて助かった。残りは俺がやる。お前たちは一旦下がってくれ」
『大丈夫なのか?』
『まだ触ってないのに壊したら承知しないよ!』
「任せろ」
『カリバーン』は握りつぶしたランスを手にしたまま、二機の『クルセイダー』に対峙する。
『おのれ薄汚い下層階級が! 神聖なる『アヴァロン』に歯向かったことを後悔させてやる!』
すると隊長機は肩部のハードポイントにセットされた二機の『シュリケン』を射出した。『カリバーン』は上半身を逸らし、飛んでくる『シュリケン』を回避するが、『シュリケン』は空中で大きく弧を描きながら軌道を変え、再び『カリバーン』に迫る。
「あの『ビームシュリケン』は追尾機能があり、対象に命中するまで動き続けます」
「ふん、ならば振り切ればいい。動くぞ!」
『カリバーン』のバックパックと膝、左右のバインダーから青いバーニアの光が灯る。すると『カリバーン』の巨体は一瞬にして二機の『クルセイダー』との距離を詰め、そのまま敵機の横を通過する。それから遅れて二基の『シュリケン』もやってくるが、『カリバーン』は握ったままのランスを放り投げ、『シュリケン』を二基まとめて破壊した。そして爆発が生じるが、『カリバーン』は姿勢を変え、来た道を戻り、爆発の中に突っ込む。機体が消え、動揺する『クルセイダー』の背後に回った『カリバーン』はがら空きの背中に蹴りを叩き込み、ランスを奪われた『クルセイダー』を寝かす。
「動きが早いな」
『カリバーン』の軽快な動きに搭乗者であるアルトも舌を巻く。
「既存の『AF』とは基礎スペックが文字通り桁違いです。単騎で戦局を左右する戦略級の『AF』を作れという上層部からの無茶振りに開発部がヤケクソになって作り上げた次世代の『アヴァロン』の旗印ともなるハイエンドモデル……勿論言うまでもなく普通の人間には動かせません。Gで身体が堪えきれず、死ぬので――しかしあなたは見たところ平気そうですね」
「これでも大分キツイんだが」
キャスパリーグの指摘にアルトは肩を竦めた。
「もしかして……?」
「ああ。俺の身体は筋肉から内蔵、神経、骨格に至るまで殆ど義体化している。つまり『サイボーグ』というやつだ。お陰で物理攻撃に強い反面メンテナンス用のナノマシン錠剤を定期的に摂取しないと中身がイカレて死ぬ身体になったがな」
「それは災難でしたね」
「『マシンドール』に憐れんでもらうのは初めての経験だ」
『カリバーン』は隊長機にターゲットを切り替え、一気に相手との距離を縮める。
『く、クソ! 早く私を援護しろお前たち! 集中砲火を浴びせろ!』
隊長機の命令に従い、残っている三機の『クルセイダー』が慌てて援護に駆けつけ、『カリバーン』に射撃を行う。
「流石に敵が多いな。このまま戦闘が長引くと増援も来かねない」
下から飛来する弾を空中で回避するアルトだが、トリガーを引いても特に反応が無いことに今になって気付いた。
「おい、コイツに何か武器は無いのか」
「バックパックのアームに懸架された二枚のシールドバインダーにビーム砲を内蔵しています。更にアームから取り外し、上部の柄を展開することで大剣としても使用できます」
「これか……!」
アルトがアームレイカーを捻り、火器切り替えのタブを表示するとそこにビーム砲のアイコンと大剣のアイコンが並んでいるのが確認出来た。ビーム砲のアイコンを選択するとアームに懸架されたシールドバインダーが展開し、内蔵された銃口が顕になる。そしてトリガーが引かれると銃口からスパークとともに高出力のビームが放たれ、『クルセイダー』の一機の両足を吹き飛ばし、続けて近くに立っていたもう一機の右腕を消し飛ばした。
「取り回しは悪いが連射速度は早いし出力を自由に変更できて便利だな」
『シールドを貫通する威力だと……!? それにあの連射速度、どうなっている!?』
『わ、わかりません! うわっ!』
『くそっ……! ヤツはバケモノか!』
みるみるうちに劣勢になった『クルセイダー』たちにはまるで『カリバーン』が悪魔のように見えることだろう。
「残り二機です」
「これで終わりだ!」
『カリバーン』は右側のバインダーに手を伸ばし、展開されたグリップを握った。そして手にした大剣を軽く振り上げ、そのままバーニアを最大出力で吹かして残った『クルセイダー』に肉薄する。
『く、来るなぁあああああああああああ!!』
『クルセイダー』がマシンガンを乱射するがあっけなくその弾は『カリバーン』の装甲に弾かれ、そのまま縦に振り下ろされた大剣によって上半身と下半身はフレームごと切り離されてしまった。これで残ったのは隊長機だけだ。
『くっ……! て、撤退する!』
しかし隊長機は『カリバーン』と目が合った瞬間に背中を向け、一目散に戦場から飛び去っていってしまった。腕前はそんなに高くなかったが逃げ足は早い。
「アルト様、リーダー機が撤退していきますが追いますか?」
「いや、やめておこう。深追いは危険だ」
『カリバーン』は手にした大剣をアームに戻し、ぐるりと周囲を見渡す。敵部隊は一応これで全滅で他に敵影は見当たらない。ひとまず勝利といったところだろう。
「『カリバーン』か。大昔のおとぎ話に出てくる王が持つ聖剣の名前だったか……いや、別の名前だったか?」
ぶつぶつと何か独り言を呟いているアルトにキャスパリーグは不思議そうに首を傾げる。
「乗り心地はいかがでしたでしょうか?」
「悪くはない。少々暴れ馬のようだが俺の操縦にもついていける『AF』は初めてだ」
人間離れした反応速度を持つアルトが『AF』を操縦すると彼の無茶な動きに耐えきれず、『AF』の方がダウンしてしまうことが何度かあったが、この機体であればその心配もなさそうだ。自分の能力の限界はどこまでなのか、それを知る上でもこの『カリバーン』はかなり気に入った。すると戦闘が終わったのを見計らって『ヘビィ・ベイビィ』と『ナイトブル』がやってきた。
『おつかれさまアルトー、めっちゃすごいねその『AF』! 後でよく見せてよね!』
ラチェットの顔はとてもワクワクしていて、今すぐにでもこの『AF』をいじりたい様子だ。
『しっかし『アヴァロン』に喧嘩を売ったってなると拠点がバレてるここには居られないよなぁ、どうするよ?』
「この『ウェストランド』から離れるしかないだろう。『ギルド』の本部がある商業都市『デイブレイクタウン』に向かう。自治都市で反『アヴァロン』側のあそこならヤツらも手出しはできない筈だ。補給もしたいしな。『カリス』とやらの処分はその後に考える」
『アタシも賛成! 買い物したいし!』
『『デイブレイクタウン』か、久々だなぁ。メシもうまいしカワイイ子も多いし』
「しかしどのような手段で移動するのですか。この『ウェストランド』からは大分遠いですが」
キャスパリーグの言う通りこの『フロンティア』はとても広大で、現在アルトたちが居る『ウェストランド』から『デイブレイクタウン』まではおよそ二万キロメートルは離れており、陸路だと早くても二、三日は掛かる計算になる。空路なら半日程度で済むが、『AF』を複数運ぶとなるとそれなりの大きさの航空機が必要になるだろう。
「ドックの地下格納庫に航空艦『ドラグーン』がある。旧式だが多数の『AF』を運べるパワフルなやつだ」
『じゃあ早速積み込み作業しないとだな。忙しくなるぜ〜』
ロックはうきうきと鼻歌を歌いながら仕事に向かう。
『あ、『クルセイダー』のこと忘れてたわ。『トランサー』は適当にそこらへんにポイしとくとして機体はパーツ取りと解析と売却に色んなことに使えるしめっちゃテンション上がるわ~これでアタシの『ヘビィ・ベビィ』も改修できるし』
そうしてラチェットは『ヘビィ・ベイビィ』に再度乗り込み、ホバーでゆっくりとあちこちに転がっている『クルセイダー』を回収しようと近づくが、
「……へ?」
直後、一斉に『クルセイダー』が爆発した。
咄嗟に『ヘビィ・ベイビィ』は手足のシールドで機体をガードし、ダメージを防ぐ。
『な、なんなのいきなり!?』
『大丈夫かよラチェット!?』
慌ててロックの『ナイトブル』が駆け寄る。
『あ、アタシは全然……でも……』
「自爆、か……」
『クルセイダー』は木っ端微塵に吹き飛んでおり、あちこちに手足の残骸などが転がっていた。爆心部の胴体部は特に損傷が激しく、中を覗き込まなくとも『トランサー』がどうなったかなど想像はできた。
「任務に失敗した兵士は処刑する。それが『アヴァロン』です」
キャスパリーグの声音はとても冷たい。
「やはりとことん腐っているなヤツらは……反吐が出る」
アルトの操縦桿を握る力は自然と強くなる。
彼らを許すことができない理由がまたひとつ増えた。
***
『フロンティア』最北部に建造された上級市民が多く住む都市『ログレス』。その中央に屹立する白亜の巨城が『アヴァロン』の拠点『キャメロット』だった。
そんな『キャメロット』の頂に聳える部屋ではひとりの男が全身から冷や汗を流しながら頭を垂れていた。
彼の前には金の装飾が施された豪奢な玉座があり、そこには漆黒のローブと王冠のような意匠が施された仮面で顔を隠した大男が坐している。
ウェイガン・オークニー。『アヴァロン』の指導者たる人物だ。
「……なるほど、部隊は全滅。多数の『クルセイダー』を失ったにも関わらず貴公は敵にみすみす『キャスパリーグ』と『カリバーン』を奪われ、その上破壊もできずノコノコと帰ってきたと……そういうことだなブルノール大尉?」
機械的な、無機質な音声が仮面から発せられ、頭を垂れている男……ブルノールの肩がびくりと震えた。彼は今目の前の男に命を握られている。少しでも選択肢を間違えたら即座にこの命は奪われることを彼はよく知っていた。
「申し訳ございません……! しかし次こそは必ずやあの機体を……!」
額を床に擦り付けて許しを乞う。
部下の前でとても屈辱的な行為だが自分の命のためならプライドなどチリに等しい。
しかし彼の期待はあっさりと裏切られた。
「『アヴァロン』には貴様のような無能は必要ない。やれ」
「はっ!」
命令に従い、そばに控えていた部下の男が懐から拳銃を抜き、ブルノールに突き付ける。
銃を向けられ、血相を変えたブルノールはその場を立ち上がり、男に縋ろうとした。
「お待ち下さいウェイガン様! お許しを……!」
しかしその手が男に届くよりも早く引き金が引かれ、ブルノールは断末魔もなくその場を倒れた。
高級な絨毯に赤いシミが広がるが、ウェイガンは適当に死体を一瞥すると椅子から立ち上がる。
「ふん、死体は適当に処分しておけ」
するとどこからか黒服の男たちが複数現れ、手際よく死体と汚れた絨毯を回収し、新しい絨毯を敷く。そしてウェイガンはあるふたりの人物を部屋に呼び出した。
「失礼します、ウェイガン大帝。『ナイツオブラウンド』ランスロード・ヴァンウィッグであります」
「同じく『ナイツオブラウンド』トリス・ゾルデであります。どういったお話でしょうか」
部屋に入ってきたのは若い金髪の青年と黒髪のボブカットの女性だった。
男の方は『アヴァロン』の白い制服に身を包み、とても整った顔立ちをしているが、その顔の左半分は怪我でも隠しているのか別の理由があるのか白い仮面に隠されている。
もう一方の女の方は『アヴァロン』の紫色の制服を纏い、雪のような白い肌を黒い手袋とタイツで覆い、氷のように冷たく鋭い視線を主に向けている。
「ランスロード少佐ならびにトリス大尉、貴公らの力が必要になった。賊の手に渡った『カリバーン』を破壊してもらいたい。できるかね?」
「は、必ずやかの聖剣は私の手で折りましょう。この『アロンダイト』の力で」
「ランスロード様のお手を煩わせずとも私めの『フェイルノート』の槍で倒してみせましょう」
ランスロード・ヴァンウィッグとトリス・ゾルダはその場で跪き、ウェイガンに頭を垂れる。そして彼の背後に備え付けられた大型ディスプレイに『キャメロット』の格納庫に収容された純白の聖騎士を思わせる『AF』……『アロンダイト』と白と紫色の装甲を纏う『フェイルノート』が映し出される。
「ふむ。心強いことだ。しかし『アヴァロン』最強の騎士と『アヴァロン』最優の騎士であっても『カリバーン』は脅威。念には念を入れて随伴機をつけたいがよいな?」
「勿論私は構いません。しかし私の駆る『アロンダイト』についていける『AF』と『トランサー』など……」
「心配は不要だ。「コレ」は自信作でな、貴公の激しい戦いにもついていけるように調整されている。入れ」
すると執務室の奥の扉からひとりの少女が姿を現し、ゆっくりとした足取りでランスロードの前にやってきて背の高い彼を見上げる。
フードつきの黒い上着をまとっているが、その下に着用している服は布地がほとんどなく、病的なほど白い肌が大きくさらけ出されており、ボザボサの長い髪と頭部に取り付けられた二本の角を思わせるデバイス、赤い目がとても目を引く。
「とても幼いですが彼女は……?」
怪訝そうな目を少女に向けながらトリスはウェイガンに尋ねる。
「コードネーム『モルガン』……人工的に作られた『トランサー』だ。そしてあれが彼女の駆る最凶の『AF』……『ヴァルプルギス』だ」
ディスプレイの映像が切り替わり、とある『AF』の姿を映し出す。
暗くて機体の姿はよく見えないが、そのシルエットは既存の『AF』の外観から大きく逸脱した歪なもので、『アロンダイト』や『フェイルノート』とは反対にとても禍々しい印象を受ける。
「……ねぇ」
するとランスロードとトリスの前に立つモルガンという少女はおもむろに口を開いた。
「つぎはだれを殺せばいいの?」