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第1章「勇者の目覚め」1

「「いやぁ今回もかなり儲けたわ〜だいぶウチの借金も返済できそう!」


 ギルドからの依頼の報酬と回収した『AF(アームドフレーム)』を売ることによって得られるであろうお金を合わせると相当な金額になり、預金残高を確認したラチェットはうきゃきゃきゃきゃとワルそうな笑い声をあげた。

 『ブラック・バレット』の三人は『AF(アームドフレーム)』を多数収容できる大型トレーラーに乗って拠点への帰路に着いていた。運転手のロックは鼻歌を歌いながら上機嫌にハンドルを握り、アルトは防弾仕様の窓から外の風景をぼんやりと眺めて黄昏れている。目を瞑る度に思い出すのは幼き日の自分と一緒に遊ぶ親友、とある女性の笑顔、そして故郷を焼く炎と逃げ惑う人々を蹂躙する何体もの『AF(アームドフレーム)』……。


「……ん?」


 するとアルトはふと夕焼け空を何か光るものが高速で横切っていくのが見えた。流れ星だろうか、と思ったが目を凝らすとその落下物はロケットで逆噴射しているようで減衰しているのがわかった。

 人工物だ。それもかなり大きい。


「おいおいアレ俺らの拠点の方に落下してくぞ?」


「なになにー? 届け物ー?」


 ラチェットが身を乗り出して落下物を確認するが、その直後に辺り一帯に響き渡るほどの轟音と鈍い衝撃とともに地面が大きく抉れ、ちょっとしたクレーターが生じた。


「……プレゼントではなさそうだ」


 拠点に備え付けられている『AF(アームドフレーム)』専用のガレージの前に出来たクレーターの中心で鎮座しているのは純白の巨大な箱だった。直径は一五メートルほどで高さは三メートルくらい。タンカーで運ぶような大型の貨物コンテナに近いだろうか。宇宙にでも飛ばすつもりなのか各部にはバーニアもある。しかし所有している組織なり個人を特定できるようなものは一切見当たらない。


「まさかどっかのバカがうちに爆弾デリバリーしたとかじゃねぇよなぁ?」


 トレーラーを止め、外に降りたロックがこめかみのあたりを触り右目を大きく開ける。すると彼の瞳孔が猫の瞳のごとくキュッと細くなり、中心部から赤い可視光線が照射された。


「んー? 中身は『AF(アームドフレーム)』か? リアクターは停止してるし取り敢えず大丈夫そうだな」


 ロックの右目は義眼になっており、様々な機能を搭載しているが今彼が行ったのはそういった機能のひとつだ。この義眼のおかげで彼は高度な射撃能力を手に入れた。また右眼と同様に両腕も義手になっており、彼は片腕で対物ライフルを軽々と扱うことができる。


「『AF(アームドフレーム)』!? どんなのどんなの!?」


「そこまではわかんねぇよ」


 筋金入りのメカニックらしく眼を輝かせて中身を詳しく聞くラチェットも同様であり、ホットパンツから覗く足はどちらも義足だ。しかし二人とも望んでこうなったのではなく、昔巻き込まれた事故によってこうならざるを得なかった。それが自分との違いだろうか、とアルトはぼんやり考えつつ落下物に近づいていく。


「開けるぞ」


「「……」」


 遠巻きで物陰に隠れながら様子を伺っているふたりを無視しつつアルトは「白い箱」の壁面に配置されていたパネルに触れる。流石にロックは掛かっているだろうし自分の持つ「能力」でハッキングして開けるつもりだったのだが意外にも特にそういった類のものは設定されておらず、適当にボタンを押すだけで蓋は開かれた。


「……なんだこの『AF(アームドフレーム)』は?」


 いつもクールなアルトも思わず怪訝な表情を浮かべる。

 「白い箱」の中に入っていたのは仰向けに寝かされた『AF(アームドフレーム)』だが、それは既存の『AF(アームドフレーム)』とは明らかに逸脱した外観をしていた。白と黒を基調としたカラーリングを施された流線的なデザインの装甲には細かく溝が走っており、装甲の継ぎ目からわずかに覗くフレームも既存のものとは異なる見た目をしている。肘や膝に配置されたコンデンサは大型で、何より目を引くのは背中から伸びるアームに懸架された二対のシールドバインダーだ。先端は鋭利で大剣のようにも見える。


「なんだコレ、新型か? わかるかラチェット?」


「うわうわうわー! なにこれすごい!まさに神秘!さっさとバラして解析したい!」


「ダメだこいつ」


 相方のラチェットが我を忘れて興奮している様子を見てロックは少し引く。一方アルトはそんな彼女をスルーしつつ箱の中を歩き回って色んな角度から謎の『AF(アームドフレーム)』を眺めるが、やはりこの機体がどこから来たのかわかるような手がかりは見つからない。


「あっちょっと! 何するつもりよ!」


「コックピットの中を調べる。そこなら何か手がかりも見つかるだろう」


 ラチェットの制止を無視してアルトは機体の装甲を軽々と駆け上がり、胸部のコックピットハッチへと近づく。やはりこちらも箱と同様に特にロックは施されていない。しかしハッチを軽く叩いてみたところシートに誰かが座っているらしいことはわかった。しかし呼吸音や身動きの気配は全く無い。


「どうしたの?」


 コックピットに辿り着いたラチェットとロックがアルトの後ろから様子を伺いに来る。


「……中に誰か居るようだが少なくとも生きた人間ではないようだ」


「はぁ? 死体でも詰まってるってことか?」


「わからん。取り敢えず開けるぞ」


 アルトは躊躇いなくボタンを押した。するとハッチが上に持ち上がるように開き、コックピットの中の様子が顕になる。


「女……いや、『マシンドール』か」


 シートに座っていたのは少女型の『マシンドール』だった。レオタードのような露出度の高い機械的なデザインの衣装を纏い、薄紅色のロングヘアとネコミミのような通信用らしきデバイスが目を引く。しかしその『マシンドール』はスリープ状態のようで瞼を閉じて微動だにしない。こうして見るとまるで眠っているようだ。


(しかしこの『マシンドール』……何か懐かしい面影を感じる……)


 アルトは自身の胸に去来する一抹の寂しさに困惑を覚えた。多分気のせいだろうと思うが何故かその『マシンドール』の少女を知っている気がする。


「うわーすごいカワイイ……そういう趣味のお金持ちが持ってるような最上級クラスじゃないこれ?」


「安いやつだといかにも作り物って感じだけどこの子は中々じゃねぇの?」


 ラチェットとロックは興味深げに『マシンドール』の少女を興味深げに見つめ、髪を撫でたり人指し指で肌を突いたりしている。ラチェットに至っては柔らかそうな胸に手を伸ばそうとまでしているが、アルトとロックの冷たい視線で我に返って引っ込めていた。


「……ねぇ、この『マシンドール』さ、ウチの子にしない?」


「おいそんなの拾ったら絶対ロクなことにならんぞ。見るからにワケありだ、捨てておけ」


 ラチェットの提案をアルトは即座に却下する。


「はぁ!? 何言ってんだよ悪魔かお前は! こんなにカワイイのに放っといたらかわいそうだろ!」


「そーだそーだ! っていうかオーナーのタグも見当たらないしジャンク屋組合の協定的には所有者不明の拾得物はこっちのものになるし! それにウチは万年人手不足だし、こういう『マシンドール』が一体でも居ると大助かりだよ?」


「だからと言ってな……」


 ふたりの圧に流石のアルトも押され気味になってしまう。頭の硬いアルトは大体いつもこの能天気なふたりに振り回されっ放しだが、今回も自分の意見は聞き入れられそうにない。一体どうしたものかと眉間を揉むが、


「じゃあシャワー浴びるついでにこの子洗ってくるね~戦闘で汗かいちゃった~」


「……おい!」


 するとラチェットは謎の『マシンドール』を小脇に抱えてルンルンと上機嫌に拠点に入り、そのまま浴室に向かう。言うまでもなく『マシンドール』は機械である以上人間と同等かそれ以上に重いはずだが彼女は余裕綽々だ。何世紀にも渡って機械技師をしている彼女の血筋は力自慢が多く、彼女も細身でありながらその遺伝子を受け継いでいるようだった。


 アルトたちも拠点に戻ると奥の脱衣場からは早速衣摺れの音とともに「この服どんな構造してんの? あ、脱げた」「うわっインナーほんとエッチ……!」「肌綺麗……何かに目覚めそう……」といったラチェットの独り言が聞こえてきてどんな顔をすればいいのかわからない。


「まったく……明らかに罠だろう。タダで新型の『AF(アームドフレーム)』と『マシンドール』が転がり込んで来るものか」


 ソファに座るアルトは呆れたようにため息をつく。一応彼はまだ二〇手前の若さなのだが苦労人気質でいつも眉間にシワがよっているせいかそれ以上に他人から老けているように見られる。


「まぁそうカッカすんなって。いいじゃねぇかここも賑やかになるぜ? それにお前の童貞も捨てられるかもしれないぞ?」


「殴るぞ」


「あれ、もしかして竿……」


 アルトは無言でロックの顔面に拳を叩き込んだ。


「やかましい……そこは一応無事だ」


「痛ァッ!? っていうか本気で殴んなよ! しかもグーパンど真ん中ストレート!」


 キレるロックを無視しつつアルトはコーヒーサーバーから熱々のブラックをマグカップに注ぐ。こういう時はカフェインを摂取して頭を冴え渡らせる必要がある。


「うええええええ!?」


 すると変な絶叫とともに脱衣場からバスタオル一枚だけのラチェットが例の『マシンドール』を抱えて飛び出してきた。


「ばっ馬鹿お前服着ろ服!」


 ラチェットの艶姿にロックは動揺し、アルトも気まずそうに目を逸らす。彼女は唯一の女子だというのにいまいち異性の視線を気にしていない節があり、それがいつも彼らを悩ませていた。


「一体どうした……」


「この子……ナカまで作り込んである……」


 ぶっ!? とアルトはコーヒーを盛大に噴き出し、ロックも「はぁ!?」と驚きの声を漏らした。


「えっやっぱそういうことに使われる『マシンドール』なのかよ? っていうかお前マジでチェックしたのか……? 流石に引くぜ……」


「いやいやいや勘違いしないでよ! アタシはあくまでメカニックとしてボディの構造に技術的な興味が……!」


 顔を赤くして必死に否定するラチェットだがロックの疑惑の目は逸らせない。アルトは騒がしいふたりに呆れ果てたように眉間を揉むが、その時ふとラチェットが運んできた筈の『マシンドール』の少女が居ないことに気付いた。


「おい、あの『マシンドール』はどこだ」


 アルトの指摘にロックとラチェットも彼女の姿が無いことに気付く。


「は? いやそこに――って、居ないぞ?」


「もしかして電源入って勝手に動き出したとか? いやでもマスター未登録の『マシンドール』が自律行動するなんて……」


「――もしや、(わたくし)のことを探していらっしゃるのですか?」


 『マシンドール』の姿を探すアルトたちだが、部屋の奥から鈴を転がしたような声があり、三人は一斉にそちらを向く。するとそこには例の『マシンドール』の少女が不思議そうに首を傾げながらアルトたちをじっと見ていた。


「……一体皆様何を騒いでいらっしゃるのですか?」


 それと同時に身につけていたバスタオルがずり落ちる。

 その下は全裸だった。

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