94.スニーキングミッション
僕らは怪しい気配に気づいて寝たふりをした。けれどムーンはバレると言って【催眠呪文】を掛けられて寝てしまった。
気がつくと暗い牢屋の様な場所だった。鎖に繋がれていて自由に身動きは取れなかった。コマンドさん!?ヘルプ!状況を説明して!
【ふむ、端的に言えば複数の人間に近い姿のドラゴンがお前を連れ去ってここに放り込んだ。どのドラゴンも隠密行動に長けていた。】
(入ったのはやっぱり昼間に見に行ったラドンってヤツの屋敷の地下だ。かなり厳重だったから正面から抜けるのは無理だね。)
とにかくここから脱出しよう。
…いや、ここで逃げたらここで何が起こってるのか分からないままになる。どうなってるのか知るためにもこのままで待っておこう。
(死ぬかもしれないんだよ?それでも良いのかい?)
「そんなの覚悟の上だ。じゃなきゃダテに勇者名乗ってないし。それに捕まったら死ぬかもしれないからどうせなら逃げた方がマシだ。」
(よし、なら生きて出るよ。腹くくってやりな、でないと死ぬよ。)
ーー
トライアルクエスト『光には闇がつきもの』を受けた!
ーー
僕は鎖と鍵を真空刃で斬った。静かに外すならこれが最適だ。多少風が動くけど背に腹はかえられない。
僕はすぐに檻から出てその場に影を残した。異変に気づいた看守のドラゴンがすぐに来て静かにムーンが黙らせた。
あまりにも鮮やかで思わず見惚れてしまった。流石はドラゴンの暗殺者だと改めて感じた。
(ドラゴンの気配は多い。気をつけて進め。相棒、まずは近接格闘のやり方は教えた通りだ。体制を崩して叩け。)
【マップは常時更新しよう。範囲は狭いが曲がり角の先がどうなっているかは分かるハズだ。潜入用の装備も用意した。左の赤いクリスタを砕け。】
試しに砕いたが弾けて何も起こらず戻ってしまった。
(……使えない装備は後回しにしておけ。)
【うむぅ……有り合わせの素材では上手く作動しないな……】
少しがっかりしながら前に着た外套を着た。
屋敷の地下という事もあって掃除もされていた。それにしても暗いから隠れるには最適だな。
迷いながらも出口の扉にたどり着いたけど扉にカギがかかっていて開かなかった。鍵穴もあるから開けられるんだろうけどカギが無い……
【ふむ、カギを開けるくらいなら造作もない。開けるための道具があれば簡単に開くだろう。】
(あんたの記憶で言うピッキングってヤツだ。)
僕は早速鍵開けを試みた。
1時間後、扉は開いた。キッツ……
(もっと早く開けろよ…まあ慣れてないなら仕方ないか。もっと練習しろよ。)
ーー
イロアスは【鍵開けの技巧Lv.1】を覚えた!
ーー
【鍵開けの技巧は繰り返せば開けられるカギが増えて解錠までの時間も早くなる。1度開けた事のあるカギは我が記録してすぐに開けられるようにしよう。もっとも、カギを入手すればこのスキルも必要ないと思うが。】
手こずったけど見つからずに済んだ。早く先に進もう。
長い階段を登ると屋敷の廊下にある暖炉に出た。隠し扉の奥に居たのか。何で隠さなきゃいけないんだろう?隠す理由があるのかな?
(いちいち考えるな。真実はここにあるんだからよ。それにあんたの【真実の羅針盤】があれば捜し物も見つかるだろ。)
「ああ、すっかり忘れてた……【真実の羅針盤】冒険者が消えた原因を指してくれ!……うーん、これは参ったな……反応がいくつもある。」
(地道にやるしかないね。今は少しでも手がかりを掴まないと。)
探索しようと廊下を歩いていると何かの気配が近づいてきた。あわてて隠れようとしたが隠れる物が無かった。
どうしよう、このままだと見つかる……一かバチかやってみよう。
………………
しばらくすると気配は少し足を止めたが気にせず通り抜けた。
【なるほど、【投影】で全身を覆う影をイメージしたのか。かなり高度な技だが……お前はイメージする力が強いのだな。】
「体積とか面積とかも考えたから結構苦労したよ。それよりも……」
(羅針盤に何か反応があったのかい?)
「うん、あのドラゴンに。」
(なら聞き出せ、尋問のやり方は教えたよ。実践は初めてだったか。まあやるだけやってみろ、できなかったらカバーしてやる。)
「えええ!!?そんないきなり!」
「誰だ!!」
マズい、気づかれた!
「せめて……ムーンも手伝って!」
(おいっ!マジかよ!!)
僕はカバーすると言って実体を出していたムーンをドラゴンに向かって投げつけた!
ムーンはすぐに敵を拘束した。さすがムーン、柔軟な対応だ。
(てめぇ、いきなり投げるなよ!)
「結果オーライじゃん〜。」
(はあ……まあいい。騒ぐなよ今の立場はわかってるはずだ。)
「ぐっ!力が強い……」
暴れようとするドラゴンだけどムーンは全く微動だにしない。流石ムーンというか……
「知っている事を吐け。何で僕達を連れ去った?消えた冒険者はどこに居る?」
「知らない!俺はただご主人に仕えているだけだ!」
(ならあんたの過去を教えろ。あんたはどこの出身だい?)
「……分からない!でもご主人はそんな俺を暖かく迎えてくれたんだ!」
(そうか、大体分かった。)
ムーンは【催眠呪文】でドラゴンを眠らせた。
「ムーン!?何で……」
(全部繋がったんだ。こいつらの事も冒険者の事も兵士の事もこのドラゴンの事も。牢屋に戻るよそこで全部話す。)
「……分かった。」
僕は険しい顔をしているムーンと牢屋に戻った。