92.街の人々
コマンドからの報告でアクアが森に迷ったままだからちょっと心配だ。
「アクア、大丈夫かなぁ……」
(確かに心配だけどな、あたいはあんたが落ちそうな事が心配だね。)
ムーンがそう言った直後に突風に煽られた。
「うわわっ!」
(風の読み方は前に教えたよ?あんたは自身の事を疎かにするな。)
自分を疎かにか…でも勇者として戦わないといけないから多少は無茶しないと。
(…あのな相棒、あんたの世界の勇者がどんなのだったかはあたいは知らねえけどここじゃあんたも世界の一部だ。心配しなくても全部をあんたに押し付けたりしねえよ。みんな、あんたを信じて背中を預けてくれる。だからあんたも信じろ。)
「うん、ありがとう。たまにはこうきうのも良いよね。なんかドライブみたいで楽しいし!」
(ドライブ?)
【単純に言えば乗り物に乗って遠出すること。ここでは旅、冒険と言った表現が正しいだろう。】
「相変わらずの辛口コメントありがとう……」
ドラゴンって娯楽目的で空を飛んだりしないのかな?自分にはそんなイメージは無いけど…移動する時間だって大切だから楽しめるようにしたいなあ…
【お前たち、目的地が見えたぞ。あれが火山町キラウエアだ。】
街の後ろには黒煙が立ち上るドラフ火山があった。
「穏便に話がしたいなあ……」
(現実はそう上手くいかないよ。最悪の場合は溶岩に呑まれておしまいだね。)
「想定が最悪過ぎるよ……」
(まあな。あと、あの町は温泉があるらしい。あたいは直に入ったこと無いけど興味がある。属性竜に会った後で……)
「今行こう!すぐ行こう!急ごう!」
(行きたくないを隠す気ないだろ……)
僕はすぐに街の近くに降りて擬人化してから町に向かった。町の入口には検問があって人が何人か並んでいた。人に近い種族とモンスターに近い種族で入口が別れていた。安全のためなら仕方ないかな、でも……
(明らかに検問が厳しすぎる。あいつは角が危ないから切り落とせって…あいつは背が高すぎるからダメだってよ。)
「何それ理不尽過ぎる……」
(取りあえず並んどけ。門番がどんな野郎か調べてやる。)
しばらく並んでるとモンスターたちが どんどん入って行った。ムーンの仕業だな。
自分の番が回ってくるとそこにムーンの姿は無かった。でも門番の気配はあつも感じているものだった。
「検問はない。さっさと通れ。」
「もしかしてムーン?」
門番はしばらく黙って僕を見ると中からムーンが出てきた。
(よく分かったな。)
「なんで入ってるの?」
(そりゃーこいつのアタマを覗くためだ。入ってから話をしようか。)
僕らは気絶した門番を他所に町に入った。
町は人間と獣人でいっぱいだった。とても活気に溢れている。僕は一通り町を回っている間に門番の考えていた事をムーンから聞いた。
(まず、門番はあの仕事が嫌いみたいだ。難癖付けられてケガをした門番が後を絶たないらしい。それにあいつは魔物とモンスターの区別も出来てない。今の人間はそういうヤツが多いねぇ?)
「まあ、僕らの考えを無理に理解してもらう必要も無いよ。たった1人でも理解してくれる人がいるんだから。」
時々気に入った出店で食べ物を買って食べたりした。買い食いは良くないって?その分ムーンに絞られるから変わらないよ。
面白い食べ物が沢山あるなあ!どれも気になって仕方ないな!
(話はちゃんと聞けよ?酒場のオーナーは獣人もモンスターも魔物も毛嫌いしている人間史上主義なヤツらしい。ここの酒場に世話になるのはやめた方がいいね。)
【ではこの町での活動はフリーになるな。】
「フリー?」
【言わば酒場を通さない冒険者だ。基本的にご近所助けが中心になる。】
「ご近所助けか……まあヒーローの最初はご近所助けだし、頑張ってみるか。」
【活動は夜になる。まずは夜に向けて情報収集だな。】
よし夜までか。昼に情報収集して夕方に仮眠も取れるな。早速行動開始だ!
僕は人通りの多い場所を中心に聞き込み。ムーンは人の少ない裏通りを中心に治安の調査をしてもらった。コマンドは情報のまとめ役、待機中は武器を作ってもらうことにした。
夕方になって粗方情報が集まったのでいちど宿屋に集まることにした。
「じゃあ情報交換を始めよう。まず始めに気になったのはこの町に危険なヤツが少ないってこと。」
(そんな事はないだろ?ただ治安が良いってことだろうし。)
「それを差し引いても少なすぎるんだ。」
(ならあたいも変な噂を聞いた。何でもある屋敷に呼ばれた人間が誰一人と帰って来ないと。それも冒険者ばかり。ただの子ども騙しの話だと思ってたけど……案外そうでもないらしい。)
一気に現実味が増した。早く調べないとこの町が危ないかもしれない。
(まあ落ち着け。焦っても答えは出ねえよ。裏じゃこの町を牛耳る騎士団があるらしい。名前は『月の影』。団員はドラゴンのみで構成されているらしい。でもそれがおかしいんだ。)
「どんな?」
(この町はそれほど大きな商会がないんだ。ドラゴンは高値で取引されていて手に入って1か2匹くらい。確実に裏がある。)
「とりあえずはご近所助けだね。早速行こうか。」
僕らはこの町を調べる事を決心して夜の町を飛び回った。