81.動き始める冒険の歯車
僕はシーデラスに少し付き合ってほしいと言われてしばらく僕の鱗を叩く所を見ていた。
【…あのようなウソを言って良かったのか?】
「さあね。本当に正しいことなんてないんだし今は協力者として…未来で仲間としてね…」
【協力者か…】
「すぐにでも仲間になれるとは思わないさ。それに武器防具を作れたり売ってくれたりする腕利きの鍛冶士だって僕らの旅には必要だ。」
【一利あるが、我々にはドラゴンの力がある。武器防具に頼らずとも強いと思うが…】
「確かに必ずしも必要とは限らないけどあって損はない。きっと大丈夫。」
利用されるリスクもある。でもそれを逆に利用することもできる。勝算のない賭けだけど…正体を知られた以上何をされるか分からない。今はおとなしくしよう。
ムーンになんて言い訳しようか考えているとシーデラスは汗でびしょびしょの顔を拭きながら鎚を置いて僕の隣に座った。
「一つ聞きたいんだが良いか?」
「うん、何?」
「どうして俺が良いと思ったんだ。清廉潔白な鍛冶屋ならもっと他にあっただろ?」
他にも良さげな鍛冶屋はあったけど…
「…強いて言うなら腕かな?」
「へえ、俺の腕を見込んだってか。」
「あとは…自分を曲げずに自分を貫ける人が良かったんだ。シーデラスさんがどうしてこの町を守ったドラゴンに興味があるの?」
「さあな。俺にも分からんがあの赤いドラゴンと姿がぼんやりしたドラゴンに目を惹かれたんだ。終族に一歩も怖じけず立ち向かう様を。」
【真実の目】で何度も確認しているが彼からは全く怪しい気配はしなかった。
「…取引しようか。」
「?」
「僕はそのドラゴンと一緒に冒険してるんだ。怖がられるだろうから町の外に居させてるけど、彼のことを教えてもいいよ。けど代わりに君の武器を売ってくれないかな?君の特別コースで。」
特別コースっていうのは町で見かけた彼の名前が彫られた剣のことだ。斬ると炎で追撃する凄まじい剣だ…ちょっと年季が入ってたけど。きっとシーデラスにはその剣を打てるほどの腕がある。数はなかなか見なかったがオーダーメイドで造ったものが他の人に渡ったんだろう。
「…いいぜ。ちょうど客もいなくなって退屈してた所だ。よろしく頼む。」
「僕は戦士のイロアス。以後、お見知りおきを。」
警戒の色が消えた…信じてくれたみたいだ。
【取引成立だな。】
「あと予算の話だけど…」
「素材はあるから技術料込みのフルセットで1万トールでどうだ?」
「安い…そんなに安くていいの?」
「初回だしな、赤字にゃならねえから気にするな。」
太っ腹だなあ…
お金を支払って明日の日が登り始めた頃に取りに来て欲しいと言われたので僕らは一度宿に戻った。
部屋にはすでにムーンが待っていて遅れた事情と取引をしたことを話した。
(そんな条件で良いとか、そいつもお人好しだね。まあ人間のときに戦うことになったらドラゴンの力以上の能力を持った武器も必要になる。身体も小せえし、身を守るためってことだしな。しっかり作ってもらえよ。)
「そんなあっさりと…僕はブッ飛ばされる思ってた。」
(条件なしで教えたってんならブッ飛ばしたけど、詳しくも教えてないし、あんたが困るだけだからな。)
「やっぱりあっさりしてる…」
(こっちにまで被害が来るならぶっ殺す。)
相変わらずブレないね…
(どれほどの腕か…お手並み拝見ってとこかな?明日の早朝なんだろ?早めに寝とけよ。)
「うん、おやすみ。」
翌日…
僕ら荷物を整えて夜が明ける前にシーデラスの鍛冶屋に向かった。
道中で金属を叩く音が響いているのが聞こえたのでシーデラスだと僕は確信した。
鍛冶屋の扉を叩いたが誰も出てこなかったので夜明けまで待つことにした。
太陽がチラッと見えて辺りが薄明るくなった頃に鍛冶屋の扉が開いた。
「待たせたな。会心の出来だぜ!」
そこには深紅の鎧があった。
「マジか!?スッゴいよシーデラス!カッコいい…」
(一晩で仕上げたとは思えねえ…あんたどんなヤツと取引したんだよ。)
【性能も悪くない。シーデラスの腕は我々の想像の遥か上だった様だ。】
「おう!あの鱗を加工するには苦労したぜ?魔法で溶かして固まるかも分からなかったが…」
えっ…それって
「全部カンで作ったってこと?」
「何せ触ったことがない素材だったからな。布に張り合わせて作ろうとも思ったが俺のプライドが許さなくてな…意地と根性の傑作よ!」
なんて強引な…でも取引して正解だった。
「もう出発だろ?さっさと行け!でも取引が終わっちゃいないことを忘れるなよ、イロアス。」
「もちろん!」
僕は【マイティアーマー】をそうびした。
ーー
【マイティアーマー】(防具)
世界でたった一品、勇者のために作られたマイティドラゴンの鱗から作られた鎧。
属性竜の力に反応し、色と形と性質が変わる。
ーー
属性竜の力に反応するして形や性質が変わるのか…
【これから身につける装備は【スペロクリスタ】に収納される。有事の際には自動で装備されるから安心しろ。】
鎧…いつも画像とかで見たりしてたけど実際に着てみるとその重圧を感じるな。それにドラゴンの自分になんとなく守られてるって感じがする。
僕らは町を登り始めた朝日を見ながら静かに出立した…