74.ムーンサイド
相棒と別れた後、あたいはそこら辺にいた人間の中に入っていた。
(ここまで来れば良いだろう…我慢してたけどやっぱり痛いね。慣れてたつもりだけどそう上手くはいかないか。少し息を整えて…)
少し魔力を借りて休憩するだけのつもりだったけど思ったより居心地が良くて寝てしまった。
ーー
「うーん…」
「どうしたんだ?アルーズ。」
「身体にちょっと違和感が…」
「おいおい、今日は多めにクエストを受けたんだぞ?明日にするか?」
「大丈夫です…多分。」
「ならいいけどさ…」
ーー
(んあ…しまった!休み過ぎた!あれからどれくらい経った?)
【6時間00分58秒だ。】
(コマンドいつの間に…)
【勇者が寝ていてな。新しい武器の説明も兼ねて起こしに来たという訳だ。】
マジかよやっちまった…早く戻らねえと。
あたいが外に出ると人間は驚いていた。
「わああああ!!!なんかでたああああああぁぁああ!!!ってムーンさん?」
(おっ、アルーズじゃねえか!どおりで感じたことがある魔力だと思った…)
「お願いします!あなたの力をお貸し下さい!」
(ん?何かあったのかい?)
アルーズの格好を見るとキズだらけで服の裾も破れてる。
何があったんだ?
「急に暴れ出したモンスターに拐われしまって…なんとか逃げたんですが仲間とはぐれてしまって…」
(大体分かった。ここの事はほぼ全て知ってる。大丈夫、あたいに任せな。)
相棒は不安なヤツには『大丈夫』って言えばなんか大丈夫っぽくなるらしいから言ってみたけど案外なんとかなるねえ。
【ふむ、実の所大丈夫ではないな。】
(どういうことだい?)
【それは…】
【モンスターが暴れ出した原因が不明ということだ。】
(マジかよ…)
コマンドが見せた地図には敵を示す赤い点が星の数ほどあった。
【原因究明のためには情報が必要だ。正常な状態の複数のモンスターから事情を聞くんだ。】
(ちっ面倒だな。)
「ムーンさん!敵が…」
敵の反応が1、2、3…6つか。
どれも強敵じゃないけど数が多いね。
守りながら戦うのか…性には合わないけどやってやろうじゃねえか!
(アルーズ、身体借りるぜ。【のりうつる】!)
「えっ、ムーンさ…」
(あんたを守るためだ、悪く思うなよ。コマンドも手伝え。)
【仕方ないな【データライザーver.1.2.5】を起動する。】
コマンドが何かを起動すると敵の位置、周囲の地形、狙っている位置が分かった。
これかなり有能だね。
【6時、12時の方角から1体ずつ接近中。背中と頭部を狙っている。】
あたいはギリギリでそいつらの攻撃を避けた。
やっぱり、ただ暴走してるだけだ。動きが戦い慣れてないって感じだね。
一匹はあらかじめ設置した【捕縛呪文】に引っかけて事情聴取用に。
もう一匹は峰打ちで気絶させた。
【敵4体接近!】
(ちいっ!)
行動後の隙を狙ってやがったのか!
(【エレメントマジック"風"】)
自分を中心に竜巻を起こして残りを吹き飛ばして捕まえたヤツを背負ってからその場を逃げた。
(ここなら良いだろう。でも長居はできないね。)
【手っ取り早く聞ける事を聞き出そう。】
アルーズから出て暴れるモンスターにのりうつるをしようと思ったが、強い敵意がこっちを狙っていた。
まずはそれをなんとかしねえと。
コマンド、新しい武器とやらがあるって言ってたよな?それをよこせ。
【相変わらず口が悪いな、だが良いだろう。これが【エレメンツシューター】。手首に着けて使用するガジェットだ。魔法を保持できる【チャージストーン】と呼ばれる石を…】
(長ったらしい説明は後でいいから使い方を教えろ。)
【…分かった。】
ちょっと遮ったくらいでふて腐れるなよ。
【天面のカバーを上にずらすと【チャージストーン】が見える。それに指を押し当てて呪文を唱えれば装填は完了だ。装填できる呪文は各種最低威力の呪文だ。敵を捕縛するなら【捕縛呪文】が有効だろう。】
とりあえず言われた通りに【捕縛呪文】を赤い石に押し込んだ。
2つあった内の一つの赤い石はあたいの呪文を全て吸い込んだ。
【一度に装填できる呪文は2つ、発射は1発ずつだ。】
(少なくねえか?)
【開発途中だからな。今回は小型、軽量、使いやすさを追及したためにその他の機能は除外、削除をした。】
(なるほどね試作だし、仕方ないだろうけど。まずは使ってみるか…どうやって使うんだい?)
【装着者の魔力の流れを感知して動くシステムになっている。緊急用に赤いボタンを押せば動くようにもなっている。】
緊急用って…マジでそのために作ったのか。
あたいのために?まさか…
数値的に見れば弱いかもしれないけど、あたいにはそれなりのスキルがあるからね?
心配してくれるのはありがたいけどね。
目標に向かって撃つと捕縛呪文の糸がシューターから飛び出て標的を捕らえた。
すぐにシューターに残った糸を引っ張ってそいつを引きずり下ろした。
【…その様に設計した覚えはないが、流石と言った所か…】
(今はこいつから聞き出すのが先だ。)