72.認知との戦い
認知のアクアとの戦いは持久戦になっていた。
けどこの先も戦いは長いかもしれない。
回復手段が少ない現状だし長期戦は避けたいな。
「そろそろ疲れてきたんじゃない?」
『そっちもね。貴重なMPを使って体力を回復してるじゃない。』
あれ?そう言えば…コマンド。
ーー
イロアス 勇者Lv.30
H202 91%
M125 79%
ーー
ホントだ。いつの間にか回復してる…
もしかして…コマンド、新しく覚えたスキルを教えて。
ーー
新しく覚えたとくぎ
【竜の闘気Ⅱ】
新しく覚えた特殊スキル
【負ける気はない】【挑み続ける者】
【果てなき探求心】【敗北を知る】
【深まる絆】
新しく覚えた特殊効果
【自動で回復呪文Ⅰ】【成長率+10%】
【瀕死時HP1で耐える率+5%】
【まれに絆れんけい】
ーー
いつの間にか沢山スキルを覚えていた。
回復してるのは【HP自動回復Ⅰ】の効果か。
『自分のことも把握できないなんてカッコ悪いじゃない?』
「ははは…だよね。覚えとくよ。」
僕はもう一度構えた。
前足に特訓のときと同じように力を集中させる。
すると爪の周りが青く光るモヤモヤに包まれて、鋭い鍵爪のような形になった。
これが【竜の闘気】の【闘気形成】か。今まで無意識だったから気がつかなかった。
『【魔陣呪文】【タス】【超氷結呪文】はいっ【超氷結魔陣呪文】。』
アクアは僕の足下に魔方陣を描いた。
一歩でも歩けば貫くってことか。
『このピンチ、どう切り抜ける?』
「こんなの、ピンチでもないさ。逆に燃えてくる!」
僕は地面を強く蹴って飛び上がった。
『無茶を…』
「足掻いてやる!」
全身に力を込めて地面から飛び出す氷の刃から必死に身を守った。
『もうあきらめたら?』
僕は必死にこらえた。
『…諦めて。』
僕は必死にこらえた。
『…どうして諦めないの?勇者様はいつもそう!私よりずっと早く歩いて行って私は置いてけぼり!そのクセに私が頑張ってたら『大丈夫?』だったら初めから置いていかないでよ…』
そうか、やっぱりそう思いたく無かったけど…自分も薄々気づいてたんだ。アクアの焦りに。
『もう諦めて…』
「そんなこと言われたら諦めるにも諦め切れない!」
『どうして!』
「君がそれを言ってくれなかったからだ。心ってのは仕草や表情なんかで読み取れるような簡単なものじゃない!自分の心を言ってもらって初めて分かる!僕はそんなに器用じゃないから君の心の内に気づけなかったことには謝る!だから辛いこととか思ったことは言ってもらわないと分からないんだ!」
『そんなこと…私にはできない!』
「できるさ…僕らはこの世界に存在する限り、不可能を可能に変えられるんだ!僕らの可能性は…無限だから!【竜の闘気】全開!うおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」
全力を出しているせいか視界が霞んで見える…でもここで諦めたら確実にやられる!
もっと…もっと燃やすんだ!僕の力を…全力を!
「〖パワーバーン〗!!!!」
闘気を全て解き放つと魔方陣が破れて全身から力が抜けて動けなくなった。
アクアが歩み寄って来た。このままじゃ確実にやられる。
くっそ、全力出しすぎた…動け…僕の身体…
『勇者様に励まされたら頑張るしかないじゃない。それにレベル差を埋める程の強さ…私の負けよ。』
アクアはあっさり負けを認めた。
戦えば勝てるのにどうして…
そんなことを考えながらもアクアは僕に回復呪文をかけつづけていた。
「勝てるのに戦わないなんて、変なアクア。魔物には慈悲なんて物は無かったのに。」
『だって魔物は破壊しかしないじゃない。それに私はああいうの嫌いだし。』
「…ただのストレス発散ってワケ?」
『それは言い方が悪いから保全活動って言って。』
保全活動…言い訳にも聞こえるけどそこは目をつむろう。
「というか、どうして回復してくれるのさ。敵なんでしょ?」
『昨日の敵は今日の友って言うでしょ?』
「日付も時間も全然経ってない気がするけど…」
『気にしなーい気にしない!』
アクアからは敵意も感じないし、ウソもついてない。本心でやってることだし大丈夫なんだろうけど…
「あ~やっぱりアクアの呪文はよく効くな~。」
『えっ』
「なんかジワ~って言うかふわ~って言うか身体に直接効いてる感じで身体が軽くなるんだ。やっぱり魔法は異世界って感じだなー。僕も回復してあげようか?」
『お、お願いします。』
僕はアクアの認知に回復魔法をかけた。
意味はないと分かってたけど掛けたくなったんだ。
『勇者様の呪文はなんと言うか…不器用ね。』
「うう…」
『でもその分努力と優しさを感じるわ。頑張ってるわね勇者様。』
「うん、それなりにね。まだまだ君には遠く及ばないけど…」
『頑張り過ぎないでって言ったばっかりなのにもう次の話?』
「あっ…」
『まあ、程々に頑張ってね。そろそろ行った方が良いんじゃない?ムーンも待ってるわ。』
確かに、かなり休憩してしまった。
進まないとムーンに怒られる。
「そうだった!もう行くね。」
『ええ。今度は現実で会いましょう。』
「うん!またね!」
認知のアクアと一緒に行きたかったが、僕と一緒にいないって言う認知があるために一緒に行けないらしい。
じゃあムーンは?
【ふむ、それは一緒についてきてくれないという認知があるからの様だ。】
「コマンドいつのまに!?」
【我はいつでもお前の側にいるという認知があるから存在している様だ。戦いはしないがな。】
認知ってヤヤコシイ。
【そう言うな。先を急ぐのも良いがそこは行き止まりだぞ?】
さっきよりもかなり深くまで進んだから複雑になってきてるのは分かるけど…
階段を降りて行き止まりは初めてだ。
「あれ?ホントだ。でも敵の気配もないし…ここは何の部屋なのさ。」
(目標地点、つまりゴールだよ。おつかれさん。そこに窓があるだろ?それを通れば出られる。)
僕は恐る恐るスライド式の窓を開けるとそこには何も無くて足下も分からない変な場所だった。
しばらく出口をさがして進むと目の前が真っ白になっていった…