68.なぜ勇者は自らを戦士と名乗るか
「おったまげーだよ!全っ然知らなかった!というか誰も教えてくれなかったし!」
(そうかい?あたいは知ってたけど、大体察しがつくだろ?)
「僕はそこまでの観察力はないから!」
「…まあいい、話を続けるぞ。」
シャドウに呆れられていることに気づいてすぐに話に戻った。
「ではわたしから話そう。現在ドラゴンたちの間でドラゴンが突然、終末化するという噂が流れている。一部では勇者という悪魔が終末化させているとも言われている。以上だ。」
うげ…最っ悪だ。今後の旅が心配になる噂だな…
「次はワイやな。モンスターたちは終族を怖がってるみたいや。時々あらわれては自分たちの住み家を壊していく…まるで悪魔やってな。イロのことは優しいドラゴンやって言われてるな。」
モンスターたちとは接する機会が多かったからなー、努力したかいがあった…
「次は拙者だな。人間たちは自分たちを守るために強き者を求めている様だ。強き者の育成も進めている。…まるで戦争を始めるかのようにな。それと、地形やダンジョンの調査の依頼が多く見える。」
物騒な感じなんだね。地形の調査か…僕たちならサクッと終わりそうだけどね。
「次は私ね。信仰については変わりはないわ。でも祈りに来る人が多くなったわね。ボクはただの杞憂だと思うけど、調査を進めるわ。」
うーん信仰なんてそうそう変わらないと思うんだけど…なにかある予感はする。
「最後は僕だねー。最近の風は勇者くんに向かって吹いてるねー。激しくもなくて、緩やかで…それでいていつかくる危険を知らせてくる。明日には何が起こるか分からない…そう言う不安も見える風だよ。風は気まぐれだし気楽に捉えてねー。」
ここまでの話から表立って何かが起こってるけど、裏でも何かやってるかもしれない…ってことかな。世の中ってヤヤコシイ。
(大体分かったよ。それで、重要参考人のあんたたちはどういう経緯でああなったんだい?)
「もうちょっと分かりやすく質問しようよ…」
「構わん。では我から答えよう。」
ドラゴンがのっそりと起き上がって僕を見下げた。けど以前のような敵意は感じない。逆に優しく見える。ムーンが心を取ったことで新しい心ができてることがしっかりと分かる。
「我は冒険者に打ち負かされて角を削られ鱗を剥がれてしまった。その心の憎悪に付け入られてしまったんだ。確か…終族だったな。」
「特徴は?覚えている限りでいいできるだけ多く教えてくれ。」
「そうだな…角が黒くて、灰色の長髪だった。背は人間の倍で、特徴は右手の甲にあった紋章だ。」
唯一の見分け方は手の甲にある紋章か…手袋とかされたら分からなくなるやつじゃん。
(で、ムカデ。あんたも誰かからそそのかされたって感じかい?)
「は、はいい!ですから殺さないでえええ!!」
(…はあ、殺しはしねえよ。だから落ち着いて吐け。)
「その言い方じゃ落ち着けないよ…」
ムカデはむしろ怯えてるみたいだ。それも今まで以上に。
これだけのドラゴンに囲まれてたらそりゃあ怯えるよなー僕がムカデの立場だったら余裕で気絶してるよ。
「その終族は緑色の帽子を被っていて、茶色い髪で…右手の甲に紋章がありました。それは…風のようなものにも見えました。」
これも紋章か。風のような紋章…何かひっかかるな。
「何にせよ終族が本格的に動き出している様だな。我々は今後も調査を続ける。イロアス、お前には属性竜とその弟子たちにここまでの情報を伝えてはくれないか?」
「僕が!?何故に!」
「ボクたちも忙しいの。教会の掃除とか、みんなの悩みも聞かなきゃだし…」
「僕は全世界飛ばなきゃいけないし…」
「拙者は別の町に向かわねば…」
「わたしはドラゴンたちの巡回しなければ…」
「ワイはモンスターたちの話を聞かんと…」
みんな自由そうで忙しいんだね…
(はあ…仕方ないね。で、場所が分かってるドラゴンは?)
大地の竜ランドと天空要塞のバイブは世界一の山に。
火炎の竜フレアと成長する竜は最も激しい活火山に。
閃光の竜シャインと暗闇の竜ダーク、その弟子たちは明るくて暗いの森にいるらしい。ただ…
「かなり曖昧なんだね。」
「みんなにも定住地はあるけど調査とか事情で空けてることが多いんだー。ランドとフレアは同じ場所にいることが多いよー。」
「分かった。その依頼引き受けるよ。でも誰から会いに行くか…」
(…ちょっと待て、報酬も無しに受けるのかい!?そりゃないだろ!)
…まあそうだよね。ムーンは依頼なら報酬は付き物だと思ってるだろうし…
「報酬ってのは受けてくれたことに対する感謝だよ。モノが用意できなかったりしたら報酬も少ないだろうけど僕は感謝の気持ちがあればそれでいいと思う。」
(…あんたがそれでいいならあたいもそれでいい。ただ、一つ聞きたいことがある。あんたは何で自分を『勇者』じゃなくて『戦士』って言うんだい?)
「「「「「勇者!?」」」」」
「僕とアイスは知ってたけどねー。」
あー…言うの忘れてたか。
(で、どうなんだい?)
「僕はまだ勇者を背負えるほど勇者じゃない。だから戦士って言うんだ。まだ…力だけしかないから…」
(…なら早くその決意を固めるんだね。)
(この世界にはあんたが必要なんだ。)
僕は少し息苦しくなった気がした。