60.月の救援
時間は勇者とムーンが別れたときにさかのぼる…
(ほらほら走りな!ダッシュリザードだってもっと速く走れるよ!)
ちっ、こんな速さじゃ間に合わない!ちょっと疲れるけど使うか。
(ちょっと移動するけど足を踏み外すなよ!【大転移呪文】!)
あたいは大転移呪文を唱えて町の近くまで転移した。
「うわっ!町の近くまで来てる?」
「高位の転移呪文まで使えるなんて…」
案の定上手く着地出来ずに足を踏み外したみたいだ。
(よし、ここまで護衛してやったんだ取引には応じてくれるよな?答えは聞かないけどな。)
「何が目的なんだ?」
(話が早くて助かる。あたいとあのドラゴンのことは秘密にしろ。あいつのことは『戦士』とでも言っとけいいな?)
あたいが言っちゃなんだけど、この取引はかなり強引だ。ホントはもっと力を見せて言いくるめる所だけど、今は一刻を争う。そんなことをしてる暇はない。
「…」
頼むー!頼むー!はいと言ってくれー!
「分かりました。但し条件を。」
「アルーズ!?」
「この幽霊さんは凄い力を持っていて、あのドラゴンさんと強い繋がりがあるとお見受けしました。私はあなたに教えを請いたいのです。」
なるほど、こいつは…
(あっはっは!よし、あんた気に入ったよ!取引成立だな。流石の相棒でも長くは持たない。なるべく早く応援を向かわせるようにあんたたちからも言ってくれ。あとオーナーに誰からの情報からか聞かれたらムーンと伝えてくれ。)
このアズールってヤツ、なかなか肝が据わってやがる。思ったより見所がありそうだ。ちょっとつつくくらいなら問題ないよな?
あたいは冒険者共を酒場まで送り届けるとすぐにファングを探して声をかけた。
あいつは相棒が危険だって伝えるとすぐに森に向かって一直線に走り出した。あの調子ならすぐに着くだろう。
あたいはそのついでに強力な助っ人を呼びに飛んだ。あいつらなら嫌と言っても手伝ってくれる。
人間共に受け入れられるかは別だけどな、やるだけやってみるか。一応世話になった町の訳だし跡形も無くなったとか聞けば、寝覚めが悪いし、何より後悔するからな。
慌ただしくなると思いながら竜飛翔を使って『竜の隠れ里』に向かった。
竜の隠れ里…とある森の奥にあるドラゴンたちがひっそりと生きる小さな里。依頼でついていったドラゴンが住んでいた場所だ。
ホントは罪のないドラゴンたちを巻き込みたくないけど、つべこべ言ってる暇はない。今は少しでも戦力が必要なんだ、強引に行くしかない。
報酬は何がいい?契約の期間はどうする?考えることが山ほどあるな。どうするかあーだこーだ…
(…やっぱ着いてからでいいか。)
幻の森を越えて霧を抜けると小さな村が見えた。相変わらず代わり映えしないとこだな。
あたいは里の近くに着地して、できるだけ気配と魔力を消した。建物の影に隠れながら一番大きな家…里長の家を目指した。
あたいは家に入って背後からそいつの首を狙った。
(あんたがここの元締めか?ちょいと話があるんだけどいいかな?)
「誰だ?」
(なあに、魂まで取ろうって訳じゃねえ。ただしあんたがあたいの条件を呑めばだけどな。)
「…要件は?」
(あたいに協力してほしい。人間と一緒にスタンピードの阻止をするんだ、そのために力があるヤツが欲しいんだ。報酬はそれなりのを用意する。)
お察しだろうが、報酬は何も思いつかなかったんだ。相棒と相談するしかないか…
「悪いがそのクエストは受けられない。」
(へえ?つまりあんたはここで死んでもいいと?そういうことなんだね?)
まあ、断られると分かってここに来たからな。知らない場所で知らない奴らを助けるなんて、なーんの利益もないからな。よっぽどのお人好しじゃない限り。
「ひとまず姿を見せてくれ、話はそれからだ。」
なるほど、対等に話し合いたいということか話が通じるヤツで助かった。
あたいは姿を出してそいつの前に降りた。
(…!これは驚いた、ドラゴンの里だってのに狼が長をやってるなんてな。)
「わたしは、主殿にここの長を頼まれたループス・ウルフのシャドウという者だ。主殿には困った者はなるべく助けろと言われている。その話詳しく聞かせてもらおう。」
なるほど、一応元締めはこのシャドウって奴なんだな。
(ああ、ここから大体飛んで2時間の距離にあるノックダーラの町で再びスタンピードが起ころうとしているんだ。いつかは分かんねえけど今は少しでも戦力が必要なんだ。)
「なるほど…しかし、我々に助けを求める必要性を感じない。」
(ついこの間に終族が関わったスタンピードがあったばかりなんだ。今、まさに復興中ってとこで冒険者を雇う金もない。だからニンゲンは動けないってことだ。あたいとしては物資と情報の源が消えるのは困る。それはあんたも同じのはずだよ?)
一応事情の全てを話した。もちろん裏の狙いはあるけど、私情だから挟むつもりはない。
「…我々もお人好しじゃない。我らが何故ニンゲンを助けなければならない?ドラゴンたちをそんな厄介事に巻き込まないでくれ。お帰り願おう。」
ちっ、やっぱそう上手くはいかないか。なら…
(ドラゴンの激情化。あんた知ってるかい?)
「っ!?それはどういうことだ?」
やっぱ食いつくよなー。ここのこととか主殿とか言うヤツにも関わるだろうし。
仕方ない、裏の狙いも言っとくか。
(終族に好き勝手やらせる訳にはいかないんだ。これも全部終族の戦略ってんならあたいらはこれを阻止しなきゃならねえ。ニンゲンもドラゴンもモンスターも関係ねえ!今を生きるために手を取り合う必要があるんだ!頼む、力を貸してくれ!これは世界の存亡にも関わる。)
相棒は人間の心を持ったドラゴンだ。相棒も人間には交友的だから人間とドラゴンとの架け橋になってくれるはずだ。利用する形になるけど、相棒もそれを望んでるはずだ。
「…うむお前の意志は分かった。ではわたしを納得させるだけの力を示してみせよ。お前がただ弱いだけでは力を貸した意味がない。ドラゴンは弱肉強食、心と身体の強さが一致してこそ強者と言える。言っておくが、わたしは強いぞ?」
(へえいきなり大将戦か、時間がないから手っ取り早くぶっ飛ばしてやる。)