59.危機の予兆
体力が大分回復したのでギガンテスたちが来た方向に行ってみることにした。
足を進めるにつれて少しずつ魔物の気配が強くなってきていた。それほど強い気配はないけどぬるい足湯に浸かっていて近づくにつれて湯が上がってくるような感じの気配だ。
更に進むと開けた場所に出た。獣道があちこちに広がっていて、全て一つの洞窟につながっていた。
中からはすごい量の魔物の気配を感じ取れた。
「コマンド、中にいる魔物の数は?」
【うむ、ここからでは難しいがざっと3000は下らない。今の状態で乗り込んでも負けてしまうだろう。】
確かに多少回復したとはいえど満身創痍だ。今戦いに行くのは死にに行くようなものだな。
しかもここはノックダーラの町からそう遠くないから奴らがあの復興途中の町に来れば…考えたくない。
「一度撤退をしよう。誰か見張りをしてほしいんだけど…」
そう頭を悩ませていると感じたことがある気配が近づいてきた。
「急を要すると聞いて馳せ参じた。大丈夫かイロアス。」
町の方向から来たのはファングだった。
「ファング!?どうしてここに?」
「お前がピンチと冒険者が騒いでいたものでな。」
さっき助けた冒険者たちのことだろう。
きっとムーンに脅されたに違いない。
「てか僕ドラゴンなのにどうして分かったの?」
「お前にしては察しが悪いな。匂いだ、同じ匂いがしたんだ。」
そうだった、ファングは匂いに敏感だったな。
でもドラゴンの僕に驚かないなんてファングも変わり者なんだな。
僕としては助かったけどね。
僕はファングに状況を説明した。
「なるほど、それは危険だな。スタンピードの前兆といっても過言ではない。」
「またアレが来るのか?」
「ああ、それだけの数が一同に集まってるんだ。食料の不足、場所の不足、理由は様々だがそういったモノを求めて人里に攻めいるというのも当然だ。前回はドラゴンの襲撃によるものだと言われていたが…残党だけでもこれだけの数がいたとは…」
そのドラゴンってまさか僕たちのことじゃないよね?ないよね!?
【検索しよう…記録には5匹の竜と一人の終族がノックダーラの町を守った。町を襲ったのは別個体のドラゴンと記録されている。心外ではあるが、お前とムーンは姉弟竜と記録されている。】
なら一安心だ。危うく僕らが町から追い出される所だったよ。
姉弟か…連携がすごくよかったし、色は正反対だけども似てるし間違えられても仕方ないだろう。
「もうすぐ後援も来る。お前は町に戻って休むといい、後は任せろ。」
「助かったよ、ありがとう。」
僕はその場をファングに任せて町に向かった。
「なんとか…なった…」
真っ直ぐ町に向かって歩いていたけど、疲れはててしまって途中の木の下で一休みすることにした。
「傷が治っても疲労感は抜けきらないんだね。」
【仕方ない。お前はこの力にまだ慣れきってないんだ。超回復がⅥくらいになればこの状況も打破できるんだろうがな。】
たしか今がⅣのはずだから…先は長そうだな。
ん?
【どうしたイロアス?】
「今そこに何か通って…」
「ガブッ!」
油断した、突然後ろから何かに噛みつかれた。
【どうしたイロアス!応答しろ!イロア…】
意識が朦朧としてきた…あれは…ヘビ?
確認する暇もなくそのまま意識を失った。
〖調子はどうかな?イロアスくん。〗
ああ、またお前かディレク。
「何の用?」
〖もう二人にも会ったのか。僕が思ったより展開が早いみたいだね。敵は進めば強くなってくる。君もそれに適応できないと死んじゃうから気をつけてね。〗
「僕の質問に答えて。」
心配してくれてるみたいだ。
けど、その声はわざとらしく抑揚が深くて感情が分からなかった。
〖言っただろう?僕はただ君の行く末が楽しみなだけだよ。もう目が覚めるか…じゃあ楽しみにしているよイロアスくん。〗
あの言い方は…多分展開を知ってるんだ。
つまり僕の結末も知ってる。
そんな世界で生きる意味があるのか?分からなくなってきた…
けど、何も分かってないのに終わるのは嫌だ。
コマンドが言っていた、憶測でモノを語るのはいけないと。
だから真実は自分の手で掴んでみせる!
ーー
特殊スキル【真実はいつも一つ】を覚えた!
特殊スキル【真実の瞳】と統一されて【真実の羅針盤】に変化した!
ーー
真実の羅針盤か…
ーー
【真実の羅針盤】(便利)
真実を得る鍵となるモノを見つけられる。
このスキルは誰かに貸与、もしくは物に付与することが可能。
ーー
つまり、貸し借りできて何かに付与もできる…ホントの羅針盤にもなるって訳か。
けどこれを見るに何のどんな真実なのかが分からない。
前の【真実の瞳】も何に対してウソをついてるか分かったから…
実際に調べたりする必要があるのか。
まあ、色々な調査系ゲームでもこれがある時点で全部イージーモードになっちゃう訳だ。
聞き込みとか現場検証とかで役に立つスキルだな。
まあ、足で稼がなければいけないのはご愛敬だろう。
【……勇…者…聞こえ……るか?】
「コマンド?」
【うむ…通信は…悪いが…なんと…つながっ…みたいだな…】
いつものようにどこからかコマンドの声が聞こえた。
ただ、声が遅れて聞こえたり途切れたりするので通信環境がいい状態で話していないのが分かった。
【無理…やり繋い…いるか…らこのように…遅れて…聞こえる…のは…すまない。】
なるほど、この空間はかなり強力なセキュリティがかかってるのか。
コマンドはディレクほど強い権限を持ってないんだね。
【今から…無理…り起こす。多少…痛むが……慢してくれ。】
頭に軽い電気が走って目が覚めそうな気がした。