58.戦わなければ生き残れない
「ムーン、そっちはどう?」
(相変わらずだ…)
「神よ!全知全能の神々よ!傷つきしこの者の傷を癒したまえ!【回復呪文】!」
僧侶っぽい女の人が頑張って呪文を唱えてるけど…
(詠唱が長いし、効果もビミョーだな。ここはあたいたちで回復させるか。)
僕は足元に魔方陣を広げた。
「【範囲大回復呪文】。」
範囲の中に入った味方を回復させる呪文だ。
範囲を広げたり威力を高めたりと汎用性が高い呪文なんだ。
しばらくは一人旅だから使う機会はないと思ってたけど、覚えててよかった。
「これは高位の回復呪文!初めて見ました…」
「みるみる内に傷が治っていく、凄い魔力だ…」
「助かった、君はいいドラゴンなんだね。」
ああそうか、これじゃあただのドラゴンだったな人になれるって分からないのも当然か。
一応言っておくか。
「通りすがりのドラゴンだ、覚えててね。」
何て言ってるか分からないだろうけど、気持ちは伝わるはず。
(ん?)
「どうしたのムーン?」
ムーンが見た方向には怪しく光る赤い石が落ちていてしばらく経つと砕け散った。
【あれは【呼び寄せの石】仲間を呼ばれたみたいだな。それもデカブツを何匹とな。】
まずいな、そうなれば僕だけじゃ疲弊した彼らを守りながら戦うのは難しい。
彼らをここから逃がさないと。
「ムーン、彼らをここから逃がして。あと僕がドラゴンだって言わないように釘を刺しといて。」
(了解!ほらほらあんたたち走れ走れ!ぐずぐずしてるとそのケツに火を点けるよ!)
冒険者たちはヒーヒー言いながら町の方角に走っていった。
しばらくすると大きな足音が聞こえてきた。
「来るなら来いデカブツ共!お前らの存在を破壊してやる!」
ーー
ギガンテスたちがあらわれた!
【コマンド?】
ーー
▽たたかう
【奴らは【ギガンテス】お前の世界で言う鬼だな。行動は大振りだがその分一撃が重い。それに多少は頭も回るから厄介だ。推奨挑戦レベルは45だ、普通に戦えば勝ち目はない。】
「っていうことは今ある力を全部使わないと勝てないってことか!」
【そうなるな。】
僕は奴らが構える前に不意を突いた。
「だりゃっ!だああっ!!」
まずは1体を転ばせる。
そこから【ストーンクライム】と【マイティテール】を合わせた【地面挟み打ち】で頭を砕いた。
振り返るとギガンテスは5匹いた。
最初は不意を付けたけど今度はそうはできない。
数が多いからって大技を撃ちまくってたらすぐにジリ貧だ。
ここは一体ずつ確実に仕留めた方がいいけど…考えるのはやめた!とにかく暴れてやる!
「【火炎の息】!【大雷鳴呪文】!【雷鳴の息】【マイティクロー】合体!【びりちくクロー】!」
【ギガンテスのHPはゴリゴリ削れているが、MPの残量が半分を切った。これ以上呪文及びとくぎを使用するのは危険だ。】
このデカブツ5匹相手に一人は厳しいな。
せめてあと一人仲間が居れば…
いや、甘えるなこの状況を切り抜けてこそだ!決意を固めろ!命を燃やせ!
「ようやくエンジンが温まってきた!怪物ども、ひとっ走り付き合えよ!」
そこからは自分が出来うる最高の速度で走り回った。
しかしムーンがいないかられんけいしんかにも頼れない状況で少しずつ追い詰められていた。
頭が回るってのは本当みたいだ。
僕の動きを読んで攻撃されてるからデカイこん棒の攻撃が当たって様々な所に打ち付けられた。
僕だってバカじゃないから打ち付けられた後の追撃は避けるけどそれもギリギリだ。
辛い 苦しい 痛い
そんな言葉ばかり頭でまわっている。
できるなら今すぐにでも逃げ出したい。
けど僕は【大回復呪文】を自分にかけ続けた。
【勇者よ、疲労によって身体の動きが鈍ってきている。このペースでは負けるぞ。】
「分かってるさ、けど大振りの技を打てばその分隙ができてしまう。相手のHPは?」
【ならば、範囲が広い息系のとくぎはどうだ?威力の高いものなら相手を怯ませられる。ギガンテスたちの残りHPは50%以下だ。】
そうか、今まで周りの被害を考えて使うことがなかったけど、今は木がなぎ倒されて踏み潰されて粉々になってるから大丈夫だ!たぶん!
「【ファイヤブレス】【ライトブレス】合体!【クリムゾンブレス】!!」
【閃光火炎の息】の上位互換の【クリムゾンブレス】を吐いた。
ブレスを吐いているときに、口の痛みと異様な匂いが漂ってきた。
何かが焦げたような匂いだ。
案の定口が焦げていた。
そうか、ブレスドラゴンは火が苦手だった。だから炎のとくぎや呪文を使うと身体が焦げてしまうんだ。
メリットとしては想定以上の威力になったけどすごいデメリットだ、次からは気を付けよう。
しかし、ギガンテスはさっき倒した1匹を盾にしてブレスを避けた。
「先に千切りにしておけばよかった。」
【悔やんでも時間は戻らん。】
「分かってるさ。だからこそ面白い!」
【潜在的な戦闘狂が垣間見えた。いいだろう、我も現在のバージョンで出来うる100%を出そう。便利ソフト【データライザーver.1.0】を起動。】
視界に飛行機の計器のようなものがあらわれた。
アイ○ンマンの見てるのもこんな感じだったな。
「まずは傷の回復をしよう。避ける最適なルートは?」
【このように進め。奴らの頭上で攻撃に切り換えろ。】
視界に線が浮かんできた。ここを走ればいいのか。
その場に【投影】で自分と同じ形の影を残して線に添って走った。
ギガンテスの攻撃はギリギリ当たらずギガンテスたちを翻弄した。
コマンドっていつもこんな景色見てたんだ。
バランスを崩したギガンテスを踏み台にして上に跳んだ。
【決めろ。】
「いくぞ!ブレス直伝【ストームエクストリーム】!」
残ったMPを全て使って【ストームエクストリーム】を放った。
竜巻が全てを切り裂いてギガンテスたちは跡形も残らなかった。
ーー
ギガンテスたちをたおした!
5400Pの経験値と3020Tをかくとく!
ーー
「なんとか…たおし…きれた…」
【疲労度98%。よくやった。ソフトの出力10%まで低下させる。】
表示が消えて目元が寂しくなった。
【出力100%は疲れるな。しばらく休息を取ろう。どこかで安静にするのが一番いい。】
自分は近くにあった木に身体を任せた。しばらくすると身体がじんわりと治っていく気がした。
【進化したときに覚えた【超再生Ⅲ】の効果だ。生命力、状態変化、魔力をじわじわと回復する。平常時でも効果があるが、安静時には高い効果を発揮する。】
じゃあ、動けるようになるまではここで安静にしておこう。
そのとい太陽は空の上でサンサンと輝いていてまだ昼だということを僕に教えてくれた。