54.自己紹介
ムーンは僕から出て姿を現にした。みんな驚いてるな、まずかったかな?
「えっと…まずは説明をしてくれないか?」
(おっと悪い、あたいは600年前から存在している暗殺者の魂だ。今はこいつの中で住まわせてもらっている。そうだな、今はこいつの夢を追って旅をしている。)
あながちウソではないけど、後半はウソだ。
夢はあるけど今は後回しにしてるし、目の前のことで精一杯だしなー。
「うん、今は属性竜を探して旅をしているのかな?漠然としてるけど、生計をたてるためにも冒険者になった方がいいかなと思って…でも自分は冒険者になりたいんです。苦しいことも辛いことも重々承知してます!でも、僕は冒険者になりたいんです!」
冒険者という職業は前からなってみたかったんだ。思いっきり思ったことをぶちまけたけど伝わったかな?
「…まあ、もう少し聞きたいこともありますがこちらにも面子というものがあるので今回は見逃しますがまた後程聞きましょう。」
(信用があればこっちも話す気になるんだけどね、しばらくは様子を見させてもらう。)
そう言ってムーンは僕の中に入った。
「それに、不思議とウソをついているように見えない。今は信用に値するという判断をしましょう。」
「オーナー!?」
「責任は私が取ります。」
(ふう、なんとか誤魔化せたな。)
僕はオーナーさんについていった。
着いた部屋は暗くて真ん中に台座があって青い石が置いてあった。
「魔力の形を名簿登録するから、これに触れて君の魔力を流すんだ。」
自分は魔力を流した。
すると、石が光を失ってしまった。
「あの、光らなくなっちゃったんですが…」
「ああもう寿命だったか、別の石を持ってくるよ。」
しばらく待つとメイさんは同じ石を持ってきた。魔力の形と強さを記録する石らしい。コマンドによれば僕の魔力が強すぎたみたいだ。
今度は少し押さえ目に…
上手く計測できたみたいだ。
「うん…凄まじい魔力量だね。」
「なんとデタラメな量だ…」
【人間の測定値で13600ほどらしい。通常、表示しているものはドラゴンを基準としているから仕方ないだろう。】
人間からしては規格外なんだね、自分はまだまだ弱いと思ってた。まあ、それで強さを求めるのは止めないけどね。
「しかも職業が戦士なんて…一体どういうことだ?」
【我が少し手を加えて職業を変えた。流石に勇者とは言えまい?】
どうしよう?呪文を使わない職業でこの魔力量はごまかせない!ヤベーイ!
(余計な詮索はなしだ。いいな?)
ムーンが軽く殺気を出すと空気が凍った。ムーンが本気だしたとこ見たことないけど本気出したらどうなるんだろう?とりあえずここら辺は全部消えるか凍るか焼け野原になるな。
「しかし、こちらにはあなたの素性を知る権利がある。教えて頂けますか?」
うっ確かに…これからお世話になるのに素性も言わなくちゃ信用もクソもない。どうすのさムーン!
(…そうだな、じゃあ一つだけ。こいつはには竜の血が流れている。これ以上はダメだからな。)
正体は隠しつつウソは言ってない。やっぱりプロは違うなー。
「なんと!まだこの世界に竜族の末裔がいたとは…」
竜族ってなになに?
【竜族とは遥か昔に存在したとされる種族だ。一般的に人に近い姿で個体差によるが角や鱗がある者もいた。一部の民族はドラゴンになることもできたと300年前の記録に記されている。】
確実性はないけどこの情報は通用するみたいだ。それにドラゴンに変身できて角も鱗もあるときた、これは便乗するしかない。
「はい、あまり知られたくはなかったんですが…」
「…いいでしょう。メイ、このことはくれぐれも口外しないように。」
「分かってます。…これで登録は完了だ。このカードは身分証にもなるからなくさないでね。最初はランクⅩⅡからスタートしてクエストを規定数クリアすることでランクが上がる。最大ランクはⅠだ。一定期間クエストをクリアしないとランク降格とかの措置があるから気をつけてな。」
1枚のカードを渡された。顔写真付きでフルネームも書かれている。運転免許証みたいだ。
「おっしゃ!冒険者ー、キターーーー!!!!」
僕は思いっきり両拳を上に掲げた。
(…そのノリはあたいでもついてけねえ。)
あっ、ごめんごめん。
僕はすぐに腕を下ろした。
「お堅いオーナーを言いくるめるなんて、流石だな!期待のルーキー!」
「いやいやーまだまだですよ。あっ、もうこんな時間だ。僕たちはそろそろ行きますね。」
昼が近くなったので僕はまた戻ってくると言ってもう一度町に出た。
(大分時間取られたけどいい暇潰しになった。昼になったし、あの店も開いてる頃だ。場所はもちろん覚えてるよな?中央広場だ、寄り道せずに真っ直ぐ行けよ。)
僕は少しさ迷いながらあの店に向かった。
「いらっしゃいませ!あっ、さっきのお客様!先ほどはすみませんでした。」
ムーン、あの事言ってもいいよね?
(好きにしな。何があってもあんたがなんとかしろよ。)
「わかった。いえいえ、構いません。それより足の具合はどうですか?」
「ええ、おかげさまですっかり良くなりました。…ってどしてそのことを?」
僕は外套を脱いでドラゴンに戻った。
「あのときのドラゴンさん!生きてたんですね!自警団の方たちが魔物は全て討伐したと言っていたのでてっきり殺されてしまわれたと…」
(町の外れに住んでいるドラゴンに助けられたんだ。物好きなヤツで助かった。)
「もしかして、アイスさんのことですか!?あの人は気難しくて裕福な人にはあまり力を貸してくれないんですよね。私の店も構えはいいのに売れ行きが悪くていつ倒れてもおかしくないんですよー。」
なんだか無理に笑ってる様に見える。
(っ!?)
どうしたの?…ムーン?
(気にするな、急に未来が見えたことに驚いただけだ。)
ムーンが驚くような未来…一体どんな未来だったんだろう?