53.紹介人の受難
私はメイ。ノックダーラの町のギルド…通称ノックダーラの酒場で紹介人をしている者だ。
今日の依頼を受けて帰ってきた冒険者共…あのほぼ腐った素材は本来ならお金を支払って欲しいところだけど新人育成のために最低価格で買い取らせてもらった。更にこちらを睨み付けている。
こっちがそうしたいんだっつーの。そんなんだからいつまでも低ランクなんだよ!
あーあ、営業スマイルっと。私はここの看板なんだから、嫌な顔をすれば評判が下がるからな。
そんなことを考えていると扉が開かれて堂々と誰かが入ってきた。そいつは真っ直ぐとこっちに向かってきた。
「いらっしゃい、ここは出会いと別れの酒場、ノックダーラの酒場だよ。今日はどう言ったご用件で?」
そいつは目元を隠していて見るからに怪しいが、何故か悪いヤツじゃないって分かった。
「冒険者になりたいんだ。ここで登録できる?」
「…登録には実戦で強さを確かめなくちゃいけない。君にはまだ早いんじゃないか?」
こいつは背が低い、多分子供だな。たまにこういうバカが来るんだ一攫千金を狙ってな。
「大丈夫、鍛えてますから。」
「…どんな大怪我してもこっちは責任取らないからね?」
「うん。」
「…そうか、じゃあこっちに来て。」
ボロボロにならないと分からないらしいね。それじゃあいつも通りハジくか。
普通、酒場は年齢制限はないが、ここではある程度の強さを持っていないと通れない仕組みにしてある。ある時期に生半可な強さを持った冒険者が山のように死んでいったからここの酒場はこういう対策を取ったんだ。一応オーナーにも許可は取ってあるし、あの人も試験監督をかって出てくれた。
「我が名はパークランス!今回の試験監督を勤めさてもらう。」
今日も試験監督はパークランスさんだ。大体の子どもは後ろの大きい槍を見ただけで怖じ気づく。そして相変わらず強者の風格が漏れ出ている。
「手加減はしない、行くぞ!」
「初めからそのつもりだ、よろしく頼む。」
その子とパークランスさんは互いに向かい合って構えた。
最初に攻撃したのはパークランスさんだ。大振りの槍で地面を叩きつけた。パークランスさんの十八番【大地槍】だ。これは初めて見る人は絶対に避けられないとくぎだ。流石にやり過ぎじゃ…
「ここはあたいがやろう【エレメントマジック"土"】ほいっと。」
そいつは外套を脱ぐと左手を前に出し、初めて聞くじゅもんを唱えて、パークランスさんの【大地槍】を打ち消した。
嘘でしょ!?この酒場で一二を争う実力者のパークランスさんの大地槍を一撃で!?聞いたこともないじゅもんだし、片手で凪ぎ払っただけであの人のとくぎを相殺するなんて…一体何者なんだ!?
「うおっ!?」
「ぶっ飛ばすぜ、相棒。…了解!」
自問自答してる?
その子は腰から綺麗な石を取って右手に持って掲げた。
「変身!」
石を腰に持ってきて握ると石が砕けた。腰から青い光が全身に伸びて欠片は身体にくっつくと鎧になった。
「試してみるか。」
そいつは右手から小さな魔力の塊を地面に転がして、前に飛んだ。
「させるか!【紅蓮槍】!」
「パークランスさん本気か!?そのとくぎをこんなとこで打ったら…」
「ぬおおおっっっ!!!」
ダメだもう止まらないっ!
紅蓮槍の熱気が辺りを包んで私はうずくまった。
「…確かに、あーれーはまずいね。だったら!合体とくぎ【時限炸裂蹴り】!だりゃあっ!」
「ぬああああっっっっ!!!!」
あの子はいつの間にか後ろに移動していてパークランスさんを蹴り飛ばして、さっき投げていた魔力の塊がパークランスさんを覆い尽くして爆発した。
あんなとくぎ見たことない…
「どうかな?」
「ご、合格だ…」
私はしばらく呆然とするしかなかった。
「こっちに来て、オーナーが呼んでるよ。」
「へえ、そこまで徹底してるんだ。」
「えっ?」
「いいや、こっちの話だ。おい、紛らわしいこと言うなよ。…ごめん。」
まただ、何だろうこの違和感は?
「君は…何者なんだ?」
「信用がないヤツには名乗らないと決めてるんでね。そういうときはあんたから名乗れ。」
信用があれば教えてくれるのかな、私から名乗ろう。
「ああ、私はメイ。」
「そうか覚えとくよ。あたいはムーンでこいつはイロアスだ、覚えとけ。」
「名前が二つあるのか?」
「余計な詮索はするな。」
信用がないってことか、なんで独り言が多いんだろう。すごく気になる…
「この部屋?」
はっと気がついたらオーナーの部屋が目の前にあった。
「あ、うん。オーナー入るよ。」
「どうぞ。」
オーナーの声が聞こえて私は扉を開けた。オーナーはいつもの席に座っていてパークランスさんも一緒みたいだ。
「見たこともない呪文に合体とくぎですか…」
「はっはっは!こんなチビスケがここまで強いとは思わなかったぞ!」
イロアスくん?はパークランスさんに頭を乱雑に撫でられた。イロアスくんは嫌がってなかったけど私はちょっとドキドキした。
「全く…ただでさえ強い冒険者が少ないから君に試験監督を任せているのに、これでは困りますよ。」
「申し訳ない…」
パークランスさんは縮こまってしまった。頭が上がらないのは当然だろう。
「危ない気がしたから対処しただけです。ぶっ飛ばしてごめんなさい。」
急に謝られてパークランスさんもオロオロしてる。そんな状況を見かねたオーナーが口を開いた。
「では、君は状況を自分で分析して最適な対処をしたと…その洞察力と力は一体どうやって学んだのですか?」
(あたいがシゴいたんだ。この世界で生きていけるようにな。)
「ちょっとムーン!出ないって言ってたじゃん!」
(こういうお偉いさんには正体を明かしても問題ない。何せ、大事な役職の人間は口が硬いからね。)
頭に響くような声が赤い透明なドラゴンから聞こえてきた。
「自己紹介が遅れました。僕はイロアスといいます。こっちは」
(ムーンだ。しばらく世話になる。)
イロアスたちは自分の名前を言った。