51.それぞれの冒険
「これでよしと、ムーンも忘れ物はない?」
(持つ物が無いのに何を忘れるんだい?)
「…思い出とか?」
(忘れる訳ねえよ、こんな濃い思い出。)
「へへへっ、そうだよね。」
(えっと…今のは誰にも言うなよ。)
ムーンが顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。ムーン、恥ずかしかったのかな?
自分たちが準備を済ませて教会の外に出ると外の庭でみんなが待ち構えていた。
「ありがとう勇者、ムーン。あなたたちには随分と助けられたわ。」
「勇者さん、ムーン、ありがとう。沢山迷惑かけたけどとっても楽しかった!」
「ドラゴンさんたちありがとう!」
みんなからありがとうと聞くと何故か救われた気がした。
「どうしたの勇者?泣いてるわよ?」
(おいおい、大丈夫かよ?)
急に泣いてしまって心配させてしまった。落ち着いたら謝らないと。
「みんな、短い間だったけどありがとう。この出会いは一生の宝物だよ!」
(その言い方は今生の別れみたいだからやめときな。それだけ嬉しいってことなんだろうけど。)
「ブレスもありがとう。君は僕にとっての勇者だからね!」
「うんーそう言ってもらえてうれしいよー。アイスはここにいるし僕はまた旅に出るけどーたまに戻ってくるからー。」
ブレスはまた旅に出るみたいだ。今度は迷わずに帰ってきてくれたら困らないんだけど…
(あんた、ちゃんと帰って来れるんだろね?)
「僕だって一度行った場所はちゃんと覚えてるよー。」
自分たちはしばらく楽しい一時を過ごして互いに笑いあった。その流れのまま自分は教会を旅立った。
そのまま町に行こうと思っていたが、少し寄り道していくことにした。
自分は小さめの岩を爪で削って歪だけど石碑を作った。そしてそれに日本語で小さく名前と文章を掘った。
(相棒、それって…)
石碑には『ヨクト』の名前を掘った。
「あのスタンピードの一番の功労者はヨクトだ。自分はなにもできなかったからせめてもの償いだよ。あいつが僕に…この世界に残したものはとても大きい。だからこれを残そうと思ったんだ。大切な仲間だから。」
石碑にはこう掘った。
ーー
勇気ある心を持った我が仲間である終族ヨクト
彼はノックダーラの町を救いその姿を消した
その身を呈し町を救った彼を我が勇者の名の下に称えん。
勇者イロアス
ーー
その石碑の下にヨクトがくれた『終末化の結晶』を埋めてその上に刀を突き立てた。この刀に銘柄はないけどヨクトが使っていた刀だからここで供養する。
(…あんたの好きにやりな。あたいは口出ししねえからよ。)
「うん、ありがとう。」
自分はしばらく石碑に手を合わせた。
「じゃあ行ってくるよ、またね。」
自分はこの罪を背負って生きる。これからもずっと…
ーー
????の名前にイロアスが設定された。
ーー
(…そういえば名前なかったな。大っぴらに勇者とは言えないし助かるよ。まずは町に行ってどうぐやら薬やらを買いに行くよ。)
「薬って…自分たちならいらないんじゃない?ほぼチートみたいなもんなのに。」
(バーカ、人間のどうぐはメッチャ便利なんだよ?あたいたちじゃ思いつかない様なシロモノばっかり作りやがる。メシもうめえし知識も魔力もどうぐもあって、社会は不便だけど色々な面で恵まれてるよなー。)
この世界でも人間は優勢に立っているようだ。逆にモンスターは追いやられてる。姿や力が違うだけで共存の道はやっぱり難しいのかな?
【まずは人の姿を取れ。人々に不信感を持たれるのはこちらとしても困る。】
新しく覚えた【擬人化】を使うのか。上手くできるかな?
前にムーンが使ったときは言ってしまえば二足歩行のドラゴンになっていた。何が要因でああなったのかは分からないけどやるだけやってみよう。
自分は【擬人化】を使った。身体が小さくなっている感覚があって視界見慣れたものに変わった。
「どう…かな?」
(別にいいんじゃねえか、竜人と言えば言い訳ができるだろ?)
僕の姿はムーンよりかは人間に近かった。でも所々鱗があったり尻尾があったり角があったりとドラゴンの要素が残っていた。
「うーん、これじゃ敬遠される可能性があるな。何かで隠せればいいんだけど…」
【これを使うといい。お前たちが魔物から手に入れた布を洗浄し使えるようにした外套だ。角と尻尾はこれで隠せるだろう。】
魔方陣から出てきたのは茶色く色あせた外套だった。
【冒険者を装うために少し古びたデザインにした。これを纏えば多少は誤魔化せるだろう。】
外套を纏ってみると身体の大部分を隠せた。
けど、尻尾だけはこんもりしてて隠せてない。腰に巻けるかな?
うーん、あの戦闘民族みたいに細い尻尾じゃないから無理があるな。
仕方ない、力を入れずにブラブラさせておけば飾りみたいに見えるだろう。
【それと…お前たちにもう1つ渡す物がある。まずは受け取れ。】
出されたのは中に透き通った赤い石が内封された装飾品だった。中の石には触れないように透明なカバーがされているが、魔力を流しながらカバーを触るとを押すと左右にカバーが開いて中の石に触れるようになっていた。石の周りには警戒色が入っていた。
【それはお前たちの仲間が残してくれた石を元に作った、その名も…】
自分はこのアクセサリーで本当の切り札の意味を知ることになる。