5.【みやぶる】
本当はゲームの世界なのか?
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これまでの冒険を『冒険の書』に記録しますか?
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目の前にあらわれる文字。何も入っていないはずのカバンから分厚い本が飛び出して目の前に浮かぶ。そばには、うっすらと光る羽ペンと黒インクがあった。
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これまでの冒険を『冒険の書』に記録しますか?
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再びあらわれる文字。たったこれだけの文章なのに脅迫しているかのような感覚になる。
これを記録したらどうなる?もしかしたら殺されるかもしれない。ゲームだと便利に感じて安心を覚えられた『記録』それは今、自分の生死を分かつ分岐点となっている。どうする?自分!
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これまでの冒険を『冒険の書』に記録しますか?
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静寂が重しとなって自分をおさえつける。
【コマンド?】が自分に問い続ける。自分は答えを出した。
▽はい
羽ペンが光を強くして本に文章を書いていく。文字は日本語だった。自分が生まれてからの行動、経験、スキル、パラメータ全てが1ページ目に書かれた。
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『冒険の書』に記録しました。
続けて冒険しますか?
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終わりたくは無い。せっかく転生したのに、終われない!精一杯、あがき生き抜いてやる!
▽はい
答えると本が閉じて自分のことが記録されたページ以外が全て抜けて自分を中心にバサバサとまわる。そのページ一枚一枚には全て文字がびっしりと書かれていたが少しずつ薄くなっていき消えてしまった。全てのページが真っ白になってまた本に戻って再び静寂が戻った。自分は目の前で起こったことに理解が追い付かずしばらく呆然としていた。
〖ボクの試験をくぐり抜けたのは、キミが初めてだよ。〗
ゆっくりと抑揚が深い口調の男の声がどこからともなく聞こえてきた。
誰だ!
〖ボクはディレク。キミをそっちに送った張本人だよ。〗
考えてることが分かるのか?
〖もちろん、全部見せてもらったよ。キミをそっちに送ってからずっと。〗
教えてくれ。どうして自分をこっちの世界へ送ったんだ?
〖ボクがキミを車でひいてしまったからその償いだよ。ロプレが好きだったって聞いてね。〗
っ!?誰から聞いた!
〖キミの友だちからさ。そんなことはどうでもいいからボクからもキミに言っておくことがある。〗
何だ?
〖キミはボクの試験を初めて合格したまずはおめでとう。〗
淡々とした拍手が聞こえてくる。
〖キミはおもしろい、これかも楽しませてくれ、勇者なドラゴンくん。さあ、次のクエストだ。頑張れ。〗
声は 聞こえなくなった。
よし、きめたあのディレクとかいうやつのところに行こう、絶対。あいつに言いたいことは山ほどあるからな。
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ディレクター権限が使用されました。
スキル〖I????〗が〖IR???〗に進化しました。
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あの謎スキル、一文字増えた。でも、見られないところに変わりは無い。ディレクってディレクターのことだったんだ。あいつ、嘘の名前使ってたんだな。
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特殊スキル【真実の瞳】を覚えた!
とくぎ【みやぶる】を覚えた!
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またスキルが増えた。
【コマンド?】新しいスキルを教えて。
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【真実の瞳】
偽りを見破ったものが覚えるスキル。
ウソか真か分かるようになる。
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スキルは正直だな、うん。
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【みやぶる】
宝箱が敵かお宝かみやぶれる。
相手と自分の力量差が分かる。
どんな道具か分かる。
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めっちゃ使えるスキルやん。やば、絶対使えるこのスキル。いや絶対使う。重宝するわ。
よく考えてみれば、〖試験をくぐり抜けた〗って言ってた。つまり、自分以外にこういうことしたやつがいるってこと?うーん…考えれば考えるほど分からなくなる…まあいいか過去より今が大切だ。振り返るなってやつだな。
脱出できるスキルとかあればいいのに、と思いながらさっき戦ったゴーレムの情報を見てみる。
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【土ゴーレム】(ゴーレム族)
焼き固めてレンガにされなかった未完成のゴーレム。
守るものがなく作られた場所を徘徊し続ける。
固められなかったのは費用が足りなかったのがだいたいで少しかわいそうに思う。
推奨挑戦レベル20
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うん、奇跡だね。レベル3がどうしてレベル20に勝てたのか誰か教えて。勇者の力ってすげー!
そういえば、あの『勇』って何だったんだ?教えて【コマンド?】
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状態変化『勇気』
限りない勇気を放つものが得る状態変化。
致死ダメージ時1HPで耐える。
瀕死時与ダメージ25%増加(隠し効果)
未完成の情報
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耐えてダメージ増加ってヤバいコンボだな。でも、付与の仕方が『得る』としか書かれていないってことは誰かからもらうってわけじゃ無さそうだな。それに未完成って変な状態変化。
考えても分かんないし、とりあえず進もう。そう思った矢先…