46.通りすがりの勇者
自分とムーンはヨクトを探して町中を駆け回っていた。けどなかなか見つからなくてかなり苦戦を強いられていた。もしかすると、町から出ているか、見つからないようにどこかで隠れているのかも。
【何度も発信をしているが、応答がない。敵に捕まってしまった可能性も…むっ、強大な反応がぶつかり合っている?町の中心に向かえ!】
コマンドが何かを感じたみたいだ。自分たちは急いで町の中心に向かった。
町の中心に着くとヨクトと別の終族が激しい戦闘を繰り広げていた。
[久しいなヨクトォ!貴様が戻って来ないから死んだと思っていたが、こんな人間の味方をしていたとはな!相変わらずヘドが出る!このエクサに歯向かうとはその性根は腐りきったようだな!]
その終族はエクサと名乗り、ヨクトと面識がある言い方をした。相変わらず終族は自尊心が強いな。
[いいや、我は変わったんだ!もうこの力に慢心しない。我の強さは…貴様を破壊するためにあるんだ!どちらが真の破壊者か、決着を付けようエクサ。このステージは我が貰う。]
ぶつかり合っている二人だけど若干ヨクトが押されぎみだ。エクサも相当の手練れだ。
[ならばそのステージを我が奪うまで!行くぞ!]
二人がぶつかり合うと白い球体が現れてどんな戦いかわからなくなってしまった。うーん、加勢した方が良いと思うけど…
(こいつは終族同士のタイマンだ、水を差すもんじゃねえ。それに、手を出そうってんならヨクトがそれを許さねえだろう。なにせこいつはステージを賭けた決闘だ。あたいたちはこいつの行く末を見守ることしか出来ねえよ残念だけどな。)
自分は見守ることしかできないか…でもきっと何かできることがあるはず、何か…何か…あった!
周りを見渡すとメントたちが崩れた建物の影に隠れていた。
「メント!トルク!レングス!大丈夫か?」
近づいて確認したけど、多少砂ぼこりとかで汚れていたけど、ケガなどは全く無かった。
「コマンドに貰ったニホントウのお陰だ。切れ味が今までの剣とは桁違いだ。ヨクトがほとんどの魔物を蹴散らしてくれたから俺たちは大丈夫だ。」
レングスが持っていたのは柄が黒いシンプルな刀だった。少し血が滴っていたからいくらか斬ったんだろう。後で手入れをしないと。
(どうする?ここにとどまらせるか?)
確かにとどまらせてもいいけど、あの白い球がいつ爆発するかも分からない。ここは離れさせた方が良さそうだ。
「ムーン、レングスたちを連れてここを離れてくれ。ここじゃあ、いつ何時何が起こるか分からないからね。どこも安全とは言えないけど、少しでも安全な所まで離れて。」
(…分かった、ちゃんと生きて帰って来いよ相棒。)
「もちろんだよ相棒。」
自分は心配そうにこっちを見るムーンにサムズアップをした。ムーンはニヤリと笑ってサムズアップで返事をして町の外に走った。
しばらく待ったけど、白い球は動く気配もない。試しに【みやぶる】を使ってみると、中が丸見えになった。刀と拳と呪文を打ち合って激しい戦いが繰り広げられている。
【みやぶるか…不思議なとくぎだな。ここまで汎用性が高いとは我でも引くぞ。】
この【みやぶる】はたしかレベルが上がったときに覚えたんだっけ?ディレクが僕のデータに何か仕込んだのかな?便利だけど何かありそうだな、使う場面は考えないと。
それよりヨクト…今にも倒れそうだ。エクサもボロボロだけど、形勢はこっちが不利だ。あー何か話してるけどここからじゃ聞こえないー。
【では我のとくぎ、【ドクシン術】を見せてやろう。ふむ、どうやらエクサがヨクトを問い詰めている様だ。…何故この世界に味方するのかと…】
コマンドにできないことって無いんじゃないか?エクサは同族として人間を見下していたのにそれに味方するのが気に入らないのかな。
【ヨクトはこう言っている。…我は終族を変えたいんだ。この戦いに終末をもたらしそれぞれの世界に平穏をもたらすために。少なくともこの世界には平和がある。人間やモンスターたちが自ら求め戦い、勝ち取ったモノがな。そして我々には彼らを脅かすほどの力がある。だがこの世界はお前たちが全てを終わらせても絶対に終わらない。何故ならこの世界には優しさが、勇気があるからだ!】
コマンドがヨクトの代弁をしていると白い球が内側から爆発した。自分は飛んできたヨクトを受け止めた。
「ヨクト!大丈夫か?【大回復呪文】!」
自分はボロボロのヨクトにすぐ回復呪文をかけた。刀はまだ刀身が残ってるけど、刃こぼれしていて切れ味は悪そうだった。
[ああ、問題ない。とっさに勇気を全て解き放ったんだが、まさか白陣を破壊するほど強力だったとは…だがが5%と侮っていた我が浅はかだった。やはり勇者の力は侮れない。]
自分が回復を続けているとアイスを含めたみんなが戻ってきた。
「ムーン!アクア!ブレスたちも!ムーン、メントたちは?」
ムーンは居たがメントたちの姿がなかった。
(【透明化呪文】で隠した。流石だなヨクト、相棒に背中を任せたのは正解だった。)
[ははは、お前たちには助けれてばかりだな。]
自分、回復くらいしか大したことしてないけど…
[このドラゴンが…この世界が終族を変えたと言うのか?我々のスタンピードも止めるとは…貴様は一体何者だ!]
さっきの衝撃で吹き飛ばされたエクサは僕に叫んだ。こう聞かれたらこう答えるのが常識だ。
「通りすがりのドラゴンだ。覚えとけ!」
自分たちは構えた。