45.暗殺者の力
(相棒、ここはあたいに任せてもらう。)
あたいは相棒にのりうつった。
「ムーン、どうするつもり?」
相棒はあっさりあたいに身体を明け渡した。今さらながら殺しに来たってヤツを相棒にしちまうとか、飛んだお人好しだよな。
(まずは言わせろ。あたい、参上!どうするも何も作戦は一つしかないだろ?戦ってブッ飛ばすだけだ!)
あたいは決めポーズを取った。けど、ドラゴンは分からないと言わんばかりに首を傾げていた。
「ムーンらしい作戦だね。でもそれじゃさっきと変わらないと思うよ?」
(あたいはこう言う奴らを専門に殺ってきたんだ。ベテランをナメるんじゃねえよ。あたいの強さ、しっかりその目ん玉に焼き付けな!行くぜ行くぜ行くぜ!)
そっからは爪で斬って尻尾で殴って呪文で貫いたりしたけど、全く効かなかった。すぐ回復しちまうし、怯みもしない。それに目が鋭い。つまりこいつは…
ーー
【激状態】(状態)
目付きが鋭くなって凄まじく強くなる。道具、とくぎ、スキルによって付与できる。使用し続けることで解除できる。
ーー
あっ!コマンド先に言いやがったな!
【我は必要な情報を正確に素早く教えるだけだ。誰が先でも良かろう?】
まあそうだけどもよ、うーん…だあー!この話はやめだ!
(相棒、あいつは【激状態】っていうヤバい状態なんだ。あたいでもこいつを倒すのにも時間がかかる。だからあいつを一瞬でいいから止めろ。準備できたら合図を送り合うぞ!)
あたいは相棒の身体から出た。
「了解!アクア、ブレス集合だ!」
相棒は倒れそうになったところから翼で飛んで、アクアたちのところに向かった。あたいはその間に地面を隆起させてドラゴンを打ち上げた。
「………っていう感じで行くよ!今ならできる気がする!」
「ムーンに賭けるならそれが最善ね。ブレス頼んわよ。」
「任せて、ムーンよりは威力が落ちるけど、安定性には自信がある。」
コマンドを通して相棒のとの会話が聞こえた。何をする気だ?アクアたちはドラゴンを中心に散った。それと同時に相棒が合図を送った。あたいは【エレメントチャージ】を溜めた。
「【ストームトラップ】!」
ブレスがドラゴンの真下に風の陣を張った。
「【大閃光呪文】!」
「【いかづち】!」
相棒とアクアがブレスの魔方陣に呪文を打って陣に重ねた。なるほど、そういうことか!
「僕らのれんけい!【風陣雷閃】!」
トラップ系のとくぎは相手に特殊効果を付与する!それを狙ったのか!
(よくやった相棒!待たせたな、行くぜ!あたいの必殺技!)
ーー
ELEMENT CHARGE
100% FULL!
ーー
これがあたいの100%だ!
(【火炎一発】!)
「「【「えーっ!センスなーい!!!」】」」
あたいが火炎一発を打つと同時にドラゴンから離れたあいつらはあたいに向かって叫んだ。
(うるせー!!!百も承知だあー!!!)
ドラゴンを中心に大爆発が起こった。
「どうだ?」
あたいはすぐに相棒の所に戻った。煙が晴れるとそこには黒焦げのドラゴンが横たわっていた。あたいはゆっくり近づいて止めを差そうと構えた。
(…最後に言い残すことは?)
これは死んでいくヤツのことを忘れないためにするあたいのポリシーってやつだ。殺すってことはそいつを永遠にするってことだからな。
「済まなかった…怒りに刈られてあの様な力に手を出してしまった。今は反省している。といっても、許されないだろうな。」
(そうか、じゃあ…死ね。)
あたいが爪を振り上げるとそいつは静かに目を瞑った。あたいは振り上げた爪を…
胸に突き刺して心を盗った。
(これであんたの心は頂いた。魔王サンには依頼外の場合はドラゴンの命までは盗るなって言われてるんでね。しばらくはボーっとするかもだけど、直に新しい澄みきった心ができる。それまでにあんたの罪でも数えときな。)
「ムーンって、いつもこんなことやってたんだ。初めて見た。」
相棒はあたいが手にした【竜の心】をまじまじと見ていた。
(行くぞ、あんたたち。町から嫌な寒気がする。ヨクトたちに何かあったのかもしれない急ぐぞ。)
【勇者の相棒】の未来閲覧で見えたけど、何かの大爆発が起こる未来が見えた。さすがのあたいでもゾクッとした。あの規模ならこの地方一帯が焼け野原になっちまう。それに…相棒が涙を流してた。きっと相棒が望まない未来なんだ。何にせよ回避したいもんだ。
急いで町に戻るとあちこちに戦った跡があった。
「ひどい…一足遅かったみたいね。」
アクアが青ざめている。まあ、確かに一大事だね。
【魔力の残骸から見て、ヨクトが激しく、それも大量の魔物と戦ったらしい。まだ奥にも魔物が居るのを見ると倒しきれずに一度逃げたみたいだ。】
「急ごう。僕とムーンはヨクトを探す。アクアは魔物の討伐を。ブレスはアイスの所に行って。大丈夫だろうけど心配だ。コマンドは戦況の報告と仲間との連絡を随時頼む。ここが山場だ、魔物たちに一気に畳み掛ける!」
「「(【了解!】)」」
あたいたちはそれぞれに別れて走った。
(あんたもずいぶんたくましくなったな。少し前までひ弱だったあんたが懐かしいよ。休む暇なくずっと戦い続けてよ…すごいよあんたは。)
走り続ける相棒の後ろを飛びながらしみじみと言った。
「勇者なんだから当然でしょ?まあやっかいごとに巻き込まれやすい体質には困ってるけどね、これでも疲れてるんだから。」
(じゃあこれが終わったらしばらく冒険を休もうか。無理に冒険しても楽しくないし何よりハリってもんが無えからな。)
「ムーンやけに優しいね。何かあった?」
(休みが無いと身体壊しちまうだろ?特訓も厳しいだろうけど、身体を壊さない程度にしてんだからちょっとは感謝しろよ。まあ、あんたの体質が休ませてくれないだろうけどな。)
言い訳かもしれないけど、気持ちを言って少しだけスッキリした。こいつはトラブルを引き寄せるいや、トラブルから来る?まあどちらにせよ困ったもんだね。けど、何もない冒険より楽しいな。