36.過去と追憶
急なクエストになるけど、自分もムーンに賛成だ。自分たちの冒険は過酷になる…いやそれ以前に子どもを冒険に連れていくのは危険が多すぎる。自分がもっと強ければ…
「いーや、こいつらとはなるべく早く別れるべきだ。ただのお荷物だからね。」
ムーン!その言い方はあまりにもひどいじゃないか!
(連れて歩くには重すぎるってことだ。あたいはこいつらの命を背負ってまで連れていくことはできない。共に戦う意識のあるヤツしか連れて行けないんだ。持っていくのは必要最低限だけにしておけ、背負いすぎたら走れないよ?命ってのは覚悟のあるヤツにしか背負えない大切なお荷物なんだ。あたいたちのカバンはまだ空っぽだけどな、あんたが勇者だからこの先も必ず背負う荷物は増える。だから今は空けておけ、ときには残酷にならないと命一つだって救えやしないぞ。)
ムーンの言っていることも正しい。たとえ力があってもみんなを守り切れないかもしれない。それなら始めから守れないやつは連れていかない方がいいってことだ。
結局は弱肉強食ってことか。その日は行く方角を決めて一日が終わった。
その日の夜、自分はムーンの言葉について考えてたら眠れなくなってしまった。どうしよう、明日も忙しいのに…
〖悩んでるね、勇者くん。〗
っ!ディレク!
〖やっぱりキミは面白い。この選択でキミはどの道を選ぶのかな?〗
決まってるさ、あの姉弟を安全なところに…
〖本当にそう簡単にいくかな?彼らは『ワノオオカミ』すでに絶滅した種族なんだ。彼らが普通の村や街で穏やかにすごせるとは思えない。さあ、彼らをどうする?見届けさせてもらうよ、勇者くん。これはほんの心ばかりの贈り物だ。これを使って、世界を掴めるかはキミ次第だよ。〗
本当に掴めないヤツだ。一体どういうつもりなんだろう?…ただの傍観者とは思えない。
【むっ勇者よ、何かふくろに新しくだいじなものがあるんだが何か知らないか?まさかあのディレクの仕業か?】
「その通りだよ。コマンド、出してくれる?」
【夜更かしは身体に良くない。この書物を読むより睡眠を取るとこを勧める。】
「えーっ!ちょっとぐらい、いいじゃん!」
【うむ、しかしだな…】
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」
【…やむを得まい、強制的に眠らせる。悪く思わないでくれ。催眠、心身を睡眠させる。】
1週間寝てないくらいの眠気が自分を襲ってきて、倒れるように寝てしまった。
「コマンド、効き目強すぎ…」
【覚醒、睡眠を解除する。すまない、まだ使い方が慣れなくてな。】
「もう朝か、一瞬だったけどすごく疲れが取れた気がするよ。やるときは一言言ってよね。」
【怒ったりはしないのだな、次からはそうするとしよう。】
そう言えば、コマンドって僕のことを支配できるよね?本質はドラゴンだし身体が欲しいとか思わないの?スキルも作れるんだし、何だってできるのにどうしてコマンドのままでいるの?
【始めは嫌だったが、この身体でいる内に捨てたものではないと思い始めてな。情報も見放題、好きなものも作り放題、暇な時間も多いし何より我を頼ってくれるお前たちがいる。確かに我はお前にのりうつることも可能だ。だが、必要以上にお前の身体に負荷をかけてしまう。我はスキルの研究を続けよう。それと、あのそうびについてもな。】
あのそうび?どこでそんな情報仕入れたの?もしかしてさっきディレクからもらったあの本?
【察しがいいな、すでに調査は終わっている。あとは媒体があれば実体化できるのだが…】
「媒体ってどんなのがいいの?」
【魔力が込められる結晶だ。そうなるとコストがかかるし、何より出回っている数が少ない。難しいところだ…】
「うーん、冒険を続ければその内見つかると思うよ。大変かもしれないけど、きっとその分価値があると信じてるよ。」
【…期待はしない方がいいがな。また呼んでくれ。】
…ドラゴンってツンデレが多いのかな?あっ本取り出すの忘れてた。と思ったら本がいきなりあらわれた魔方陣から飛び出してきた。驚いてあわてて受け取った本の重量感がその情報量を教えた。本の名前は…『追憶の書』?
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【追憶の書】(大切)
かつてこの世界を駆け抜けた冒険者たちの記憶が書かれた分厚い本。
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これって…!冒険の書にそっくりじゃん!自分は本の表紙をめくった。
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19人の様々な種族たちは誰にも知られずに世界の闇と戦った。
我々の記憶と遺物がいつかあらわれる勇者の力となることを信じている。
原始の竜ファスト
ーー
(ファスト…!)
うわっ!ビックリした。本を開いていたら突然ムーンが自分を通り抜けて本にしがみついていた。掴めないのに。
「ムーンどうしたの?このファストってドラゴンのことを知ってるのか?」
(ああ、あたいが…最初に暗殺したドラゴンだ。)
「マジで!?世間って本当に狭いねー。」
(ふん、下らねえ。あんたそもそもファストと関係ねえだろ。それと他のヤツらはもう起きてメシ食ってるよ?さっさといくよ。)
「ああっ!そういうのは早く言ってよ!コマンド今の時間は?」
【今の時刻は7:30だ。】
「大遅刻だあ~!!」
(…冒険に遅刻なんて無いのにねえ。)
あっそうだった。