35.トルクサイド
私は奴隷として弟と一緒に売られるはずだった。両親は人間に殺されて、かくまってくれる人も居ない。私たちはずっと二人で生き続けた。村や町を転々と周り、なんとか食いつないでいた。でも、ある時に奴隷商人に見つかり…
そして捕まった。
奴隷にされるくらいならせめてメントだけでも逃がそう思った。あの馬車で運ばれているときに逃げるつもりだった。でも、その願いは通じなかった。ドラゴン号が襲ってきた。目が真っ赤でとても怖かった、私は死を覚悟した。でも、気がつくとドラゴンがいない森に居た。一瞬飛ばされた気がしたからきっと見てた誰かが魔法で逃がしてくれたんだろう。メントも近くに居て安心したら、気が抜けて気を失った。
気がつくとメントが私をじっと見ていた。
「トルクお姉ちゃん大丈夫?」
「メント、私は大丈夫よ。」
メントもついさっき起きたみたい。身体が治療されていて、多分私たちを飛ばしてくれたわれ人がしてくれたんだみたみた起こした。茂みから顔を出したのはドラゴンだった。
「…えっ。」
ドラゴンだった。
えっドラゴン。なんでドラゴンなの、どうしてここにいるの!?身構えてドラゴンと距離をろうとしたとき、人が来た。その人はドラゴンと言い合っていて仲間みたいだった。ひょっとしたら食われわれわれるかもしれない。逃げようとしたがメントは足がすくんで動けないようだった。急にドラゴンがあらわれて動ける方がすごいか。私はどうにかして弟だけでも逃がそうと思ったけど…
「いいいいやあ、げげげ元気そうでよかったー。」
うん、あの固まり方はウソじゃない。
色々話して私はドラゴンに乗せられてあの人の拠点に連れていかれた。拠点と言っても、夜にたき火を焚いても森の木に燃え移らない程度に広い場所なだけ。荷物も特に置いてなくて毛布さえもない。ドラゴンたちにくっついて寝るの?
「アクアさん…でいいのかな?」
私たちが乗ってたドラゴンのアクアはうなずいた。何かを必死に伝えようとしてるけど私にも分からなかった。
「…あー、聞こえるー?テレパシーって難しいよねー。」
頭に響く声が聞こえた。誰なの?
「僕だよー、びっくりさせちゃったかなー?ごめんねー。アクアはキミの名前を聞いてるんだー答えてくれるかなー?」
私が名前を言おうとしたらメントが先に名前を言った。ちょっと負けた気がして悔しかった。
「へーメントとトルク、つながりがある名前だねー。種族は…『ワノオオカミ』と言ったところかな?つい最近絶滅した種族だって聞いてたけど…」
こいつら…!やっぱり私たちを狙ってた!私はメントを突き飛ばしてブレスに飛びかかった。でも、ブレスが前足をかざして風を起こして私を止めた。
「おっと、大丈夫だよー。ただの興味だからー。ただこの時代には珍しいと思っただけ。そもそもキミを悪用するアテも無いしー。」
私が拳を収めるとブレスも風を収めてくれたけど私はただただ恐怖しか感じなかった。
「あー…怖かったー?ごめんよーそんなつもり無かったんだー。ドラゴンは慣れてるんだけどなー人間とまともに話したことがなくて…」
なんか…可愛い。ドラゴンってゴツゴツしてるイメージだけど、飾りがないシンプルなドラゴンだった。
「いま戻った。ったく、どーにも口を割らねえな。」
「俺は絶対に何も喋らないぞ。たとえどんな拷問を受けてもな。」
「ギャルル…」
あの男…!奴隷商人!私はとっさに身構えた。
「警戒心はちょっとは解けたと思ってたんだけどねえ…」
「あなたじゃない。その男!」
「大丈夫だ。しっかり釘を打ってるからよ。逆らったら…な?」
男がビクッとして顔から血の気が引いた。すごく怯えてる、しっかりと釘が刺さってるみたい。この人見た目通り強いけど、それと同じくらい優しい。
「あーっと、自己紹介が遅れたな。あたいはムーン、しがないドラゴンさ。一応言っとくけど、このバカはレングスだ。」
「えっ、ドラゴン?」
「ああ、何か問題でも?」
「グゥー…」
側にいるドラゴンも呆れていた。確かに言われてみれば、あのドラゴンとも話している様なときもあったし、見た目もドラゴンっぽい。
「あん?そんな大事なことつらつらと話すなって?大丈夫だ、あたいにも考えがあるからよ。」
やっぱり、気を許す訳にはいかない。私たちはこのドラゴンの牢獄に捕らわれているのだから。
「ギャウルル、ルルルアッ。」
「まあ確かに予定からは大幅にズレるけど、仕方ないね。じゃあクエストの再確認だ。『こいつらを安全な場所に送り届けること』そして『レングスから奴隷について聞き出すこと』今受けてるクエスト『属性竜のアイスに会う』は一時保留ってことで。大丈夫だよな?ブレス。」
「うんーアイスはそう簡単にやられないし見つからないから。大丈夫だよ、何かあったらすぐ教えるし。」
えーっとつまり、今受けてるクエストをほったらかして私たちのことを優先してくれるってこと?
「どうしてそこまでしてくれるの?」
「困ってるヤツを助けられるなら助ける。あたいみたいなヤツをこの世界から出さないためにも、あたいはそいつに手を差し伸べたい。ずっと暗闇で生きてたあたいだけど、未来のためにそうしてやりたいんだ。」
「未来のために…」
そのときのムーンの目は少しだけ寂しく見えた。