34.話をしよう
さてと、まずは…この空気をどうにかしようか。今、自分たちと姉弟の二人の間では沈黙の激闘が繰り広げられている。
あの後、兄弟たちが起きたらしく、自分たちは一緒に行動しようと説得するためにムーンのスキルが使って人間…というよりも2足歩行のドラゴンになって話しかけたんだけど…
気まずい、ものすごく気まずい。死んだと思っていたのに生きているところに草むらから出てきた訳の分からないドラゴンっぽい人間とまんまドラゴンの自分が出てきてムーンの第一声が「よお!元気かい!?」って!まさしくKYだよ!空気読めてないよ!ムーンどうする、どうするこの空気!
「あなたたちは何者?」
お姉ちゃん冷静!でも、警戒してるな。弟は怖がってるね。さあ、ムーンは当然の如く冷静に対処…
「いいいいやあ、げげげ元気そうでよかったー。」
ガチガチじゃねーかー!!
「おいムーン!いつもの冷静さはどこに置いてきたんだよ!」
(仕方ねえじゃねえか!会話の繋ぎかたは分かっても、人間とは話したことがねえんだよ!あたいだって緊張ぐらいするさ!)
「あがり性?あがり性なの?面接で急に聞かれたことがない質問されて言葉が詰まる新人就活生によくあるあれなの?」
(あたいがそんなわけないだろ!一回話したら緊張解けるからちゃんと見てろ!)
「な、何を話してるのよ!私たちはそのドラゴンのエサ?」
おう姉ちゃん、自分は人間を食べるほど落ちこぼれちゃいないさ。それに、自分の言葉が分からないのか、ドラゴンの言葉は人間には通じないみたいだ。
「なに、取って食おうって訳じゃねえよ。ただ、面白そうだったから首突っ込んだだけだ。大丈夫、首突っ込んだことには最後までやり通すのがあたいの主義でな。」
やっといつも通りのムーンになった。確かにムーンはあのドラゴンとの戦いのとき、最後まで向かっていったもんね。
「そのドラゴンは?」
おっ、ついに弟が動いた。僕のことを指差している。こら、人を指差すものじゃありません。あれ、ドラゴンか?まあ、どうでもいいか。
「ああ、あたいの相棒だ。付き合いはあたいの仲間の内では一番長い相棒さ。もう大丈夫そうだし呼ぶか、アクア!ブレス!来てくれ。」
さすがムーン、まるで弟が自分に興味を持つことを待っていたかのように綺麗な流れだ。
アクアとブレスが近くの茂みからガバッと出てきた。自分とムーンは分かってたけど姉弟はびくっとしてた。
「アクア、ブレス。こいつらを頼めるか?拠点で待っててくれ、あたいと相棒でやることがあるからよ。」
とは言ったものの、姉弟はとまどっているみたいだ。そりゃあ急に来たドラゴンに命を預けるなんて早々できないよ。
「大丈夫、こいつらはあんたたちを食ったりしないさ。青い目のドラゴンはアクア、こう見えてほとんどの魔法が使える賢者だ。よくドジるのが玉に傷だけどね。緑のドラゴンはブレス、のんきでつかみ所がないけど強さはピカイチだ。二匹共頼れる仲間さ。」
元はドラゴンということを隠しつつ目の前のドラゴンが安全だと信じさせるために軽い紹介を挟んだのか。ムーンはさすがだなあ。
「ほら乗って!私たちの拠点まで案内してあげる!」
おっと、姉弟が首をかしげている。どうやら言葉が通じていないみたいだ。
「あー…〖テレパシー〗の努力には感心するけど、まだまだだね。乗せてくれるってよ、乗りな。」
アクアは【テレパシー】で直接会話しようとしたみたいだけど、まだ未完成だったみたい。お姉ちゃんは警戒して乗ろうとしないけど、弟はそんな姉を無視して頑張ってアクアに乗ろうとしている。
「ほら乗りな。大丈夫だ、あたいたちも後で行くからよ。」
ムーンは姉弟を持ち上げてアクアに乗せた。アクアはその瞬間に走り出した。遅れたブレスもアクアを追いかけた。
「さて話をしようか。おい起きろ、生きてんのは分かってるんだ。いつまでもシラを切り通せると思うな。」
ムーンは両腕をアクアお手製の魔力の紐で縛られて倒れたままの奴隷商人の男を軽く蹴って起こしたけど、目をつむったまま起きる気配はない。
【気をつけろ、来るぞ。】
コマンドがそう言った直後に男は縛られた腕を器用に使って蹴ろうとしてきた。コマンドに言われて構えていた自分は男に飛びついてその足を前足で受け止めた。ムーンはそれに合わせて男の首を掴んだ。
「いい度胸してるねえ、この圧倒的不利な状況であたいたちから逃げようとするとは褒めてやりたいところだ。まあ落ち着け、聞いてたかは分かんねえけど、殺しはしねえよ。ただ、あたいたちは話がしてえんだ。いいかい?奴隷商人。」
男はそれを聞くと抵抗しなくなった。ムーンが威圧していて勝てる気がしないから抵抗しないのかもしれないけど、落ち着いてくれてよかった。
「あたいはムーン、こっちのドラゴンは勇者サンだ。と言ってもまだまだ弱いけどな。あんたは?」
「…名乗りはしない。呼ぶならレングスと言え。それと、何をされようが口を割る気はない。俺は人質なんだろう?俺の仲間はこんなことをしても何も言わないし簡単に俺のことを捨てる。」
偽名か…まあ会話ができただけ良しとするか。
「言っただろう?あたいは話をしたいだけだ。あんたがその気になるまで待つ。ただし、自由に動けるのはあたいたちの近くだけだ。逃げたら殺す。」
しっかりと脅したね。まあこの言い方なら逃げることはないだろうけど話はできないだろう。自分たちはこのレングスから奴隷について聞き出そうとしたんだけど…粘り強く待つしかないか。一緒に居ればその内話してくれるかな?
作者にとって特別な日と時間