31.ムーンサイド
「さあ行くぜ相棒。」
相棒はあたいの実体の右に立って構えた。
(ああ、勇者サン。いつもと逆だけどな。)
あたいも左に立って相棒と背中合わせに構える。
「(同調!)」
互いに爪をぶつけ合うと緑と青の光が1つになった。あたいはその瞬間に相棒に吸い込まれるように入った。
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新しいドラゴンが誕生しました。
命名権が与えられます。
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螺旋状に緑と青の鱗がある身体になっている。二足で立って、アイスのときよりも随分デカくなった。目は左が赤で右が青のオッドアイだ。
(吹雪のように荒れ狂う力が身体の中に閉じ込められてるみたいだ。あたいたち自体が吹雪みたいな存在になってるのか。)
この姿だといつも以上に力を感じる…身体が保つか?いいや、保たせてみせる!構えてドラゴンと間合いを取る。
ドラゴンが炎を吐いた。あたいたちはそれに合わせて〖スノーストーム〗を吐くと、ドラゴンのブレスが消えてついでにドラゴンを吹き飛ばした。翼で体勢を整えたドラゴンはこっちに向かってきた。
あたいはブレスの力を使って気流を乱して体勢を崩し、相棒はアイスの力で翼を凍らせた。制空権を失ったドラゴンはそのまま地面に墜落した。
(さーて早いけど、お片付けの時間だ。一気に決めるぞ。)
「うん、ここで止める!」
足を広げて腰を落とした。
「(フローズンエクストリーム!!)」
ドラゴンに向かって飛んで。間合いに入ったら、前足の両方の爪に力を込めてドロップキックを脳天に叩きつけた。
すると何かが流れこんだような気がしてドラゴンは気を失って倒れた。どうやら成功みたいだ。
一息つくと、身体に激痛が走って同調が強制的に解けてあたいも相棒の体から弾き飛ばされた。
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フレイドラゴンをたおした!
2198Pの経験値と1063Tをかくとく!
勇者はレベルがあがった!
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(おつかれさん。大丈夫かい?)
「すごく疲れたよ…でも、せめて立たないと…」
相棒は動きにくい身体を引きずって立った。
(おいおい、無茶すんな。ただでさえボロボロなのに。)
「ドラゴンが倒されたフリをしているだけかもしれない。ここで倒れる訳には…」
ドラゴンがむくりと起き上がって辺りをみわたした。さっきまでの殺気は感じられないし大丈夫っぽいな。
「ああ…我は一体何を…」
「今までのことを覚えていない?」
(終王の呪いを受けていると本人の意識はない。ただ、そいつの壊したいとかそういう負の感情?っていう奴を増幅させてるんだ。逆鱗とほぼ同じ状態だね。違うところは一つ、逆鱗はある程度のところでストッパーがかかるようになっているが、呪いはそいつが死ぬまで止まらないってとこだ。)
「かかる原因はある負の感情が一定まで達したときに…って感じかな?自分もこうなっちゃうかもしれないのかな…」
この世界で生きる限り付きまとうリスクに先が心配になってるか。
【大丈夫だ、我がいる限りそのようなことはさせぬ。我を信じろ。】
「ドラゴンも大丈夫そうだし、早くアクアたちと合流しないとな。」
相棒は身体を引きずってその場を離れようとした。
「お前が我を助けてくれたのだろう、せめて名と礼を…」
「そう言えば自分って名前無かったんだった。どうしよう…正直に言おう。ごめん、自分に名前はないんだ。ただこれだけ、自分は勇者だから…気が向いたら覚えてて。それとお礼はいらないよ。君が生きてただけで自分はうれしいから。」
おいおい、倒れてきてんぞ?大丈夫か…って!きぜつしてんのかよ!
(【のりうつる】っ!あっぶねえ。ったく、毎度毎度無茶しすぎだっつーの。属性竜の力は身体に合ってないってのに色々強力すぎだ。【コマンド?】どうにかなんねえのか?)
のりうつっただけでも身体が疲れてるのが分かる。必要以上に動くのは身体に毒だね。
【覚えるのなら使いたくなるのは勇者の心理の問題。我は調整して少し負担を軽く程度しかできない。何でもかんでも我のせいにするな、亡霊。】
いくら勇者とはいえど相棒も生きてる。こんなこと続けてたらいつか壊れちまうから止められるようにしてくれ、スキルやろう。
「その声と瞳、お前は暗殺者だな。それとお前は…名は伏せるが、なぜそのようなことになった。」
げっ、あたいらのこと完璧に知ってやがる。なるべく知られないようにしてるけど、意外に知れわたってるんだな。てか何でコマンドのことまで知ってるんだよ。
【コマンド?】説明しろ。
【…すまない、今はまだその時ではない。悪いがこれ以上の詮索はしないでくれ。】
ちっ、お得意の秘密主義かよ。まあいいけどよ、いつか口を割ってもらうからな。
(何であたいとコマンドのこと知ってんだよ。答えによっちゃ容赦はしねえぞ?)
第一あたいはこいつとは初対面だ。なのに、のりうつったときの特徴を完全に把握してやがる。
「そのコマンドとやらは嘘をついている。我は時を司る竜だ。」
(時を司る…って!あんたみてえな大層なドラゴンが何で終王の呪いにかかってんだよ!)
「いやー、時についての思想を膨らませていたら、我に対してなぜか嫌悪感を感じてな。イライラとしていたんだがそこからの記憶はない。」
はあー全く、何でドラゴンはいっつもこんな奴が多いんだか…のんきなのか、バカなだけなのか…
「お前たちには迷惑をかけた。手短に一つ、我から謝礼だ。」
そう言うとドラゴンは勇者サンの真下に魔方陣を作った。緑色の魔方陣ってことは付与術式?
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固有スキル【時の子守唄】を覚えた!
特殊スキル【人を志す者】を覚えた!
とくぎ【竜人変身】を覚えた!
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なんか、色々と追加されたな。普通、付与術式は一時的なもの。例えるなら強化系とかそういうのしか付与できないはずだけど…
(【人を志す者】?あたいは人間に興味を持っただけで別に人になりたい訳じゃないんだが…)
「我は知っているからな、お前たちのことは全て未来で見てきた。モンスターと人間が協力し合うことがこの世界の鍵を開く。これはほんの欠片にすぎない。」
欠片ねえ…。あたいらのやることは全部お見通しって訳か。
胸くそ悪いけど依頼は出てないし殺さないでおくか。
(…事情は大体分かった。ここはありがとうと言っとくよ。色々聞きたいことがあるけど、今は聞かないでやる。)
「それは助かる。じゃあ、またどこかで会おう。」
それをいうなら”いつか”だと思うけどな。と言いたかったがそこは心にしまっておいた。
ドラゴンは目を放した隙にいなくなっていた。変な奴だったねえ…
【……………】
気がつけば閲覧数3000回まで来ました。いつも見てくださる皆様には感謝してもしきれません!ありがとうございます!
頑張って定期更新を続けますので何卒よろしくお願いします。
これを記念して投稿します!明日も投稿しますので是非見て下さい。