24.アクアサイド
そうね、あれはもう30年くらい前の話になるわね。
…おばあちゃんじゃないからね。
私はまだ人間で魔法学校の6年生だったわ。
…そんなに幼くないわ、10歳くらいのときよ。背丈は勇者様の体長より少し長いくらいかしら?
魔法も薬も天才的って言われてたわ。人一倍努力を惜しまなかったから天才とは言えないけどね。
…謙遜してるってよく言われるし、私のことをよく思ってない人も多かったわ。
私の名前は学校の中だけじゃなくて世界にも知れ渡っていたわ。
1000年に一人の逸材とかなんて言われてたわ。ついた異名は【大魔道師】。
そんなのだから誰も私を相手にしてくれなかったわ。一人を除いてね。
…別にその子を放って置いた訳じゃないわ。
卒業も間近、各国がこぞって私を専属魔道師にしようと学校に書簡を送って来る頃ね。
…自慢じゃ無いわ、あきれてるの。
私は夜更かしして卒業論文を書いているときだったわ。
急に視界が真っ暗になったの。口も押さえられて声も出せなかった。一瞬だったわ。
それで多分袋詰めにされたのね、しばらくの間揺られてたわ。ついでに眠かったから寝たの。
…のんきすぎるって?眠気には抗えないって言うでしょ?
起きたらそこは質素なベッドの上だったわ。
怖そうな人たちが私に迫ってた。逃げようとしたけど身体が上手く動かないし、固定もされてた。
魔方陣が私の身体に書かれた。あれは私でも分からない術式だったわ。
…複雑といえば複雑だったし、まだ術を繋いだだけの継ぎはぎだったわ。つまり私は実験台だったって訳。
術が完成したとたんに身体中に激痛が走った。まるで何かに書きかえられるような…そんな感じだったわ。必死に抵抗したわ。まだ生きたいし、もっとやりたいことがあるから。
…どんなふうにって、もちろん魔法で。卒業論文で発表しようと思ってた【魔法合成式】を使ったの。【タス】【カケ】【ヒク】【ワル】の四つを呪文と呪文の間に挟むことで新しい呪文を作り出すことができるの。…たしかにあの【氷旋風結呪文】も使い方の一つね。
記憶と身体を削られながらもなんとか勝てたわ。身体は負けたけど。完全にドラゴンになってた。
そこで気を失ったの。結局実験台で私の人生は終わるのねって思ったけど、どういう訳かどこかの森に放り出されてたの。
周りを見渡しても誰もいないからしばらくぼーっとしてたわ。
そしたら声が聞こえてきたの。頭に響くような不思議な声だったわ。
そいつは『古代竜の魂』と名乗ったわ。ドラゴンはキレイな身体があればそれに見合う魂が宿るらしいからその魂のことと私は解釈するわ。
…憶測で語らない方がいい?でも正確な情報がないから憶測しか出来ないのよ。そこも含めて言うわ。
魂の話だと一時的に私の身体を支配してあの研究室から逃げたらしいの。でも研究所からは出られなくて森に逃げたら力が途切れ始めて私が起きたんだって。
どうしてそんなことをしたのって聞いたら、生きたいって願ってたから。それにいずれ消えてしまう心なら未来あるお前にこの身体を託したいし、その身体なら強力な魔法にも耐えられるだろうってさ。
…半分くらい自分勝手って?それは言えてるわね。でも魂なりの優しさってやつよね。
それ加えてに名前も聞かれたけど忘れちゃったのよね、きっとドラゴンに呑まれかけたときに削られたのよ。
そしたら魂は名前を預けるって言って『イーシク・アクア』って名前を私に名づけたの。
…本当の名前は今も思い出せないの。でも、この名前も気に入ってるわ。
…そうよね、預かってるってことはいつかは返さなきゃいけないわよね。でもそうなったら私の名前はどうなるのかしら?…そのときには私の名前は戻って来てるわよねたぶん…。
それだけ言ったら魂は私に吸い込まれるように消えたの。
ちょっと戸惑ったけど、その名が消えぬ限り我もまた消えないって言ってたから大丈夫だと思う。
…優しすぎる?確かに他人行儀すぎるところがあるのは自覚してるけど、これが私だから。
【転移呪文】を使って脱出した後、私は学校にこっそり自分の杖を取りに行ったの。私が人だった証拠をね。
それからは旅をしたわ。行き先なんてないただただ自由に気の向くままにね。
この身体ならではのトラブルや楽しいこともあったわ。昨日みたいに密猟者に追われるときもあったし、モンスターたちから魔物の討伐を依頼されるときもあったわ。
…モンスターと魔物の違い?必要以上に他の誰かを襲わないのがモンスター、全てを破壊しようとするのが魔物、全くの別物よ。
そんなある日、私は魔物に襲われてた人間の子どもを助けて村まで送って行ったときに依頼を受けたの。
近くの洞窟の奥地にあるほこらを調べて守ってほしいってね。
…安請け合いしすぎって?自覚はしてるわよ…でも、色々もてなしてもらったから断るに断れなくて…
で、洞窟に入って拠点を作ったわ。私が倒れた勇者様を運んだところよ。それができたら次はほこらを調べに行ったわ。それから、やっぱり誰か守る人がいないといけないと思って魔法で簡単なゴーレムを作って…
えっ、ちょっと!どうしたの勇者様!?ぎゃあああああああ!!!!!…