22.ムーンサイド
ったく面倒なヤツだな、あたいの相棒は。
アクアは生き返ったけど、相棒は魔力不足できぜつしちまった。
きぜつした勇者サンの中に入れねえからすぐに起きてくれたアクアが勇者サンを運んで拠点に戻ったって訳だ。
今はアクアの【再生呪文】で体力の回復を待ってるけど、この調子じゃ今日中に起きるかどうか…
せめてあたいが【大蘇生呪文】を使えればこんなことにならずに済んだのによ…あたい、ホントにここにいて良いのかねえ…
良いって言われそうだけどな。
(アクア、あんた休みな。さっきまで死にかけてたんだから目に見えてフラフラだし、あんたまで魔力が尽きたら面倒見切れねえぞ。)
アクアは肩で息をしていて、呪文の効果も途切れ途切れになっている。
魔力の枯渇は命に関わるのはアクアが一番よく分かってるはず。あたいもそのせいで消えかけたこともあったからな。
「でも…私のせいで…こんなことになったから…」
あー、また長くなりそうだ。
じれってえ!うじうじ言うのはやめだ!
(いい加減休めよ!これ以上…心配かけさせるなよ…)
やべえ、思ったこと全部言っちまった。
思ったより声を張ってたみてえだから、若干気圧されてる。
(その…わりい、思わず…けど今のは本音だからな。あとはあたいが見てやるから、食えるならメシ食って、寝ろ。明日起きたときに目の下にクマでもできてたら、【催眠呪文】かけてでも寝てもらうからな。)
「ふふふっ、うん…ありがと。」
礼なんていらねえよ。と言おうと思ったけど、それよりも先に照れくさかったからアクアから目をそらした。
多分今の顔は赤カラシみたいな色だろう。鱗の色で分かんねえだろうけど。
赤カラシってのは赤くて小さくて辛え野菜だ。
勇者サンの記憶で言うなら…トウガラシとか言うやつだな。
なんか、嬉しそうに笑われた気がするけど聞かなかったことにしよう。
…あの世でうまくやってるかねえ、ファスト…あんたは今のあたいの顔見たら、なんて言うかねえ…
あたいは一面の星空を見上げながら顔を冷ました。
…ん?寝ちまってたみてえだな。
朝か、生まれて初めて寝たなー。あたいも気が抜けてきたか?しっかりしねえと。
っ!勇者サンがいねえ!アクアは通常運転でいびきかいて寝てるど、一体どこへ行っちまったんだ!?
【気配察知】を使って探すとほど近いところに居たからすぐそこに向かった。
高速で飛んでいる途中に勇者サンの反応があった方で爆発が起こった。
何かあったのかもしれねえと思って全速力で向かった。
(勇者サン!いるか!)
爆発で木が燃え尽きたり、なぎ倒されていた。
半径100Mくらいだろうか。
その中心に勇者サンは倒れていた。
(大丈夫か!勇者サン!何があったんだ!)
声をかけても微動だにしなかったから首すじを触ると、まだしっかりと脈があった。
ちょっと心配したけど、よかった…
「ちょっと…新技の練習をしてて…」
呆れて言葉も出ねえよ。ため息しかつけねえ。
【ゴースト】を解除して、勇者サンを背負った。ついでに【再生呪文】の上位の【持続再生呪文】もかけておく。いくら起きたと言ってもまだ起きたばかりで回復力があるとも思えねえからな。
(それで、いい技は思いついたのかい?)
勇者サンが作った爆発の跡を通りすぎて森に入ってしばらく経つけど全く会話がないしちょうどいいから聞いてみた。
「いくつか思いついたよ【いかづちの爪】でしょ、【時間逆転打ち】、【地球打ち】、【閃光火炎の息】とかかな。」
結構考えてたんだな。といってもまだ取って付けたような仮の技だ。ちゃんとしたとくぎになるのはいつになるかねえ。【閃光火炎の息】とかアクアの呪文のヤツを意識してるな。
(【照明呪文】と【雷呪文】はどこで覚えたんだ?あれは条件進化の状態でしか覚えられないんじゃ…)
「起きて確認したらこの初級のヤツだけは残ってたんだ。条件進化の影響だと思うよ。」
勇者の力って便利なもんだな。苦労せずに力が手に入るんだからよ。
「そんな!自分だって苦労はしてるよ!前世じゃいろいろ失敗してるし…」
え?
「あ、やば…」
何で思ったことが分かったんだ?まさか〖失われた勇者〗のスキルを通して…でもあれは不完全で使えねえはず…
「ちょっ!それすぐにロックして!…ロックってのは…とにかく使わないで!プライバシーの侵害だから!…プライバシーってのは…あーもう!自分の記憶見てよ!いいから!…本人がいいって言ってるんだからいいの!」
…さっきから誰と話してるんだ?
(あー…なにやってんだよ勇者サン?)
「あ、ごめん。ちょっと【コマンド?】が勝手にムーンの考えてることを読み取るみたいになっててさ。」
コマンドってそんなことしたか?
あのスキルは所持者が望んだ情報をガラスみたいなのに写して読み上げてくれるもので、望んでない情報を見せるようなものじゃ…
【呼んだか?相棒よ。】
うおっ!?びっくりした。コマンドか?
【前々から居るであろう?】
いやー、喋るなんてこと今まで無かったからよ。
【まあいい、いつでも呼んでくれ。我は暇だからな。】
なんだこいつ無職かよ。こきつかってやるから覚悟しとけよ。
また勇者サンの謎が増えちまったなあ…