14.アクアサイド
痛っ!痛い?どうして?熱いじゃないの?
身体を起こして辺りを見渡すと溶岩が一面氷に覆われていた。
それに辺りを漂っている魔力がすごく減ってる。
どんな魔法を使ったらこうなるのかしら…ちょっとまって、ここで魔法を使えて、すごく強力な呪文を使えるのって…
私が上を向くと、勇者様が落ちてきていた!
あわわわ!!!!大変!えっとえっとこういうときは!【風呪文】!
勇者様を中心に風の渦を展開してゆっくりと氷の上に着地させた。
外傷は無いけど、MPが著しく減ってる。勇者様が呪文を使ったのかしら?とりあえず【小さな魔法薬】を使っておこっと。魔力の欠乏は命に関わるからね気休め程度だけど。はあ、ちょっと疲れちゃった。ある程度登ってからキャンプを開こっと。
勇者様を背負って坂を登った。そういえば、ムーンはどこへ行ったのかしら?勇者様に【のりうつる】したままなのかなあ?
(ううっ、力入んねえ…)
あれ?ムーンの声?
「ムーン?勇者様は?」
(そういえば、同調したまんまだったな。【コマンド?】…しばらくこのままだな。)
ため息と一緒に体重が少し重く感じた。
「どうしたの?」
何かあったのかしら?
(今、あたいと相棒は【半分きぜつ】っていう【同調】の副作用状態になってるんだ。相棒が起きるまでこの状態で待ってないといけねえんだ。ったく…でもこの状態も悪くないな。)
「どうして?」
そう聞くとムーンは背中から私の身体をハグした。
「ふえっ!?」
ムーンがするとは思わなかった予想外の行動に驚いて思わず声を出してしまった。
(あっ、わりい。生きてるヤツの温もりってこんなものなんだな。ゴーストだから知らなかったけど。誰にも触ったことも触られたことも無かったから…すっごく落ち着くな。)
そうだった。魔王に作られて、ドラゴンを暗殺して、怪盗もしてたらたとえ【のりうつる】したとしても、誰かの温もりを感じることはほとんど無かったはず。
「ムーン…ふふっじゃあ私があなたの温もり第1号かしら?」
(ふっ、かもな…)
あれからしばらく歩いて洞窟の出口まできたけど、外は夜で危険だから手前にある横穴で夜を明かすことになった。それまでに勇者様は全く起きる気配も無かったけど。
「ふあ~あよく寝たー。」
大きなあくびと伸びをしてのっそりと起きる勇者様は
(さっさと起きろよバカ。もう出口だっつーの。)
と霊体に戻ったムーンに怒られていた。やっぱり仲がいいと横から見ていた私は少し笑ってしまった。
「そういえば、溶岩はどうなったんだ?」
(そこから見てみろよ。観光名所間違いなしだ。)
と、溶岩の表面が全て凍った洞窟の底を指した。まあ確かにそうね…世界中のどこを探しても魔力の動きが止まった溶岩なんて存在しないもの。一応標本も取っておいたし。
「こう見ると、とんでもないことをやらかしてしまった気がする…」
底を見ながら冷や汗を滝のように流す勇者様。まあ、普通出来ないから誰もやろうともしないしね。
「さてと、明日から忙しいわよ!たくさん食べて明日に備えましょ!」
勇者様の【ぬののふくろ】から【干した肉】と【飲める水】を2つずつとりだして勇者様に渡した。
「サンキュー。」
サンキュー?
勇者様が言った言葉の意味が分からず、首をかしげた。
「あっ!えーっと、『ありがとう』って意味だよ。記憶じゃあ違う国の言葉…だったはず。」
また、勇者様から冷や汗の滝が流れた。
「ふふっ、そんなにごまかさなくていいのに。」
「うう…」
勇者様はあざとく肉を噛んだ。それを見て自然と笑みがこぼれた。
…次の日
そろそろ起きないと…
ぼんやりとした視界がはっきりしてきた。
勇者様?
「起きたかい!眠り姫!」
「ひゃいっ!」
大きい声で呼ばれて思わず変な声を出してしまった。勇者様は絶対こんなことしないはずなのに…
「アッハッハッハッハ!!びっくりしたかい?」
そのしゃべり方!ムーンあなたね!
すると、勇者様からすうっと赤いモヤが出てきてムーンになった。勇者様はムーンが出た後にうなだれて、すぐに顔を上げた。
「もう!ムーンやめろよ!アクアがびっくりしちゃったじゃないか!」
勇者様は私を驚かせたことをムーンに怒った。そりゃあやりたくないことを無理やりやらされたんだから、当然怒るわよね。
(いいじゃねえか別に、減るもんじゃねえし。)
ムーンは呆れたように言い返した。
「減るよ!寿命とか!精神的に色々と!」
うーん、それは現実的にどうなのか分からないけど…
(んなもん減るか!減っても全然減らねえだろ!それかあたいと一戦やる気か?勝敗は目に見えてるけどな。)
ムーンは上から目線で勇者様を見下した。
ムーンはどうしてそうなっちゃうのよ…
「あの…もう外に行かない?」
早めに外に出てキャンプを開ける場所を探さないと。
「上等だ!やってみようじゃないか!やってみなきゃ分かんないだろ!」
勇者様はムーンに強く反論した。
「二匹とも…そろそろ怒っていいかしら?」
キレる寸前で思いとどまった。
(じゃあかかって来い!)
二匹は距離をとって勝負をする体制をとった。
「いい加減にしなさい!二匹とも!」
いよいよ堪忍袋の尾が切れた私は二匹を杖で思いっきり打ち上げて壁にめり込ませてしまった。
あっ、やりすぎたかも…