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奥の手

 四箇所の風の刃の輝きが強まり、そしてその風の刃に囲まれた地点に暴風が吹き荒れる。


「がっ!? ぐぉおっ!」


 魔獣は何とか地面に踏ん張っていて、その場から動けない様子だった。

 なお、レツも前のめりに倒れて動けない様子である。


「今回は対象が人じゃないからな……全魔力を注ぎ込んだ最大威力だ。もって三十秒あるかだ……頼んだぞ」


 レツの表情からその意図をくみ取りカンナは小さく頷く。


「任せて」


 それからカンナは魔獣に向けて十枚の紙を一列に浮かべた。その紙にはそれぞれ違う魔法陣が描かれている。

 それを横で見ているクウは驚愕の表情を浮かべた。


「それは!?」


「うん、【開闢】の開発した技だよ」


 弱いとされてきた魔銃の印象を変えた【開闢】の必殺技である。天才である【開闢】は独自に魔銃を改造し、非常に汎用性の高いものにしていった。

 しかし、それでもどうしてもだせないものがあった。それは圧倒的破壊力。

 天才である【開闢】は考えた。そして一つの方法を導き出す。


 人は魔法を発動するとき、脳内で様々な処理を行っている。

 何を使い、何を起こし、何がしたいのかを考える。それからそれらを体内の魔力で形作り、事象として発動させる。


 【開闢】はそれを体外で発動させることを考え、処理を刻んだ紙を考案した。

 次はその処理をどのように発動させるか、その答えが【開闢】の代表的な発明、魔法を導く弾――魔導弾である。

 魔導弾が生み出した破壊力は圧倒的だった。予め処理を一通り準備しておくことができるため、人の脳内では処理に限界がある魔法も発動でき、体外で発動することができるため空気中の魔力を使えることで、圧倒的破壊力を生み出すことに成功した。


「でも……」


 心配するクウ。それもそのはずだった。

 この魔法の発動は大きな欠点があった。処理を刻んだ紙を正確に設置しなければいけない点である。失敗した場合、暴発して事故になりかねない。

 そのため、【開闢】の天才性があってこその技だった。


「心配しないで、そのために時間を稼いでもらったのよ。【開闢】のみの技と扱われているけど実際はそうじゃないの。一般人が使うと準備に時間がかかり過ぎちゃうの。だから実質【開闢】だけの技と呼ばれているの」


 確かに説明だけ聞けばそれっぽい。

 だが一つ納得がいかない点がある。話を聞いていたルドガーがそれを言う。


「時間がかかり過ぎちゃう? お前、一分程度で準備してなかった」


「本物は百枚とか使えるからね。対して私は十枚……それだけよ」


 カンナはそれだけ答えると、話は終わったとばかりに魔銃の引き金を引いた。


「《コメット・バレット》!」


 放たれた魔導弾は紙を貫いていく。貫かれた紙は空中に魔法陣を描く。そして最終的に魔導弾は十個の魔法陣から放たれた彗星のようになった。

 魔導弾は青白い尾を引きながら魔獣に突撃していく。そして魔導弾の纏った魔力が魔獣を飲み込んでいった。


「ぐぉぉぉおおおおおおお!?」


 その光景を全員が感嘆した様子で見ていた。しかし、すぐに彼らの顔に再び驚愕が描かれる。

 ボロボロになりながらも魔獣がまだ二本の足で立っていた。


「……嘘でしょ!?」


 信じたくないと言った様子のカンナ。


「それでもかなり弱体化し……マジかよ!?」


 自信づけるように言うルドガーだったが、魔導弾を撃ったカンナ目掛けて走り出した魔獣の足は衰えることはなかった。

 ルドガーとカンナの顔は絶望に染まる。彼等にはもう打つ手がなかった。最強の盾は行動不能になるため、延命にしかならない。最強の技は通用しなかった。

 一人平静だったのがクウだった。


「私も奥の手を使うしかないようね」


「「奥の手?」」


 聞き返す二人。

 頷くクウの左手に赤、青、緑、黄の魔石(魔力の結晶)が握られている。


「カンナに負けてられないからね。私も師匠の技を使わせてもらうわ」


 クウは笑顔で答える。

 これから何かすごいことをしでかそうとしているのは分かる。しかし、その顔はすごく安心感を与えるものだった。


「行くよ」


 クウは魔石をギュッと握って同時に砕く。するとそこから紫色の瘴気が上がり、やがてクウの全身を包む。

 それからクウは杖を両手で握り直し、杖の先を魔獣に向け、唱える。


「――光と闇、静と動、相反する二つの力交わりし時、絶対なる破壊を齎し、戦いの終焉を告げる。混沌の力をその身に刻むがいい! 《ジ・エンド》」


 魔法が発動するとクウに纏わりついていた瘴気が前方に押し出され一つの塊を作り出し、そこに光の魔法を上乗せし、作り上げられた白と紫が混ざり合う球体。そしてそれを魔獣を目掛けて一直線に飛ばす。

 一直線に飛ばされた球体は魔獣に命中すると、膨張し魔獣を包み込んでいった。


「がああああああああああああああああああ!!」


 《ジ・エンド》から解き放たれた魔獣は、今度こそ満身創痍だ。

 それを見た二人は開いた口が塞がらない様子である。


「いったい何だよあの魔法!?」


「私も見たことない……」


「それよりトドメトドメ」


 誤魔化すようにクウがトドメを刺しに行こうとしたその時だった。

 上空から声が聞こえた。


「お前らばかすかばかすか大技放ちやがって!! 俺にも何かつかわせろおおおおおおおおおおおおお!!」


 ルークである。

 ルークは炎を纏わせた剣を魔獣に叩きこみ、やつあたりのような攻撃で戦いに決着がついた。

 決着がついたところで、全員集まっての反省会である。


「しかし、なんなんだよアイツ! 強過ぎるだろ!!」


「まあまあ、大きな怪我もなかったわけだし」


 怒りをぶつけるルーク。苦笑いでそれを宥めるクウ。

 たわいのないやり取りに見えるが、それを見て考えている少年が一人いた。レツである。


(果たして怪我がないことを喜んでいていいのか? まるで奥の手をあると見抜いていた上で設定してきたような強さの相手だった。もし、僕たちが奥の手を発動していなかったら、大敗を決めていたはずだ。間違いない。これは奥の手を使わされた。今回はギルマスの企みのようだけど、これからはもっと考えるべきかもしれないな)


 考え込んでいるレツの肩をルドガーが叩く。


「なーに、考え込んでるんだよ! 今は命があったことを喜べ!」


 確かにルドガーの言う通りかもしれない。

 冒険者は命がけの職業であるのだ。それで死ななかった、今はそれに感謝するべきだ。


「あ、ああ。そうだな」


 そう言って微笑を浮かべたレツの顔を見て、今度はルドガーが考えるような仕草を見せた。


「なあ、お前のゴーグル外させてくれ」


 ルドガーの一言に全員の注目がレツに集まる。


「私も気になります」

「そういや戦闘時以外もかけてるよな。何か秘密が……」

「中立の立場でいようと思っていたけど、今回ばかりは私も……」


 見つめ続ける四人。

 それに危機感を感じたレツは逃げ出した。


「これだけは譲れないからなぁ!!」


 その後何とか事なきを得たという。


△▲△▲△


 離れた位置からレツたちの戦いを見ていた人影があった。

 その男は右耳に手を当て、小声で誰かと念話している様子だった。


「あんたの予想通りあいつら色々使ったよ。模擬戦で見せてくれた暴風陣はもちろんとして、カンナは《コメット・バレット》だ。そしてクウは……《ジ・エンド》を使った」


 そう、男は【月夜の騎士】のメンバーである。念話の相手はもちろんカマルだ。


『ご苦労だった。……ってクウは《ジ・エンド》だとぉ!? ……いったい何者だあいつは!?』


 新人たちは《ジ・エンド》を知らない様子だったが、二人のように経験を積んだ冒険者ならその存在を知っている。

 《ジ・エンド》は存在こそ確認されているが、その使い手は不明のままだった。一説には素顔と名前を明かしていない二人のランク10冒険者の一人ではないかとまで囁かれている。

 発動難易度も非常に高く使い手はそう現れないと思っていたが、新人が使ったというのだ。驚くしかない。むしろ驚きを通り越して笑えてくるレベルだ。


「俺だって知りたいさ。で、あんたはどうするつもりなんだ?」


『想像より強い力を持っていることを知ったからな、計画を少し早めることにした。今年こそはナンバーワンギルドに!』


「そうだな。それじゃあ失礼する」


 彼はフッと笑うと念話を切り、帰路につくのだった。

 ギルドはギルド対抗戦に向けて動き出す。

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