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初めての依頼

 鐘の音が時間を教えてくれる。


 一度目の鐘は完全に陽が昇って朝を迎えてから。

 二度目の鐘はそれからもうしばらくしてから鳴らされ、仕事の合図としているところは多い。【月夜の騎士】も例外ではなく、時間指定が二度目の鐘だったのもそうした理由からだった。


 二度目の鐘が鳴る前に新人たちは全員集合しており、鳴ったところでカマルもやってきて説明が始まる……と思いきや。


「新人だけでパーティーを組ませることになるから、念のために改めて君たちのステータスを見たんだが、特に問題はなさそうだな。ただ、レツくんだけが持っていたあるステータスが気になるんだが」


 カマルがステータスについて語りだしたではないか。

 このあと出発だというのになんてことを言ってくれたんだ!! レツとしては苦笑いするしかなかった。


 かわいさMAXという意味の分からないステータスは、可能な限りバレたくない。焦るレツと何だろうとレツに注目する新人たち。

 この状況を見てか、カマルは補足する。


「あ、いや。当然個人情報だから他のメンバーには明かさないぞ。トップスリーギルドの信頼にかかわる問題だからな」


 一応良識はあるのかとレツがホッとした束の間だった。


「いやーレツくんの素顔を見たいなぁー?」


 笑顔を作ってレツに顔を近づけるカマル。

 作った笑顔が不気味すぎる。嫌な予感しかしなかった。


「うわぁぁあああああ!!」


 声を上げて逃げ出すレツ。《ネオ・アクセル》発動済みである。

 逃げ出すレツを見て、カマルは不敵に笑った。


「逃げ切れると思うなよ? 付与――対象は自分自身――運動能力アップ・思考速度強化・加速・火属性――以上」


 大人げなく自らに付与魔法を重ね、その身体はうっすらと赤く輝きだす。


「待てぇぇえええええい!!」


 それから追いかけだす。

 あっという間にレツは追いつかれ、それからの様子は新人たちも見ていられないものだった。


「……冥福を祈るぜ」

「私たちこのあと仕事のはずだよね……」


 それからボロボロのレツをずるずる引きずってきたカマルは、ドン引きしている新人たちに待っててねと一言言うと、レツを連れてギルドの一室に入って行った。

 自分以外にはちゃんと見せないように配慮する武士の情けであった。


 それからしばらくその一室からは高い声やすごい絶叫が聞こえ、肉体の傷こそは回復してもらっているもののかなり疲れた様子のレツが出てくる。


「この世の終わりを見た……」


 その後ろにはカマルが抱き着いている。

 さっき部屋から聞こえた声といい、やつれた様子のレツといい、抱き着いているカマルといい、新人たちは思わず叫んでいた。


「「「「何があったー!?!?」」」」


「少し可愛がっただけだよ。しかしステータスにも納得だ……。やばかった……。本当やばかった」


 この時のカマルはこれ以上にない緩みきった顔をしていた。

 それを見て新人たちは気を付けようと誓うのと同時に、ここまでカ豹変させたレツの素顔を見たいと思ったことは言うまでもない。



 その後なんだかんだで新人たちは説明を受けた。内容はこうだ。


「依頼の内容なんだが、隣の街エウロスに行くまでの途中の岩山に、そこそこ強い魔獣が住み着いたらしくて色々と困っているらしい。その魔獣を倒してくれとのことだ。特徴をまとめたものを後で渡そう。倒した証としては適当に目立つ部位を切り取って、エウロスにあるギルドの支部に行ってくれればいい。あとは街で自由にしてていいぞ」


 そしてすぐに準備に取り掛かる。


 基本装備はもちろんとして、もしものために備えた薬なども用意。

 距離の確認をし、夕方にはつくだろうと判断。持ち運びやすい簡単な昼食を購入。

 宿泊が必要になった時の備えも完了。


 作戦などについては道中で話しながらでも問題ないからため、荷物の準備を終え次第、彼らはすぐに出発した。

 冒険者として初仕事ということもあってか、彼らの足取りは軽やか。中でも、レツは見ているだけでも楽しそうなのが伝わってくる。そんなレツの様子をクウがくすりと笑う。


「楽しそうだね」


「そうか?」


 聞き返すレツだが、その口元は緩んでいるように見える。

 それもそのはずだった。


「まあでも正直他の街に行けるのが楽しみだよ。ヴァーユに引っ越してくる前もあまり外には行かなかったし、引っ越してきた後も冒険者目指して勉強の日々だったからな」


「あんまり外には出てなかったのかな?」


「そうだな……ひ――じゃなくて街周辺で狩りはしていたから、家の外には出ていたかな」


 興味深げに聞いてくるクウに思わず引きこもっていたと答えそうになったが、何とか誤魔化すレツ。《ステルス》習得後なら狩りをしていたから、嘘ではないと自分に言い聞かせていた。


 そのようなレツの話を聞いていたルークは、景気を付けるべく言う。


「それならさっさと依頼の魔獣を倒して、街を満喫しないとな!」


「「「おー!!」」」


 レツを除くみんなもその言葉に同意し、声を合わせた。

 思えば人の優しさを受けるのも久しぶりかもしれない。少し遅れて照れ臭そうにレツも続いた。


「……おー!」



 それからも途中で昼食休憩を挟んだりしつつも道を進んで行き、いよいよ依頼の魔獣討伐と対面である。

 魔獣の姿が見えたところで、全員が足を止めていた。


「確かにあんなのがうろついていたら困るだろうなぁ……。でもあれを新人に倒せると思う?」


 恐る恐るルドガーが聞くと、全員が一斉に首を振った。

 見えていたのは全長5メートルほどの二足で歩く恐竜。ただ歩いているだけでも、先が金槌のようになっていて特徴的な尻尾や足が辺りの岩を破壊していく。

 どう見ても強い。


「だよな。でも……」


 言いながらルドガーは紙にまとめられた特徴と相手を見比べていく。

・尻尾が金槌みたい

・トカゲっぽい


「どう見てもアイツだー!!」


「騙したなあの野郎!!」


 思わず叫ぶレツだが、よくよく考えてみれば、あのギルドマスターのことだから何もおかしくはない。こちらの警戒不足かもしれない。


 ギルドマスターはこう思ったのだろう。ステータスだけで言えば全員ランク3並はあるから、敵が少しくらい強くても何とかなるだろうし、修行になる。

 だが流石に勝てる気がしないし、死んだらそれで最後だ。

 ルークが言う。


「今回は諦めようか……?」


「「「「異議なし」」」」


 全員の意見が揃ったところでこっそり引き返そうとすると、恐竜がこちらを睨み咆哮を上げた。

 そして迫ってくる。


「バレてる!? どうしよう」


 パニックになりそうなカンナ。

 勝てそうに無さそうな相手に追いつかれそうなのだ。仕方がない部分もあるだろう。

 しかし、冷静さを欠いてこそ自分達の死が確定する。

 それが分かっているレツが声を上げた。


「このままじゃいずれやられる。こうなったからにはやるしかないでしょ! 何のために作戦を立てて来たんだ!?」


 状況が状況だ。全員それに賛同した。


「どうせ死ぬなら一矢報いてやりたいもんな」

 とルーク。


「分かった……。戦うよ」

 とカンナ。


「どこまで俺の盾が持つか分からないが、やってみせよう」

 とルドガー。


「回復も任せておいて」

 とクウ。


 全員が恐竜の方に振り返った。

 それから、レツの掛け声とともに魔獣に向けて走り出す。


「行くぞ!!」

昨日投稿できなかった分です。

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